第42話 シメのラーメン

 目が覚めたついでに謝砂は二日酔いに作っていたもやしのスープかあっさりとした醤油ラーメンが恋しくなった。

 規則正しい寝息を立てる爛を起こさないようにそっと部屋から出た。

 厨房に行くと綺麗に片付けられていていたが、なんとなく探していると素麺のような麺もあり、昆布や煮干し、椎茸に干しエビも揃っている。

 朝の支度前らしく色々と準備はされているが料理人の姿はいない。

 釜も見つけられた。ガサガサと探すと茶色のかめに深皿がかぶせられていた。

 皿を開けると中にもやしがびっちりと育っていた。

(食材も見つけたし鍋もラーメン風も両方作れる)

 包丁は中華包丁しか見つからず、勝手に使うのは気が引けて部屋に剣を取りに戻った。

 剣で食材を刻んで小皿にわけて並べた。あとは入れるだけで薪を竈に入れる。

「火はどうすればいいんだ? 火が怖くてつけれない」

「私がつけるよ」

 爛は竈にシュッと火符をとばし火をつけた。

 爛も酔いが覚めきれてはなくぼーっとしたまま入口の柱にもたれていた。

 謝砂は立ち上がると爛をほっといて料理に戻った。

 爛は自分の役目は終えたらしく謝砂を眺めている。

 謝砂は釜ににぼしに昆布と水を入れて沸かした。

 もう一つの釜には昆布と干し椎茸、干しエビをいれてぐつぐつと煮る。

 醤油で味付けし麺を入れて少しとろみがついたラーメンもどきが出来た。

 チューブのにんにくをいれると美味しいらしいが皮向きも面倒だし好き嫌いで入れてない。

 もやしのスープ鍋も昆布は取り除き塩で味を整えてもやしとねぎを入れ作った。

「大量だな」

 湯気がもくもくとたちあがる。

 釜に合わせて作ったせいでスープ鍋は十人前ぐらいありそうだ。

「材料が豊富でつい作りすぎた。お椀によそったけど唐辛子はいるか?」

「いらない」

 小鍋にもやしのスープ鍋、小鉢に麺を入れて盆にのせたが湯気を顔に浴びた。

 湯気で目の前が見えずぐらっと傾きスープがこぼれかけた。

 慌てて一旦台の上に置いた。

 爛がすっと謝砂からお盆を持った。

「危ないから私が運ぶ」

「爛は酒抜けてないだろ。落とされたら大変だ」

「心配ない。謝砂よりは真っすぐに歩ける。剣を持って歩けばお互い手ぶらではない」

 爛の言い分はよく理解できなかったが謝砂は手に剣を持って隣を歩いた。

 本人は否定するだろうが、まだ爛の酒は体から抜けずに残っている。

「じゃ、片付けるよ。食べたままだっただろう。食べれるように机だけでも綺麗にしないと」

「場所は開けてある」

「もう? 準備がいいな」

「うん。早く食べたくて」

 散らかっていた空の酒壺は窓際に一列に並べられいる。

 爛は謝砂が部屋にいないと気づくと部屋の中を探したらしい。

 なぜか戸棚や布団、帳などあちこちの布がめくられている。

 まるで猫のような扱いだ。

 置かれたくず籠や竹籠もひっくり返したのか横に倒されている。

「さすがにくず籠にいるわけないだろう」

 爛は卓において料理を並べて麺を啜っていた。

「美味しい」

「よかった。味見してないんだ。味が足らなければ塩か醤油を取りに行ってくれ。辛みが欲しかったら唐辛子を刻んだからいれればいい」

 謝砂は小鍋からもやしを箸でがばっと掴み爛の器に足した。

(二日酔い予防にはさっぱりがいいよな。肉は分からなくて入れなかったけど煮干しだけだ。なのになぜか海鮮の味がする。なぜだろう?)

 汁を飲むが酒で味覚が鈍いのだろうかと謝砂は眉を寄せた。

 爛の反応が気になってみるが爛は鍋の汁を飲むと満足そうな笑みを浮かべる。

「そんなにうまい?」

「さっぱりしているこの味がいい。優しい味がしている」

「素朴だろう?」

「あったかくて心まで満たされる」

 爛は謝砂が作ったあったかい鍋と麺は心を温めた。

 爛が食べ終えると満たされたのか寝台へと向かいごろんと横になった。

 すぐにすぅすぅと寝息を立てた爛に布団を被せた。

 謝砂も腹を満たされると睡魔が襲ってきた。

 片づけをしようとしたが謝砂は壁に背中をあずけた。

 そのまま眠りにうとうとと落ちる。

 夢との狭間で招魂されて入ってしまった体に魂が落ち着いてしまったことを受け入れていた。

 ふわっと体が浮かび、重たい瞼をうっすらと開けた。

 寝入ってしまっていたらしい爛に抱えられて運ばれているらしい。

 運んでくれるなら大人しくしていようとそのまま体を預け頭を爛の胸にすり寄せてくっつけた。

「謝砂?」

 起こしたのかと思ったらしく爛が名前を呼んだ。

「うーん」

 話しかけるなという意味で不機嫌そうに返事をする。

「私を置いて消えないと約束してくれ」

 爛は謝砂を寝台に寝かせながら腕を背中に当てるように添えていたが抱きしめられる。

 返事をしないでいると爛はしめつけるように力を込める。

 謝砂は苦しくなってきて返事をした。

「…………うん」

 謝砂は鬱陶しくなってきて爛の手を敷いたまま横たわる。

 爛ごと隣に寝かせると寝返りを打ち抱き枕のように爛を抱きし片腕を掴み重石のように腹のうえに重ねた。

 謝砂は悪夢を見なくて済むと爛の温かさといい香りにつつまれるようにそのまま深く寝入っていく。

 怖い夢を見ないようにと爛は謝砂の額に頭をよせると腕を掴まれていた力が緩む。

「私は知古として必ず謝砂を守り生死を共にすると誓っている。安心しておやすみ」

 謝砂は幸せな夢をみているみたいだった。

 温もりが今は一人じゃなく安心を与えてくれている。 

 いまじゃすぐ隣にいることが自然であり離れられなくなっている。

 招魂者である謝砂と交わした約束を守りながら魂修復師への道を進んでいく。

 悪鬼、妖怪、精怪、謝砂にとっては恐ろしく怖いものばかりだがいつも爛のそばだけが怖くない。

 一番安らげる自分の居場所だと魂が教えていた。

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最恐が招魂されて霊力最強の魂修復仙師になりました 招魂されて蜘蛛宗主と呼ばれるまで 玲瓏 @syukusyuku

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