エピローグ

すべてが終わったあと。


白籠さんは当初より多めに依頼料を払うと言い出した。大したことはしていないと断ったけど、気持ちだからと押され結局受け取ることにした。


‥‥正直、電話代ぐらいは何とかしなきゃだもんね。


私は深呼吸をして事務所のドアの前に立つ。


‥‥よし!


バタン!


探偵長!!只今帰りましたぁ!!


‥‥あれ?探偵長そんなに息を切らしてどうしたんですか?まるで急いで駆け込んだみたい。


「な、何でもねぇ‥‥ちょっと体が鈍ってたからトレーニングしてただけだ」


もう、また無理して。病院にカムバックキャンペーン発令ですよ?


「‥‥それはどこから突っ込めばいいんだ」

「にゃおん」


あっ ネモさんもいたんですね!只今帰りました!

あと探偵長、今回の報酬です!

しっかりきっちり依頼を完了してきました!!


「ああ。良くやったな」



「‥‥俺は人形劇なんて見ないからな。今回はアズサの方が適役だったかもしれねぇ」


えっ?なんか言いました?


「いやなんでもない」


‥‥?

‥‥あっ!探偵長、またポストに手紙が溜まってるじゃないですか!


「どうせ請求書だろう」


そんなこと言って依頼だったらどうするんですか!


そう言いながらポストをあさる。すると、見たことのない綺麗な封筒がひとつ。


ほら!これなんてそれっぽいですよ!


そう言って手渡すと、探偵長はじっくりと注意深くそれを観察してから封を開けた。

‥‥あ、ちょっとかっこいい‥‥


そして中の便箋に目を通すと‥‥


「‥‥」


なんとも言えない顔をして手紙を私に返してきた。


‥‥?


何が書いてあったんだろう?


中を見ると、まるでペン字のお手本のような文字がつらつらと並んでいた。


『Hello,ネームハンター。今回緊急時につき特例で電話をお繋ぎしました。その際、特別料金が発生しましたので請求させていただきます。


電話の嬢』


同封されていた請求書らしき紙を見ると‥‥


‥‥ほとんど今回の報酬金額と同じじゃないですか‥‥


「なに‥‥この街の住民を一人救えたんだ。いいじゃねぇか」


探偵長が空々しく言う。

ふわわわ、とソファーで黒猫姿のネモさんがあくびをした。



数日後。


白籠さんは風見鶏さんと連れ立って旅に出たという。

花でいっぱいになった鳥籠に小鳥は結局戻らず、風見鶏さんのそばでときたま歌っているらしい。

時計卿はしばらく落ち込んでいたようだけど、大丈夫だろうとガスランプさんは言った。

あの甘い香りを漂わせながら楽しげに歩く白籠さんが想像できた。風見鶏さんはすごく鈍いけど、きっと大丈夫‥‥そんな気がした。


『愛しい愛しい愛しいあなた

青く輝く空の下

二人で一緒に手を繋ぎ

どこまでも行きましょう』



『どこまでも行けるでしょう 二人なら』



私の名前は橘梓。

この街じゃちょっとは知られた名前捜索事務所の主任捜査員。

名前捜索とは何かって?

お答えしましょう!


いつからか、この街では人や物の名前が逃げて勝手に動きまわるようになってしまった。

名前がなくなると、この世との因果が薄れてやがて消えてしまう。

それを助けてくれるのが私と、我らが探偵長『七篠権兵衛』ってわけ!!


この街は不思議なところ。名前も心も迷子になる。

だけど大丈夫!私達名前捜索事務所のメンバーが、確実に必ず100%あなたの名前を見つけてみせます!


さあ!今日もカラフルでラブリーな一日がラテンのリズムで私を迎えに来たわ!!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

白籠の @soundfish

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ