エピローグ:女帝


 何よ……まったく。


 ダンジョン対策部で優雅に午後の紅茶を飲んで、優雅に待っていたのにオーガたちがやってきていた。

 話を聞くとなぜかウィルがダンジョンの最奥にいたとのこと。


 あのバカ! 何してんのよ!


 私は肩を怒らせながらウィルがいるというダンジョンの最奥へ進んでいく。




 オーガたちに連れられ、たどり着いた私は困惑した。

 ウィルの背中には明らかに急遽、頑張って作りましたという感じの翼を背中にくっつけていたからだ。


 ウィルは私の視線に気づくと両手を空に向けて口を開く。


「我は天を堕とす者……ウィルシフェルなり」


 ウ、ウィル……ついにその領域に言ってしまったのね。


 私は大きくため息をすると、上を向いて片手で顔を覆う。


 はぁ、しょうがない子ね。

 臣下のためなら私もとことんやってあげるわよ!


 私は指の隙間から目を出す。


「オーホッホホッホ、『我! 神、也!』」



 絶対やりたかっただけですよね?

 ずっと、うずうずしてるの気づいていましたよ。



 そぉして! 必殺超奥義、神々しい私!


 解説しよう!

 必殺超奥義、神々しい私! とはマリーが神からもらった雷の天賦の才で、神々しさを演出するためだけに鍛えたピカピカ光る無駄な技だ!

 以上!



 私の体から大量の雷が放出されバチバチと音を立てると髪の毛が逆立ち、雷の翼ができる。


 ふっふっふ。ウィル! やるなら、こうよ!


「貴様ぁぁ、その言葉とその力! 真なる勇者と列なる、天なる者の使いか! 忌々しい! 我が黒炎よ……いでよ!」


 ウィルの言葉と同時に黒い炎が現れ、ウィルが黒炎を纏う。

 黒炎がブワッと飛び出ると、ウィルの背中にあった翼を燃やし尽くした。


「あっ! くぅ……よ、よくもやったな!」


 ウィルがちょっと半ベソかいてマリーを睨む。


「ふん。行くわよ、ウィル!」


 私は右腕を構え、神速で近づき……




 今、ラストバトルが切って落とされた!





 ◆◇◆





「あら? どうしたの、みんな」


 ダンジョンから出るとみんな困惑した様子をしていた。


 理由は簡単だ。

 筆頭オーガが、左頬がパンパンに膨れ上がっているウィルの足を引きずっていたからだ。

 それを見て正座している悪魔や魔物たちは血相を変えていた。


「ダンジョンは制覇したから、今後は私の別荘として使うわ」



 哀れラストダンジョン、誕生して数時間足らずで制圧されるラストダンジョン。

 グッバイラストダンジョン、フォーエバーラストダンジョン。



 マリーの言葉に誰も返事をしないことにアルの顔が見る見るの内に赤黒くなる。


「貴様らッッ、我らが覇神マリーお姉様を無視するだとッッ」

「無視するだとぉ!」

「「「も、申し訳ありません!」」」

「いいだろうッッ。全員ッッ、今日から騎士見習いとして揉んでやるッッ」

「揉んでやるぅ!」


 強面の大男たちは絶望したように次々に泡を吹いて失神した。




 ◆◇◆




 遠くから見ていた二人の転生者はドン引きしていた。

 魔王は世界を堕とす化け物だったはずなのに、それを数時間足らずでぶっ飛ばしたマリーにドン引きした。


 が、片方はすぐに顔を戻してニタリと嗤う。


「ケケケ。見てみろよ、教官たちの顔をあの絶望した顔っ!」

「あんた……本当、いい性格ね」

「うるせぇっ」


 エレナがアンデルスに呆れていると、ふと頭を傾けてつぶやいた。


「でも……あんなのが、魔王だったかしら?」

「ん? どういうことだ?」


 アンデルスは顔をエレナに向ける。


「確か……もっと陰のあるイケメンオーガだったはずよ」

「オ、オーガ? 名前は?」


 アンデルスはキョロキョロして「声を落とせ」とエレナに口パクした。


「何よ……コソコソして」

「それで名前は?」

「えーと……確かウォリュパツ? とかそんなちょっと可愛い名前よ」

「そ、そうか。イケメンで、可愛い名前か……」


 アンデルスの視線の先がそれはもう強く、マリーの背後にいる筋骨隆々の筆頭オーガに注がれているのはきっと気のせいだろう。


 そして筆頭オーガが力強く頷いて「サスガ、ワレラノ魔ノ神!」と言っているのも空耳だ。




 ◆◇◆




 ふぅ、運動後のクッキー最高ー!


 私がクッキーを堪能していると、コンコンッとドアを叩く音が聞こえた。


 はぁ、またぁ?


「どうぞ」

「失礼いたします、マリーお嬢様」

「あら? どうしたの? リヌ」


 侍女のリヌが入ってきた。


「皇帝陛下からお話がある……と、謁見の間にいらしていただけますか?」


 話? しょうがない、パパンだなぁ……。


 私は持っていたクッキーを口に放り込むとリヌの頬が一瞬ピクッと動いた。


「お嬢様……はしたないです」

「わかったわよ……次からしないわよ」


 んもう、最近リヌもママン見たくなってきちゃって、嫌だ嫌だ。


 侍女のリヌに連れられて謁見の間に向かう。


 ほいほい。なんぞや、パパン?

 今の私は少しスッキリしたからどんな話でも聞いてやろう!




 本当に皇帝陛下が父親じゃなければ、転生してすぐに処刑されてそうですね。




「うむうむ。今日も元気だのぉ、マリー。それで早速だが皇帝に即位しなさい」


 ん?


 私がどういうことか聞く前に柱や扉からお兄様やお姉様たちだけじゃなく皇妃様たちがゾロゾロ現れた。


 アルは縦も横も大きく、柱の後ろに隠れているつもりだったがマリーはアルだけは普通に気づいていた。

 というか無意識にシャットアウトしていた。


 第二皇妃のニノン様が頬に手をあてる。


「あらあら、初の女帝……いいですね。頑張ってください。マリーさん」


 な、なんのことよ!? 女帝になに!? パパンの冗談じゃないの?!


 流石に女帝という洒落にならない言葉に驚きながらマリーは第一皇妃ヴィオレットへ視線を向ける。そこには心底めんどくさそうな表情をして、もはや隠すつもりもないのか腕に抱えている子犬の魔物の頭を撫でながら、ぽつり。


「いいんじゃないの? 頑張りなさい」


 ヴィ、ヴィオレット様!?


「強い人が皇帝になるのは当たり前ですわ!」


 ぐっ、さすが第三皇妃のヴァネッサ様ね。

 あなたは最初から数に入れてないわ! でも私のママンなら、私が嫌だってわかってるはずよ!


 ママンを見るとニコニコしながら、目から光線を放ちまるでパワハラ上司のような圧をかけてきていた。


 マ、ママン?!


「応援するぞ、マリー!」


 セドリックお兄様……あなた長男なんですよ?

 応援するぞっておかしくないですか?


「陰ながら手伝います」


 陰って、ただでさえ陰気なのによくないよ!

 パトリックお兄様! 原作と同じのようにセドリックお兄様と皇帝争いでもしてよ!


「マリーが女帝なら魔物のみんなも賛成します!」

「いいんじゃない? がんばれよ」


 アミラお姉様はニコニコしながら子猫の魔物の頭を撫で、ジャックはどうでもよさそうに言った。


 くぅ……。


 見たくないが私は最後にジェレミーを見た。


 そこにはニタリと嗤い、奥義! 嫌らしい笑みを使ったジェレミーがいた!



 解説しよう!

 奥義、嫌らしい笑みとは原作ゲームでも使っていた嫌らしい笑みだ! 相手を不快にさせるジェレミーの必殺技!

 以上!



「我も賛同であるッッ、父上ッッ。覇神マリー様こそ我が帝国の皇帝になるべき人だッッ!」


 アルが呵呵大笑してジェレミーの背中を軽く叩いた。

 それだけでジェレミーは吹き飛んでごろごろと絨毯を転がる。


「あら、ジェレミーみっともない」


 ヴァネッサ様が縦ロールを揺らしてジェレミーの弱さに呆れた。


「アルさんを見習って、もっと体を鍛えなさい!」




 ヴァネッサ様はもう少しアルの変貌に目を向けた方がいいですよ。




 ◆◇◆




 太古の昔、天から舞い降りてきた勇者。

 その勇者が使っていた神々しい鎧の胸元には、神の血が埋め込まれた宝石が嵌め込まれている。


 私はそれを着込む。


 筆頭オーガに献上してもらった、かつて大陸を地獄に落とし、代々紡がれてきたとかう魔王の兜を睨む。


 苦々しい顔で私はそれを被った。


 最後に皇帝の証である宝剣を掴み、ぎりぎりと歯軋りをして外へ出た。



「「皇帝万歳!! 皇帝陛下万歳!!」」

「「神ヨ! 神ヨ! 我ラガ偉大ナル神ヨ!」」

「「悪鬼羅刹を支配する魔の王よ!!」」

「「三千世界を統べる王の中の王よ!」」



 外はうるさいほどの歓声に包まれていた。


 私はゆったりした歩みで進み、宝剣を地面に立て両手を置く。


 オーガたちが何かの髑髏を掲げて私に祈るようにしていた。

 見たことのある帝国と王国のマッチョマンたちが筋肉をアピールしながら歓声を上げていた。

 悪魔たちが背後に佇んているアルに涙目になりながら叫び狂っていた。



 頭が痛くなるのを堪え、私はゆっくり右手をあげる。

 それだけで歓声が止み、うるさいほどの静寂が訪れ私は天を指差す。



 女帝って絶対めんどくさいじゃん! 穏やかな生活をさせてよー!

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学園乙女ゲーの悪役皇女に転生したはずなんですけど、どうして歴代初の女帝になってるんですか? 羽場 伊織 @HabaIori

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