大団円)こ、これでやっと、ハッピーエンド?! 私、幸せをつかむのね、子供たちとーーーっ!!!

「皆さん、聴いてください」


 って、何度もいわなくても……。


 落ち着け、私。

 がんばれ! ファイト!!

 深呼吸。

 スーハー、スーハー……。


 心のなかでなら、誰にもばれないから、いくらでも何でも、どんなことでもいえる。昔からそれは同じ。

 聖女さまの姿ならとりつくろったことも信用してもらえる、スキルもあるし。

 でも、中身は私。

 何も変わらない。


 そう、あの時も……。


 また現実逃避? っていうな!

 ちょっとくらい、聞いとくれ!!

 どん底どろどろの回想も共感してくれたらきっと、私を応援しようって気になるから。ちょっと、ちょっとだけ、もうちょっとだけぇ……。


 って、誰にいってんだか。

 と、ともかく……。

 

 あれは小学校の5年生。

 二学期始まり、夏休みの班別自由研究の発表会。

 それは私もなんとか班のみんなについて回って、みんなでいいものになったねって。

 で、その発表は一人ずつみんなでやるんだけど……。

 私の番。

 もう……。

 見知ったクラスの前なのに、それなのに、人の視線に耐えられずうまく話せなくなった。

 最後はうずくまってしまって、泣き出して。何故だか「ごめんなさい、ごめんなさい」って、繰り返すだけ。くすくす笑う声が耳に入り込んでくる。先生には心配されたけど……。同じ班だった子たちからはハブられた。「せっかくうまくいってたのに、あんたのせいで台無し」だって。他の班の子からは、ずっとからかわれていた。それからはしんどい5年生だったなあ。それでも学校に通い続けていたのは、我ながら図太いとは思うけど。


 あれが私の陰キャを決定付けたんだ。

 私の原点、その二。


 もう絶対、前には出ない、そう決めたんだ。


 そんな私が……。


「私たちは敵ではありません。オークも決して、人にあだなすものではないのです」


 必死で訴える。

 舞台の中央で。

 スキルも何も関係ない。


 分かってる。

 今は選択肢を間違っていないだけ。

 正解だからって、うまくやれるわけじゃない。

 ほら、逆上がりのやり方わかっていても、だからってできるってわけでもないじゃない? 得意なお菓子作りだって、レシピ通りにやっても失敗することはあるじゃない? 成功して初めて、正解になるんだ。あの発表会と同じで。

 

「私たちはあなた方の敵ではありません。決して、誓って。それは昔から。シスターパトリシアはオークたちもまた、あなた方を守るのと同じく、守っていたのです」


 訴える目は、力強く。

 真実なんだから。


「みなさん、恐れることはありません。むしろその恐れこそ、平和を乱すのです。私はそれを訴えに、神につかわされたしもべなのです」


 うげえ、あのじいちゃんのしもべなんて。

 口が腐ってもいうもんじゃないわあ。

 でも、天使のために我慢、我慢。


 みんなといっぱい打ち合わせした。

 これは絶対、正しい道。

 チャイムがいうんじゃない、みんなで決めたんだ。

 あとは言葉に力を込めるだけ。


「争いは止めましょう。憎しみは無知から生まれるもの。無知は、不要な争いを招き、傷つかなくてもいい人が傷つきます。みなさん、私たちを知ってください」


 私は説いた。必死に。聖女さまの仮面もかなぐり捨てる勢いで。

 きれいな人って、それだけでなんか説得力あるじゃない? 最初はそれを生かしてすましていたけど、もうそんな余裕なんてない。

 セシルさんも、サリーちゃんもジョン君も、みんなみんな、最後は「信じて!」って、必死に訴えて手伝ってくれた。オークだって、自分たちは無害だって身振り手振りで。


 しーんと静まり返った。


 嵐の前の静けさ?

 沈黙が、針で刺されるほど痛い。


 正解も不正解の音もない……。


「な、なあ、俺たち何か間違ってないか?」


 一人の男の人が、ついにそれを言い出した。


「な、なにを! あの魔女に何をされたか忘れたのか!」

「あんた! あれはあんたがイタズラしたからでしょうが!」


 ざわめきが引き潮に変わる。


「子供のいたずらだっただろうが……」

「度を越えていたよ、あれは! だからパトリシアさんは!」

「いや、それは、なあ? 悪かったって。あの時のばあさんの勢い、おおこわ……。思い出しただけでも震えるから、俺は改心してだなあ」

「だったら、感謝しこそすれ、シスターを悪くいうことなんてないじゃないかい!」

「そ、そうはいうけど、母ちゃん……」


 引き潮は、押し寄せるそれより強い。


「オークもさあ、見た目あんなんだけど、ほら見なよ、小さな子がすがり付いてる。それをかばっている。根はいい人? なんだろうね」

「子供たちまでも邪険にするもんじゃないよ、一緒くたにして」

「それは、俺も……」

「おまえっ! 日和見で、風見鶏で、強いほうに行くばかりじゃねえか!!」

「い、いや……、そ、それは……」


 引いていた波が返ってきた。

 怒りや恐れで真っ赤になっていたのを沖へと押しやり、今度はもっと大きく、代わりに爽やかな青を引き連れて。

 村のみんなが私たちを見る目、心なしか、ううん、確かに優しくなってきている。


「見なよ、あの子を。誰かに似てないかい?」

「あの聖女さま? そういえば……。若いころのシスターパトリシア?」

「そうそう! それで俺は、魔女の復讐、再来だと……」

「でも、あそこまでバインバインじゃなかったけどねえ」

「違いねえ」


 ハハハハって、笑い声が……。

 私、やっぱりシスターに助けられているような。

 すっごい人に似ているからこそ、信じられているのかも。


 シスターパトリシア、あなたこそ立派な人です。

 あなたの善意が今こそ通じたのです。

 〈「聖女の言葉」〉なんて超えるんです。

 ほら、セシルさんも「うんうん」って、ぽろぽろ泣いてる。


「でもよぅ、あのばあさんに痛い目みたのも間違いないだろう?」

「薬の実験? あれはひどかった」

「はやり病の時だろう? 子供たちは森に隠して、私たちには……」

「そうそう。みんなシスターの薬で助かったけど、眠れなくなったり、へんにハイになったりさあ」

「栄養剤だって渡されたもの畑にまいたら、うねうね麦が動き出して村中ひっくり返ったこともあったなあ」

「変なばあさんだった。うんうん」


 ん?

 ううん?


「オークもなあ……」

「話し合おうって来た時、確かに俺たちは今みたいにおびえて、聞く耳持たなかったかもしれねえが……」

「ああ。もういい! って、短気起こして、俺たちにあの時……」

「そうそう! 薬爆弾? あの後、三日はからいわ、くさいわ、かゆいわ……」

「偏屈なばあさんだった」

「もうちょっとかわいげあればねえ……」

「ま、昔から変わらなかったがな」

「私が子供のころからねえ。むすっと、笑った顔なんてほとんど見たこともない」


 あ、あれ?

 セシルさんやっぱり、「うん、うん」って、これも事実?

 子供たちも苦い顔してるけど……。

 え? 本当のこと?


 ま、まあ、シスターパトリシアが変わり者だったのは分かった。

 私が思っていたほど、すっごくいい人ってわけでもないって。

 結局、それが話をややこしくしていたってことも……。


 ……。


 これだから、年寄りはっ!


 シスターパトリシアのほうが私よりよっぽど、性格ひねているじゃない!


 なんか、上からニヤニヤされてるみたいで気分悪い!!


〈カラーン、コローン! カラーン、コローン!!〉


 祝福のチャペルの鐘の音が、私の頭に鳴り響く。


 うっさいわ!!


 肩の力抜けたわ!

 偉いシスターの代わりが務まるかって、どっかで力入ってたけど。

 もういい!

 尻ぬぐいはした!!

 私は私で、これからは好きにやってやる!

 子供たちの楽園の中心に居座ってやるぅっっーーーーーーっ!!



 そして教会の私たちは、村と、オークの牧場と、交流を始めた。


 森の教会はそのままに。

 そこから教会の子たちはそれぞれに通うの。


 オークたちは新鮮な牛乳とか、卵とかを提供。労働力になってくれることもあるし、危険なところへは用心棒としてついてきてくれる頼もしさ。

 村は農作物、さらにオークの牧場からのものを合わせて町へ。

 私のお菓子も大人気! ほんとよ?


 村は栄えていく。


 私はといえば、もちろん、子供たちに囲まれ、子供たちの尊敬の目も集めて!

 なんか、村の相談役みたいにもなっちゃった。

 聖女さまの仮面、まだはがされてないみたい。


 よっしゃあっ!!


 天使たちに囲まれて、ハッピーライフ!!


 これよ、これ!

 これこそが、私の望んだ楽園よね!!


 みんな、みんな、愛してるっ!

 私はここで生きていく!!


【おしまい】

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私が聖女さま? 子供好きなだけの、ただの女子高生の私が異世界では聖女さまっ?! @t-Arigatou

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