part.2 迷宮攻略①

 その後も、現れる怪物たちを物ともせず一撃で倒しつづけていく姉弟。

 僕やネイアの出番はなく、順調に進んでいく。

 迷宮の外にいる怪物と戦えるという実力に偽りはなく、余裕ではあるものの油断は感じられない。

 ……この調子ならあっという間に、迷宮を攻略することができるだろう。


 とはいえ、今日の案内は一階層まで。

 実戦経験と、迷宮の空気に慣れてもらうことが目的なので、あまり奥まで進むことはできない。


「それじゃあ、そろそろ切り上げましょう。二時間は迷宮に潜っていますし」

「そう? まだいけるけど……」

「……まあ、僕もそう思うんですけど、依頼内容は一階層の案内と連れて帰ることなので」


 僕としては、このまま進んでもきっと大丈夫なのでは? と思うほどの実力者だけど、依頼は依頼。

 今日はもう少し先に進む予定の僕らからしたら二度手間だけど、一階層の往復くらい訳ない。





「ところでノゥスくんって、迷宮に慣れているように見えるけれど冒険者になってから長いの?」

「? あー、そうだな……まあ、長いと言えなくはないけれど」

「じゃあ、迷宮攻略も進んでいるのかしら」


 帰り道。

 モネアからいきなり質問をされる。

 確かに冒険者になってから、日は経っているけれど……浅い階層で躓いて燻っていただけだし。

 そもそもベテランと言われる人たちは都市に滞在しているよりも迷宮に潜っている時間のほうが長いと言われるほどだ。


「僕はこの階層から上に行けなかっただけだよ。実力不足で、ここに居るしかなかっただけ」

「そうなの? そんな風には見えないけど……」


 僕の答えに首をかしげるけれど、事実だからどうか納得してほしい。



 それから特に会話もなく進んでいき――


「あ、そろそろ出口に着くよ」


 迷宮の出入り口に辿りつく。

 そこで姉弟とは別れるのだった。





 二人を迷宮の外まで送り返したあと、改めてネイアと二人で迷宮に潜り直す。


「じゃあ、気を取り直して攻略再開と行きましょうか」

「おー!」


 やたらとネイアのやる気が高いのは、さっきまで出番がなかったせいだろう。

 あの姉弟はとにかく強くて、ほとんど僕たちの出る幕はなく、腕ならしすらもできなかった。


 その鬱憤を晴らすかのようにどんどんと突き進んでいく。


「はぁっ!」


 会敵する怪物を倒しながら、僕はようやく冒険者らしいことができることに感動していた。

 今までは慎重に逃げながら、立ち向かっていたのに今では歯牙にもかけない。


 力が有り余るような感覚に戸惑ってしまう。


 ……自分が強くなることを実感するのはこんなにも嬉しいことなのだと知った。


 妹を助けることはもちろんだけど、この力で自分はどこまで行けるのか……純粋に試してみたいと思ってしまう。





 迷宮攻略は始まったばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『番狂わせ』な迷宮トラベラー ~不治の病に罹った妹を助けるために迷宮を攻略していたら記憶喪失の女の子を拾ってしまった~ 天兎クロス @crossover

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ