月夜に毛虫
香久山 ゆみ
月夜に毛虫
だめだ。どう考えたって、愛している。
平凡で退屈。いつもと変わらぬ一日の終わり。
駅から自宅までの夜道を歩く。
「こんばんは」
星が囁く。
「お疲れさまね、今晩はゆっくりなさい」
金木犀の香りが誘う。
夜は好き。澄んだ空気、生き返る。昼の空気は白く淀んでいて、うまく呼吸ができない。蒼みがかった夜空には、大きな満月がかかっている。饒舌な曼珠沙華の咲く公園を抜けるとうちに着く。公園の向こうにもう、小さなアパートが見えている。その時。
「どうも」
暗闇から突然声がして、悲鳴を飲み込む程ぎょっとした。闇に目を凝らすと、公園を囲うコンクリート塀に、男が座っている。
「こんばんは」
逃げるべきか。対応に躊躇している間に、重ねて声を掛けられ、つい会釈を返す。
「涼しくなってきましたね」
「え、あ、そうですね……」
返事までしてしまう。
「いい人ですね」
男が楽しげに笑う。え、いや、そんな……、しどろもどろ。
「いい夜ですし、ちょっと座りませんか」
促され、ふらふら男の隣に腰を下す。催眠術でもかけられたみたいに。隣に目を遣ると、男は気持ち良さげに目を細めている。黒いTシャツに、黒いジーンズ。
「……えと、ご近所ですか?」
「カラスです」
男は答えた。すっと高い鼻に、骨ばった長い手足。黒づくめの風貌はまさにカラスのようだけれども。え? 訊き返すと、
「カラスです」
男は重ねて答えた。
「僕の名前です。いや、こんな所に座っているなんて不審だと心配されているのかと思って。名乗った方がいいのかな、と」
悪びれる様子もなく飄々と言う。私も名乗った方がいいのだろうか、いやいやまさか。名乗ったからといって不審でないわけでもない。だいいち「カラス」だなんて。偽名かもしれないし。
「こんな時間までお仕事ですか?」
「ええ、まあ……」
不審者に話を向けられても、答えられるか。男は私の不信感に気付いていないのか、淡々と気候の話なぞしている。それに対して私は、「はあ」とか「へえ」とか、律儀に相槌を打つ。
カラスと言うくせに、その声は鳥のカラスみたいには掠れておらず静かに落ち着いている。男は目を細めて喋る。そんな男がふと遠くを見据えるように目を開くと、大きく白目がちな瞳が闇夜に光り、まるでこの世の存在とは思えない。居心地悪そうにしているのを察したのか、
「すみません、ずいぶん引き留めてしまいました。もう帰りますか?」
男が話を切り上げた。私はそっと安堵の息を吐く。
「ええ、そうですね……」
「遅いですし、送っていきましょうか」
男の言葉に、私の体が強張る。
「いえ……」
家がすぐそこなので、と言うことさえも憚られ、返事が続かない。そんな私の警戒心を男は敏感に察する。勘がいい。本当にカラスみたいに聡い。
「ああ、はは。初対面の男に家まで送ると言われても困りますね。ナイス危機管理です。それでは僕の方が先に帰りますが、万一何かあれば大声出してくださいね。悲鳴が聞こえたら飛んできますから」
そう言うと、本当にそのままさっと立ち上がって、行ってしまった。私はその後ろ姿が暗闇に溶けて消えるまで、じっと見送った。あんなに警戒したのに。男はすんなり帰っていった。一度も振り返らずに。さみしいと、思ってしまった。
私が他人にそんな感情を抱くなんて珍しい。そもそも見ず知らずの人間の隣に座って話をするなんて。それは、男がカラスと名乗ったからかもしれない。
だって、私は魔女だから。声なき者たちと話ができる。だからカラスも? 実は人間でなく、本当に鳥のカラスかもしれない。なんて。私はあのカラスを気に入ったのだろうか。
だから、次の夜もまた現れたカラスに、警戒しながらも近付き、声を掛けたのだろうか。
とりとめのない話ばかり。
カラスは私が誰なのか訊かなかったし、私もカラスが何者か訊かなかった。
まだこの辺りに詳しくないという彼は、私の話すささやかな情報を――商店街で人気の店や美味しいパン屋、居心地のいい喫茶店や、金木犀が薫る路地裏――そんな話を好んだ。
カラスは、私が仕事帰りに公園を通ると、大体いつもコンクリート塀に腰を下ろしている。私の姿を認めると、笑顔で手を振る。――私を待っているのか?――いやまさか。カラスは私と話している時も、ふと気付くとぼんやり遠くを見つめていることがしばしばある。どこか別の世界を覗いているかのように。そんな時の彼は心ここにあらずで、それで私はふと自分が一人であることを思い出して、いたたまれなくなる。
そんな風に時を過ごして、いつの間にか短い秋の夜は足音も立てずに去っていく。
そして、カラスが私の家に上がるようになったのもごく自然なことだった。夜の公園でくだらない話をだらだら繰り返した末、ついにコンクリート塀に座るお尻が冬の寒さに耐えきれず、目の前の私の家に避難することになった。
「カラスを見ていると、なんだかうちの猫を思い出すな」
「なんで?」
「黒猫なの。黒いところがカラスと似ている」
「会ってみたいな」
「ダメダメ」
「どうして」
「だって、猫とカラスなんて、犬猿の仲じゃない」
「はは、猫やらカラス犬猿、忙しいね。てか、そもそもペットOKのアパートなの?」
「ダメダメ」
「えー、ダメじゃん」
猫が家にいるからとカラスを招くのを拒んだ時、彼は「僕が猫にやられないか心配しているの?」と笑ったが、いや、私の懸念はむしろ逆で。カラスという生物の恐ろしさ。子猫なんて簡単にひねってしまうカラスの獰猛さに、私は怯えていた。はずだった。
なのに今、カラスはうちのリビングでのんびり座っている。
「猫は?」
うちに上がるなり、カラスはきょろきょろと部屋を見回した。
「この子だよ。ルナ」
リビングのソファの上に座っていた黒猫のルナを抱っこしてみせる。
「……なるほど」
何がなるほどなんだか、私の腕の中のルナを見たカラスは、一瞬目を細め、優しくルナの頭を撫でた。
「この子、どのくらい一緒にいるの?」
「私が子どもの頃からだから、もう二十年以上かな」
「じゃあもうおばあさんなんだ。子猫にしか見えないけれど」
カラスが笑う。魔女が飼っている黒猫だからね、という言葉は呑み込む。これ以上カラスを不気味がらせるのも悪いと思ったから。
「コーヒーか紅茶、どっちがいい?」
「うーん、コーヒーで」
「オーケー。ちょっと待ってて」
カラスをソファに座らせて、キッチンに移動する。ちらりと振り返ると、カラスは特に私の様子を気にするでもなく、隣にちょこんと座ったルナを撫でたりひっくり返したりして遊んでいる。
なのに、コーヒーを入れてリビングに戻ると、もうカラスはそこにいない。ソファの上にはルナがちょんと座っているだけ。視線を下ろすと、カラスはフローリングの上にじっと横になり、眠っているようだ。床に耳をつけるようにして無防備に眠る彼は、まるで少年のよう。もしかしたら、彼は私が思っているよりも若いのかもしれない。夜目に見る彼は静かに落ち着いているから、私と同じか少し下――二十代半ばくらいかと思っていたが。
「……寝てる?」
そっと声を掛けると、そのままの体勢でカラスはゆっくりと目を開いた。そのまま私の方をじっと見つめて、ゆっくり微笑んだ。それからのそのそ起き上がり、テーブルの前に座り直す。
なんとなくタイミングを逃し、ぼんやりとコーヒーカップを二つ持ったまま突っ立っている私にカラスは笑った。
「コーヒーありがとう。ごめん、居心地が良いからつい寛ぎすぎたよ」
それで我に返った私は、ようやくテーブルにコーヒーを置き、やっと席に着いた。
静かな夜だった。
なんとなく、テレビも音楽もつける気にならず。カラスはコーヒーカップに口をつけ、ごくりと喉仏を動かす毎に、味わうように静かにじっと目を閉じるから、なんだか話し掛けては悪いような気がして、私も静かにぐびぐび飲んでいたら、私の方はあっという間に飲み干してしまって、手持ち無沙汰で仕方なく、膝の上に乗せたルナをずっと撫でていた。
コーヒーを飲み終えると、カラスは静かにカップをテーブルに置き、ありがとう、と微笑んで帰っていった。
コーヒー一杯分の、静かな夜だった。
こんなに静かな時間を過ごしたのは、ずいぶん久しぶりな気がした。誰かと居るのに、独りで居る時よりも静かだなんて、なんだか不思議。部屋に残ったコーヒーの薫りが、いつもと違う時間だったのだと告げているようだった。
それでも。結局私のもとにやって来るのは、いつもと変わらない朝。
いつもの時間に目が覚める。隣で眠るルナに「おはよう」を言う。カーテンを開ける。一日の始まりを告げる太陽が、私を急き立てる。身だしなみを整える。三十に手が届くようになり、朝食はしっかり摂るようにしてる。
メールをチェックすると、着信一件。アサコさんからだ。
「久しぶり。お元気ですか。都合がつけば、お食事にでも行きませんか」
変わらない律儀な文面をしばし眺めてから、返信する。
「お久しぶりです。私の方は最近バタバタしていて、予定の見通しが立ちません。都合がつけば、またこちらから連絡しますね」
と、お断りメールを送信する。なんとなく、小さな溜め息をひとつ吐いて、出勤する。「いってらっしゃい」と見送るルナに、「いってきます」を言って。
アサコさんは会社の先輩、だった。彼女は半年前に会社を辞めてしまった。
とても真面目な人。真摯に仕事に取り組み、会社に尽くした。けれど、組織において、アサコさんは弱い存在だった。優しすぎた。
彼女は人一倍働いた。堅実に仕事を重ね、効率的にこなしたし、知識も深かった。温厚で親切な性格で、頼まれた仕事は必ず期日までに仕上げたし、お願いされれば率先して手伝うような人だった。
けれどそんな努力が報われることはなかった。アサコさんが困っている時、誰も彼女を助けてくれなかった。アサコさんは、会社のために、皆のために、あんなに尽くしたのに。
職場では、皆がアサコさんを頼りにしていた。皆が彼女に仕事を押し付けた。総務もアサコさん、庶務もアサコさん、新人指導もアサコさん、産休の引継ぎはアサコさんへ、アサコさん、アサコさん……。
けれども、彼女は懸命に戦った。彼女にとっては、頼られることこそが存在意義だったのかもしれない。だからアサコさんは「できない」なんて決して言わない。残業して、休憩時間を削って、食事を削って、体を削って、仕事をこなしていった。実際、その時は彼女自身も充実を感じていたかもしれない。けれど、だから。アサコさんの仕事は、さらにさらに増えていった。皆、容赦なく仕事を振った。彼女の仕事量を知らないはずないのに。皆が出払ったフロアにひとり居残って仕事をしていること、知らないはずないのに。本当は、平気なはずないのに。
結局、手伝ったのは私だけで。だけど、私だけでは足りなかったのか。それとも遅すぎたのか。時間を削り、体を削り、心も。アサコさんは少しずつ、壊れていった。誰にも気付かれずに。
アサコさんのことをぼんやり思い出しながら、気付くと会社に到着していた。こんな風に考え事を巡らせていると、無意識にいつもの電車に乗っていつもの道を歩いて会社に着いている。今日は考え事をしていたから、騒がしい声もあまり耳に入ってこなかった。
タイムカードを押して、職場に入る。
「おはよう、ワタナベさん」
振り返ると、用務員のおじさんがにこにこ立っている。ああ、私か。
「おはようございます」
挨拶を返す。が、おじさんはさらにとびきりのスマイルを浮かべる。胸の前に小さくガッツポーズを作り、「ファイトー」と、しおしおの目を大きく見開いて熱い視線を送ってくる。
「はあ……」
私が小さなガッツポーズと苦笑いを返すと、ようやく満足そうに去っていった。朝から元気だな。
職場では、早速上司から伝票を受け取り、作業に入る。ざわざわざわ。今日も職場は静かに騒々しい。いつもなら気にしない。だけど今日は。昨夜の静かな時間が懐かしく、耳を塞ぐ。自然、さっきまで考えていたアサコさんの記憶へと還っていく――。
ある日突然、アサコさんは辞表を出した。
何人かは、アサコさんを引き留めようと説得したけれど、無駄だった。アサコさんは悩んで悩んで結論を出したのだ。自分を磨り減らしてまでしがみついた仕事を手放すという決断は、相当な覚悟を要したろう。どんなに辛くても一日も休まず仕事に打ち込んだ彼女は、その頃にはすっかりやつれてしまっていたけれど、辞めることを決めたアサコさんの目は、なにかすっきりした清々しい瞳だった。
ほとんどの人は、彼女を引き留めなかった。内心安堵する気持ちもあった。アサコさんのこの結果を受けて、老弊したこの職場が良い方向に変わればいいと期待した。
アサコさんは結局、「自己都合退職」として、会社を去った。
最後の日、アサコさんは久々に皆に笑顔を見せたが、唯一不安げな表情を私に向けた。
「無理しないでね……」
そう言い掛けて、アサコさんは口をつぐんだ。自分が言う台詞ではないと思ったのだろう。しばらく言葉を探していたが、結局ふさわしい言葉は見つからなかったようで。
「ごめんね」
アサコさんは私にそう言った。哀しげな瞳を伏せて。
「大丈夫ですよ」
私は笑顔で返した。本当に大丈夫だと思ってた。アサコさんをいちばん近くで見ていたのは私だ。どれほど大変で、つらかったのかは知っている。だけど、私なら大丈夫だと思ったのだ。アサコさんができなかったことも、私ならもっと上手くやれる。
アサコさんの仕事は、すべて私が引き継ぐことになった。
彼女の退職が決まった次の日、課長に呼び出された。私にアサコさんの仕事を引き継げという。予想していたとはいえ、アサコさんの姿を見てきたから、無論断ろうと思った。しかし、これは業務命令だ。それに。
「彼女はあまり要領がよくなかったし、仕事の采配も上手くなかった」
「彼女はできなくても、きみはできるだろう」
「きみは能力があるから」
「それに周りのことをよく見ている」
「皆、きみに期待している」
自尊心がくすぐられた。
それに、アサコさんが否定されることを、私は心のどこかで望んでいた。きっと罪悪感を抱いていたから。いちばん近くにいたのに、守れなかった。追いつめてしまった。退職させてしまった。ずっとそうやって自分を責めていた。私が悪いのだと。けれど、そこへ。アサコさんを否定する言葉が、そうではない、悪いのは私ではない、アサコさんなのだ、と。彼女を否定することでしか、私自身を肯定することはできなかった。
私は、大丈夫。きっと、やってみせる。
アサコさんよりも上手く仕事を片付けることで、私は悪くなかった、ただ彼女の能力が足りなかっただけなのだ。そう自分に言い聞かせてやれる気がした。
そうして、私がアサコさんの仕事を引き継いだ。
こんな調子で。その日は仕事中も、気付くと意識をぼんやり遠くへやってしまって、心と体はどんどん乖離していくようだった。それも、昨夜カラスと過ごした時間のせいかもしれない。静かな夜の余韻が、まだ私の中に残っているのだろう。
そうして、今夜も。カラスがいることを期待したけれど、公園に彼の姿はなく、缶コーヒー一杯分ブロック塀に座って待ってみたけれど、現れなかった。
見上げると、静かな星空。ひんやりした白い星々がちらちら瞬いている。あ、三連星。オリオン座。狩人だったか。女を追いかけてるんだったか、サソリから逃げているんだったか。忘れてしまったけれど。オリオンに向かって息を吹きかける。白い息が夜に溶けるのを見届けて、腰を上げた。
冷えた体で部屋に帰ると、「おかえり」とルナが迎えてくれる。ソファの上が彼女の指定席。「ただいま」と、脱いだコートをソファの背凭れに掛けて、ルナの体を撫でる。幼い頃にはふわふわだった毛並みも、今やずいぶん滑らかな手触り。ルナは気持ち良さそうにゴロゴロ喉を鳴らして私に甘える。今夜のルナは饒舌だ。私がバスルームに行っても、まだ喋り続けている。昨夜はあんなに静かだったのに。知らない男が家に上がってきたことに警戒していたのかもしれない。思い返せば、私は幼い頃から人付き合いが苦手で、家に友人や知人を上げるようなことはほとんどなかったもの。
結局、ルナとも思い出話に花が咲いて、今日はいちにち昔のことばかり考えていた。過ぎ去りし日々にばかり囚われて、要するに、私はうしろ向きな、つまらない人間なのだ。
以降も、カラスは現れたり現れなかったりだが、うちに誘うと静かについてくる。コーヒーを出したり、簡単な食事を出したり、鍋にしてみたこともある。けれど、二人で食べるごはんの方が美味しいかというと、よく分からない。話し相手がルナからカラスに変わるだけ。けど、時々誰かに何かをしてやりたいという気持ちになる。人間の本能なのだろうか。そうすることで、自分の存在を確認して安心しているのか。おかしなものだね。一人で生きていく道を進もうとしているくせに、私は私自身すらよく分からない。いや、たんに、空腹なカラスの獰猛さを無意識に恐れているだけなのかもしれない。
相変わらずカラスのことは何も知らない。
「どうしていつも公園にいるの? 仕事は?」
「ふふ、実はね、刑事だからさ。殺人犯を追っているんだ。女を殺した」
ぞくり。暗闇にのまれて死んでいく女の姿が、脳裏に浮かぶ。ぞくぞく心がふるえた。カラスが笑う。他愛無い冗談。結局のところ、お互い自分のことを明かすつもりもないし、相手のことを知るつもりもない。二人でいても、私たちは一人なのだ。
だからなのか。カラスといる時間がとても静かなのは。カラスはいつも黒い格好をしている。家に上がるとルナの頭を撫でて、その隣に座る。カラスが来た日のルナはとても無口。私はカラスと他愛ないお喋りをする。が、私が台所に立ったりしてしばらく席を外して戻ってくると、カラスはじっとフローリングの上に横たわり、しんと目を閉じて微かな呼吸をしている。眠っているのか。その姿はまるで、傷ついた鳥のようだ。私に気付くと、彼はそっと目を開け、静かに微笑み、ゆっくりと体を起こす。そうして食卓を囲み、適当な時間に帰っていく。泊まっていくようなことはないし、そんな素振りも毛頭ない。
そんな風に、カラスと過ごす時間は、いつも同じように静か。
日常もいつもと同じく変わらない。起床して、カーテンを開けて、朝食を摂り、出勤。
仕事も毎日ルーティンで変化がない。ロッカーに荷物を置き、職場に入る。上司から伝票を受け取り、作業を進める。黙々と。業務中はほとんど人とは話さない。滑稽な程ひたむきに作業に没頭している。向いているのかも。
昼食も、同僚の輪から離れて、一人で摂る。どうせ、集まれば不平・不満・悪口。それが嫌で距離を置いたら、今度は私の悪口を言っているのだろうかと、よけいに戻りづらく。いや、だから、別に一緒に食べたかないんだけど。通用口から出て、社屋裏手の人気の無い庇の下、コンクリートの段差に座って、ひとり飯。静かで落ち着く。寒いけど。冬にも関わらず、蟻んこはわっせわっせと働いているし、雑草は健気に緑を保っている。この子達のひたむきさがいじらしく、心は温かいものだ。たまに用務員のおじさんが通り掛る。落ち葉を掃いたゴミ袋を持って。
「ゴトウさん、ファイトー」
と、ガッツポーズを送ってくるから、私も小さく返しておく。
午後はあまり仕事がない。午前中に張り切りすぎるからだ。「ほどほどにね」と、上司からも苦笑混じりに、残りわずかばかりの伝票を渡される。どうしても、この状況に慣れない。以前は、働いても働いても仕事が山積みにあって、手持ち無沙汰になるなんて、考えられなかった。
本当にすることがなくて、きっちり三時に休憩に入る。ほとんど着信なんてないくせに、一応携帯電話をチェックする。……アサコさんからメール。
「お疲れ様。忙しそうですが、あまり無理せず、体調には気をつけてね。私の方は、今度うちの店で町内会のイベントを催すことになり、準備でバタバタしています。でも、私のアイデアが採用されてのことなので、なんだか充実しています。また時間ができたら、連絡ください」
時間を持て余している私は、そのメールをたっぷり時間を掛けて読んだくせに、結局返信しなかった。
アサコさんは会社を辞めて、実家のお店――喫茶店だったか――を手伝っているそうで、どうやら充実しているらしい。今が充実しているという彼女に、「よかったですね」と返したりもするが、その文面の裏で、私は何ていう顔をしているのか。キラキラ充実した幸せそうな文面が届く度に、胸の中にもやもやしたものが沈殿していく。私が悪い人間だからなのか。こんな腐った性根だから、猫とカラスしかお友達がいないのか。それとも、これが人間らしさというものなのか。分からない。いや、本当は分かっている。結局のところ、アサコさんが、同じく会社を辞めた私よりも幸せなのが許せないのだろう。
そう。私は会社を辞めた。
アサコさんの仕事を引き継いだ私は、一心不乱に頑張った。ずっとアサコさんを手伝っていたから、業務内容で困ることはなかった。アサコさんと同じ仕事量はしっかりこなせていた。
なのに、アサコさんより早く潰れてしまった。
それでも、体は動くのだし、必要とされているのだし、私が抜けると皆が困るし、失望されたくないし。そう思って、頑張ろうとした。頑張った。自分は大丈夫だと言い聞かせた。けれど、駄目だった。
休憩時間を終え、仕事に戻る。
この職場での上司である社員の女性から伝票を受け取り、伝票に記載されている商品を、倉庫内からピックアップしていく。ピッキング作業というのだと聞いて、初めは驚いた。泥棒の手口かと思って。
前の仕事を辞めたあと、もちろん正社員での転職先を探したけれど、見つからなかった。時代のせいか、私のせいか知らないが、社会の中に私の居場所はもうどこにもなかった。それで、こうして派遣アルバイトで食いつないでいる。週五日の倉庫内作業。これが今の私の日常だ。
そうして、この社会での生きづらさを感じ、一人で生きることを決めた。
さびしいなんて、クソくらえだ。社会の中で爪はじきにされるくらいなら、私は、一人でいる強さを選びたい。
一人で生きていくと決めたのに、相変わらずカラスを部屋に上げている。おかしなことだ。そう言うと、「僕も独りでいいと思っていたんだけれど」とカラスは笑った。私たちは矛盾している。けれど、こういう話の時に、
「人は一人では生きていけないんだぞ。僕らが今食べているパンを見てごらん。このパン一つ口に運ぶのに、どれだけの人の手を介してきたか。農家の人が一生懸命小麦を育てて、パン屋さんがそれをこねる。パンを焼くオーブンだって、誰かが発明して、どこかの家電メーカーの社員が作ったものだ。それを店頭で販売して、僕たちが買う。ほら、どうだ。一人ではパン一つ食べられない。それでもきみは一人で生きるというのか。それとも小麦から自給自足するかい?」
カラスがそんなことを言う奴でなくてよかった。人の揚げ足を取って、論点をずらして、勝ち誇った顔をしている、人の気持ちの分からない馬鹿。大嫌い。私が教えてあげた商店街のパン屋さんでカラスが買ってきたパンを食べながら。そんなどうでもいい話をして、気付くと結構な時間が経っていたりする。
その夜は、満月のせいか、やけに会話が弾み、カラスは膝に乗せたルナをずっと撫でていて、なんだか楽しくなってきて、お酒を飲んだりして、気付くとあっという間に時計は深夜零時前を指していて、おやおやと帰るカラスを見送って、ふわふわいい気持ちで、そのままコテンと眠ってしまった。
それで案の定、翌朝は少し寝坊して、慌てて身支度を整える。ばたばたと動き回って、ふと気付くと、ルナの姿が見えない。いつものソファの上にいない。ベッドの上? 机の下? いない。いない。鞄の中も、机の中も、探したけれど見つからない。どこにもいない。気配も感じないし、声も聞こえない。どこ? どこ? ルナ、ルナ。ルナ?
どこにもルナがいない。
ドクドクドク、不安と焦燥に、鼓動が早くなる。
どこに行った? 最後にルナを見たのは? 昨夜のカラスの膝の上。気持ち良さそうに座っていた。そのあとは? 見ていない。覚えていない。でも。これだけ探して見つからないはずない。この小さな部屋で。いない。
まさか。カラスが連れて帰った?
昨夜のカラスを思い返す。愛しそうに、愛しそうに、膝の上のルナをずっと撫でていた。あの、特別な猫を。
けど、まさか。でも、もしかしたら。揺れ動く思考に、落ち着きなく部屋の中をうろうろと探し回る。疑い始めたら止まらない。私はあの男のことをどれだけ知っているというのか。何も知らない。何も。あの男の素性なんて。カラス……空巣? いやまさか。まさか。でも。まさか。慌ててタンスの引出しを開ける。現金も通帳も、いつも通りにある。大きく息を吐き、自分のくだらない言葉遊びに苦笑する。
ごめんなさい。私は人間がきらいです。怖い。
だって、私を壊したもの、それは、仕事ではなく、人間だから。だから、家に上げたくせに、根っこではカラスのことをまるで信用していない。悪いのは、周りの人間ではなく、私なのか。だからなにもかも失うのか。ルナ。
頭の中がぐるぐると回る。ぐるぐるぐる。呼吸が、苦しい。息が。空気、を求めてベランダに出る。眩しい。昨日はここから澄んだ満月の光を浴びて、あんなに穏やかな心地だったのに。太陽が。ルナが。息が。ベランダの手摺にぐっと手をついて、喘ぐように大きく息を吐く。は、あ、あ―――――――――――――――――――、あ。
ルナ。
息を吐いて下げた視界の隅に、黒いものを捉えた。瞬時にベランダから身を乗り出す。下の階。ちょうどうちの真下の部屋のベランダに、はっきりとその姿を捉えた。ルナ。
「ルナ!」
思わず大声で呼び掛ける。ルナ、ルナ。ルナは下の階のベランダにちょこんと座っている。安堵にへなへなと腰が抜け座り込んでしまう。よかった。
でも、どうしよう。
いや、どうもこうもない。急いで部屋を飛び出して、アパートの階段を駆け下りる。下の階も、一人暮らしの女性だったはず。彼女が出勤する前に、ルナを返してもらわねば。早朝から非常識を承知で、階下の部屋のインターホンを鳴らす。
ピンポーン。
ピンポン、ピンポーン。
留守なのだろうか。どうしよう。バクバクと焦りが増大し始めた時に、ようやく扉が開いた。でも、インターホンを鳴らしすぎたせいか、扉はほんのわずかしか開かれず、しっかりチェーンまで掛けられている。慌てて声を掛ける。
「あの、朝早くからすみません。上の階の者です」
まだ扉は開かない。長い睫毛に彩られた瞳がじっと窺っている。
「それで、えと、こちらのベランダに、うちの猫がお邪魔してしまったようで。すみません。黒猫なんですけど、その……」
焦りすぎ、しどろもどろの説明で、我ながらもどかしく、自らの愚鈍さを呪いたくなる。すると。
「ああ……」
と、扉の主は呟いて、バタンと扉は閉ざされてしまった。え。どうしよう。冷や汗が伝う。やはり、ペット不可のアパートで猫の話なぞしたから、怒らせてしまったのだろうか。どうしよう。と、再びインターホンに震える指を伸ばしかけたところで、ガチャリ、と扉が開いた。今度は大きく。
扉から出てきた女性の腕には、しっかりと黒猫が抱かれている。
「ルナ!」
突進せんばかりに駆け寄る。女性は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたものの、すぐに柔らかく微笑み、私の手にルナを渡してくれた。やはり出勤前だったのだろう、ばっちりメークにタイトな服を着た派手な女性だと思ったが、親切な人でよかった。華やかな目元から若い人かと思ったが、私より一回りほど年上かもしれない。
「大事な家族なら、ちゃんと見てあげなくちゃ」
と、母性に満ちたお言葉をいただく。スミマセン……。いや、私が未熟で幼すぎるのか。目の前の女性とは、見た目からして人生経験の差がありありと表れている。ルナを胸に抱いて恐縮していると、女性は真紅の唇でにっこりと笑って扉を閉めた。大人の女の美しさとは、かくあらんや。
もう飛び出して行ったりしないように、ルナを部屋に連れて帰り、ソファに寝かせて、しっかり戸締りの上、取り急ぎ出勤。今度は私が、ルナを置いて家を飛び出す。
ルナがいた。よかった。
カラスが連れ去ってしまったのかと思ったけれど。
下の階で見つかった。
よかった。
きれいな女の人だった。大人の。
すぐに返してくれた。親切な人でよかった。
早朝から迷惑を掛けた。
混乱して、冷静でなかった。
不安だった。
不安。
不安。不安。
不安? ルナがいなくなったこと? それともカラスの裏切りに?
……。
駅まで、会社まで、久方ぶりに全力疾走したことで、思考が千々に乱れる。不安と、安堵と、それから。
どくん、どくんと、心臓が内側から私を叩き起こそうとする。しっかりしろ。大事なものを見失うな。そう、大事なものを。ルナと、それから?
この凍えそうな季節に、息を切らせ滝のような汗を流す。ずいぶん急いだけれど、結局始業に遅刻した。
職場に駆け込んで、真っ先に上司である社員の女性のもとへ参じ、彼女が口を開かぬ先に、平身低頭、謝罪しているところへ、用務員のおじさんが通りかかる。おじさんは私の姿を認めるや、いつもの如く胸の前で小さなガッツポーズを作り、
「コサカさん、ファイトー」
と、エールを送ってくれる。が、己のだらしなさ、未熟さ、情けなさに、身を小さくする私に一体何ができようか。反応せずにじっとしていると、再度、おじさんは大きく見開いた目で、じっと真っ直ぐに私を見つめて笑顔全開で、
「コサカさん、ファイトー!」
と。いや、この状況で反応できないし。妙な間が空きそうになったところで、
「ちょっと」
社員の女性が低い声を出す。ほら、火に油。が、
「ちょっと、和久さん。コサカさんって誰よ。この人はコサカさんじゃなくて、真鍋さん」
「あちゃー、そうだったかぁ」
用務員のおじさん――和久さんというらしい――が、ペチリとおでこを叩く。
「いや、コサカさんが呼んだら返事をしてくれるもんだから」
「真鍋さんだってば。真鍋さんも間違えられたらちゃんと注意しないと」
「ああ、はい、そうですね。……でもまあ別にいいかなーと……」
「ほらー、ほらほら。マナベさんもこう言ってるでしょう。筧さんは厳しすぎるんだよー」
和久さんがどや顔をして、筧さんは頬を膨らませるものの、笑っている。そうか、上司である社員の女性は筧さんといったか。カサイだったかカケガワだったかと今さら聞けず、あのー、とか呼び掛けていた。
「ほらほら、もういいから。二人ともさっさと仕事に戻って。真鍋さんもいつも通りのペースで作業したら、午後には余裕で終わるでしょう。次から気をつけてくださいね。信頼してるんだから、遅れる時には、ちゃんと事前に連絡入れてくださいよ」
「はい」
恐縮しきりだが、信頼されているということが、素直に嬉しい。
伝票を受け取って、さっさと作業に入る。
フロアにはたくさんの種類の膨大な数の商品が並べられている。フロアの通路にはアルファベットが、棚には番号が振られていて、伝票には商品名とともに「A‐123」など番号が記載されている。その記号をもとに、A通路の123番棚から該当の商品をピックアップする。私はこの仕事が嫌いじゃない。むしろ向いていると思う。無心で作業に集中する。何の生産性もない仕事で、人生を無駄にしていると感じていた。けれど、では前の仕事は? 考えてみれば、前の仕事だって同じだ。何も生み出さなかったではないか。ただ自分を失っていくばかりで。
今のこの仕事は楽しい。没頭できる。あちこちから声が聞こえてくる。
「こっち、こっち」
「ボクはこっちだよー」
「そっちじゃないよ、あっちだよ」
フロアの中、棚のあちこちから、探し物たちが声を上げる。
「いえーい! ゲット、ゲット」
「おつかれー」
「次こっちー」
午前中は、遅れた分を取り戻そうとして、できればいつも以上の成果を上げんとして、仕事に集中した。昼休みのチャイムが鳴るまで、無心に働いた。
昼休みは、いつもの社屋裏で、ひとり飯。寒空の下で、コンビニのおにぎりを頬張る。凍えそうだ。寒い。でも、派遣仲間のおばさんたちの愚痴を聞く煩わしさに比べれば、断然こちらの方がラクで、ついつい低きに流れてしまう。いや、一人でないといえば一人でないし。蟻がいるし。鳥も飛んでるし。根性のある雑草はいるし。大きな木だって生えているし。陰になって、寒い。
それでも服を着ている分、蟻よりは暖かいはずだと自らに言い聞かせ、黙々とおにぎりを咀嚼して、熱量を産出していると、用務員の和久さんがやって来た。
「いや、悪いねー」とかなんとか、大きな独り言かと思いきや、上司である社員の女性の筧さんも一緒だ。二人とも大きなゴミ袋を抱えている。「ちょうど通り掛ったんだし、どうせ私も向こうに用事があるから、ついでにゴミを運ぶくらい手伝うわよ」とか何とか言っているので、そういうことなんだろう。私も声を掛けて手伝った方がいいのだろうかと腰を浮かせかけたところ、和久さんがこちらに気付き、また満面の笑みを浮かべる。
「ファイトー、マ・ナ・べさん!」
中腰のまま小さくガッツポーズを返したところで、筧さんもこちらに気付いた。
「あれ、真鍋さん、こんな所でごはん食べてるの? どうかしたの」
「あーあ、筧さん知らないんだー。マナベさんはいつもここだもんねー」
二人だけの秘密だと言わんばかりに、和久さんがにやにやしている。
「へーそうなんだ。寒くない?」
「寒いです。けど、落ち着くんです」
「そうなんだ。でも、今のうちだけだね。春になったらここでは食べられないね」
「え」
どういうことだろう。派遣切りにでもなるのだろうか、遅刻したから。と、私の乏しい表情がさらに固まる。
「ね」と、筧さんが和久さんに同意を求めると、和久さんも「そうだね」と応じる。
「これ、桜の木だから、毛虫が多いものなぁ」
「そうなんだよね。きれいなんだけどね」
なんだ。拍子抜けして思わず顔がほころぶ。
「あれ、真鍋さん信じてない? 本当にきれいなんだから。そうだ、春になったら皆でお花見でもしましょうか」
「そうそう、お酒も持ち寄って」
「って、こらこら。和久さん、勤務中に飲酒はダメでしょう」
二人とも楽しそうだ。なんだか私も。
「なら、夜桜はどうでしょう。……やっぱり終業後はダメですよね?」
「あら、いいじゃない、いいじゃない。ね、和久さん」
和久さんもうんうん頷いている。
「あ、いけない。もうこんな時間だ。和久さん、急がなきゃ」
「いや、自分は別に急いでいないんだが」
ほらほら、と筧さんに促されて、「じゃ、また」と、賑やかに二人は去っていった。また一人、冷たいコンクリートの段差に座って、ぼんやりと目の前の木を見つめる。
お前、桜の木だったのか。
桜だと知ると、少し立派に見えてきた。単なる枯れ木だとしか認識していなかったこの木が。私にとって、さっきまでこの木は、ただの木だった。
私は名前を覚えるのが苦手だ。
犬は犬だし、花は花だし、服は着られればいい。トイプードルとポメラニアンの違いなんて分からないし、花の名前も知らない。ブランドなんて興味もない。
けれど、金木犀とか曼珠沙華とかオリオン座とか、知っている名前もある。数少ないけれど。
教えてくれたのは、アサコさんだ。
花は花でしかなかった私に、アサコさんが教えてくれた。名前や、香りや、それから一つ一つが違うということを。
アサコさんが会社を辞める前、私たちはしばしば一緒に帰った。彼女を手伝い、ともに残業していたせいでもある。そうだ、アサコさんは仕事だけでなく、それ以外のいろんなことも私に教えてくれた。自分自身の世界のあり方を否定するつもりは全くない。けれど、アサコさんの世界の広がりに、素直に驚いたりしたものだ。
私がアサコさんより早く潰れてしまった理由。世界の狭さのせいかもしれない。私は人付き合いが苦手だ。誰にも助けを求めることができなかった。大丈夫だと自分に言い聞かせ。できないはずはないと自分の尻を蹴り飛ばして。ただ一心不乱に目の前の仕事に取り組んだ。それしか選択肢はなかった。そこから逃げる選択肢なんてなかったし、考えてはいけないことだった。そう自分に言い聞かせて、思い込んでいた。
あの日までは。
今日は、朝からバタバタした一日だったが、いつも通り、いや、いつも以上に仕事をして、急いで帰宅した。ルナが心配だったから。
果たして、ルナはいた。いつも通り、ソファの上にちょこんと座っている。
「ただいま、ルナ」
安堵の息を吐きながら声を掛けるが、返事がない。
「ルナ。ルナ?」
ルナが喋らない。
ただ、黒くつぶらな瞳で、じっと私を見つめている。
ルナ……。
そっと頭を撫でる。手に馴染んだ温かい毛並み。喋らない。けれど、いつも通りのルナだ。
カラスに会わなくちゃ。
唐突にそう思った。気もするし、ルナを見つけた時にそう感じたようでもあり、今日一日かけてその決心をした気もする。なにせ、カラスに会わなければならない。毎日来たり来なかったりするカラスだが、今夜は必ず来る。確固たる思いを抱いていた。
そんな私の決意を、ルナはじっと見守ってくれている。
ルナを残して、私は一人部屋を出て、公園に向かった。
アパートを出る途中、階段を下りたところで、階下の女性と出くわした。
「今朝はどうもすみませんでした」
ぺこりと頭を下げる。変な奴だと思われているだろうか。
「いえ、いいんだけれど。次からは気をつけてね。次はもう返してあげられないから」
「え」
やはり早朝からあれだけインターホンを鳴らして、怒っているのだろうか。
「はい、スミマセン。大変なご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした……」
「あら、やだ。ごめんなさい。そういう意味じゃなくて」
女性は紅い唇を開いて笑う。
「私、今週末に引越しするの。だから、もうベランダに猫ちゃんがいても助けてあげられない、っていう意味で」
「あ、そうなんですか。お引越しされるんですか」
「そう」
女性はとても楽しそうに笑う。感じのいい人だ。
「結婚するの」
「えっ」
「まあ、二回目なんだけどね」
屈託ない。
「えと、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう。やっぱり一人は寂しくてね。でも、最後に同じアパートの人とお話しできてよかった。このご時世、ご近所づきあいもないから。なんか、もっと早くに話し掛けてお知り合いになってたら、アパート暮らしも楽しかったのかなーって、後悔しちゃう。まあ、そしたら婚期逃してたかもしれないけど。アハハ」
確かにこの人と友達になったら楽しそうだ。もっと早くに知り合っていれば、何か変わっただろうか?
「あ、出かける途中だったのに、引き留めてごめんね」
「いえ」
「それじゃあ」
自室へ立ち去りかけた女性が、「あ」と声を上げて、振り返る。
「あの子にも、よろしくね」
ふわりと優しく微笑んで、今度こそ去って行った。後ろ姿をじっと見送る。
ルナを助けてくれたのが彼女で、本当によかった。
公園の、いつものコンクリート塀に腰を下し、カラスを待つ。静かな夜。体の芯から震えそうなくらい。
オリオン座が南の空高くにたどり着いた頃、闇の中からカラスが現れた。黒いコートの肩を寒さにいからせて、まるで獲物を狙って飛び立たんとする鳥のようだ。
「こんばんは」
その猛禽みたいな風貌とは裏腹に、カラスが柔和な笑みを浮かべる。
「こんばんは」
挨拶を返したきり黙り込む私に、カラスが白い箱を掲げる。黒い姿のどこから出てきたのか、手品みたいだ。
「商店街でケーキを買ってきたよ」
「そう」
無愛想な私に、カラスが小首を傾げる。二人とも何も言わない。カラスは決して自分から、家に上げろとは言わない。けれど、さすがに沈黙に耐えかねたのか、それとも寒さに耐えかねたのか、先にカラスが口を開いた。
「どうかしたの?」
「……今朝起きたら、ルナがいなくなっていたの」
「ええっ」
「部屋中探したけれど、どこにも見つからなくて……」
ぽろぽろと、自然と言葉が零れ出る。そしてカラスは応えた。
「それじゃあ、僕も一緒に探そう」
そうして私たちは部屋へ向かった。
階段を上がり、玄関の前に立つ。鍵を開けて、部屋の中へ。電気を消して出たから、真っ暗だ。ルナの声は聞こえない。背後に立つカラスの気配を感じる。静かな呼吸。闇の中、そっと目を閉じ、耳を澄ませているのだろう。そんな、気配。
パチン、と明かりをつける。室内が白く浮かぶ。ルナの姿は見えない。
「いないの」
「どこにも?」
「部屋中探した。隅から隅まで。どこにも、いない」
断言する私に、カラスが目を細める。私も、カラスをじっと見つめる。
「じゃあ、外に逃げたかな。昨夜は窓を開けたりしていたから」
そう言いながら、ベランダに向かうカラスの背中に向かって。私の口から、感情が吐き出される。真っ直ぐにカラスを射抜いて。
「逃げるわけ、ないじゃん」
ベランダに出ようと窓に手を掛けかけたカラスがぴたりと立ち止まり、振り返る。カラスを追いかけるように私は部屋の中を進み、ソファに手を伸ばし、クッションの陰から黒い小さな体を引っ張り出して、男に向かって投げつける。
ごめん、ルナ。
ルナは一直線に宙を切り、反射的に手を伸ばした男の胸元で、見事キャッチされた。男はじっと胸の前に抱いた猫に目を落とし、顔を上げない。動かない。私に乱暴な扱いを受けたルナも、ただ男の手の中でじっとしている。
沈黙。
重い空気。
それを切り裂いた私の言葉は、自分で思っていたよりも鋭かった。
「勝手に逃げるわけないじゃない、ぬいぐるみの猫が」
カラスが顔を上げた。とても情けない笑顔で。それでもぬいぐるみの黒猫を丁寧に抱える男を、見つめる。
ルナが黒いボタンの瞳でこちらを見ている。
ごめん、ルナ。
けれど、私は立ち向かわなければならない。今度こそ。
私は大丈夫だと自分に言い聞かせて。
ボロボロになっても、ここから逃げ出す選択肢はないのだと信じてガムシャラに働いていた。
あの日までは。
あの日――。何も特別なことはなかった。いつも通りの日だった。いつも通り、朝から憂鬱で、眠れず、食べられず、責め立てられるように仕事に追われて。孤独だった。
その日は何もかも上手くいかなかった。まるで歯車が狂ったみたいに。書類作成では、製品名や数字や日付を間違えるようなミスを立て続けにした。午後には、頼まれた覚えのない書類ができていないと、皆の前で課長に叱責された。憂さ晴らしかと思うくらいに怒鳴り散らされ、じっと堪えた。今思い返すとちっぽけなことだと思えるし、課長の横暴はいつものことだが、タイミングが悪かったのだろう、とても参ってしまって。
その後も、色の消えた心で仕事をこなしていったが、誰もいない真っ暗なオフィスを出る頃には、心身ともにへとへとだった。
ふらふらと無意識に任せて足を動かし帰路を辿った。
「お疲れのようですね」
暗い路地で声を掛けられ、振り返るが、誰もいない。また一歩進むと、
「お疲れですね」
振り返る。誰もいない。ただ、橙色の電灯がちかちかと明滅するだけだ。と、
「お疲れですね」
ちかちかちか、と、明滅に合わせて、見上げた電灯が私に話し掛ける。きゃっ。声にならない悲鳴を上げて、その場から走り去る。
しかし、
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
犬が。
猫が。
コウモリが。
花が。
木が。
星までも。
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
「お疲れですね」
皆の声が、私を追いかけてくる。
家に帰って、布団の中に包まって震えた。ルナをぎゅっと抱きしめることで、ようやく眠りに就いた。ずっと一緒で、幼い頃には秘密を打ち明けたりもした、ぬいぐるみのルナ。大人になってから、ルナの声が再び聞こえるようになったのも、この夜。
翌朝目覚めても、事態は何も変わらなかった。太陽は「今日も仕事だ」と私を急き立て。鳥も。雲も。石ころも。
「仕事だ」
「仕事だ」
「仕事だ」
と、追い立てる。
オフィスに着くと、パソコンが。コピー機が。FAX機が。電話が。
「急げ」
「急げ」
「大変だ」
話し声が聞こえる。
毎日。
私の調子によって、それは囁きだったり、ざわめきだったり、大騒ぎだったりする。が、声なき者たちの話し声は止まない。
声が。
声が。オフィスのあちこちから聞こえる。囁きは、次第にはっきりした言葉となり、ああ、あっちからも、こっちからも。私の悪口が聞こえる。
うるさい。
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……。
そうか。
ここにいる人たちは全部、私の敵だ。そう思ってしまった。
通勤ラッシュ、地下鉄の階段を無表情に下りる人々がまるで蟻の群れのように見えて。自分がその中の一匹だと思うと怖くて。怖いと思う自分はきっと異質で。彼らと同じものにはなれないと感じた。
もう駄目だった。自分の壊れた様を、こうありありと見せつけられては。もうとっくに限界を超えていたのだ。
数日のうちに、私は辞職願を出した。
前の会社を辞めて以来、ずっと聞こえていた声。それが今は聞こえない。
ただ、目の前に立つ男をじっと見つめる。
先に口を開いたのは、カラスだった。
「これ、ルナは、どうしてここに?」
「下の階の人に返してもらった」
カラスが顔を上げる。何か言いたそうに口をもごもごさせたが、言葉にはならなかった。代わりに私が答える。
「きれいな人だったよ。明るくて楽しい、優しい人だった」
カラスが目をしばたたかせる。
ねえ、カラス。
「カラスは、あの人のことが好きなの?」
好きで。
好きで、ストーカーなの?
だから、あの人のベランダにルナを投げ込んで、私を介して近付こうとしたの。
だから、私の家に上がり込んで、じっと階下の音に耳を澄ませていたの。
だから、公園からずっとうちのアパートを見ていたの。
だから、私に近付いたの。
「ああ」
カラスは静かに答えた。覚悟を決めたような落ち着いた声だが、なぜか彼の表情に少年のような印象を受ける。
「僕は、あの人のことが好きだ」
見つめる私に、さらにカラスは言った。
「あの人は、僕の母親だった」
僕が五歳から十歳までの五年間、彼女は僕の母だった。父の再婚相手。
屈託ない人だったから、本当によく可愛がってくれた。物心ついた時から、母というものを知らなかった僕も、彼女によく懐いた。明るくて楽しい人で、彼女のお蔭で家庭が華やかに色づいた。白黒の思い出の中で、彼女のいた時間だけがカラーで彩られている。
成長して学年が上がるにつれ、他の同級生たちの母親とは違う、彼女の美しさにも気付くようになった。彼女は僕の自慢だった。
僕の世界に、彼女の存在はどんどん大きくなっていった。
僕が十歳の時、彼女は父と僕のもとを去っていった。あの時の喪失感、絶望感ときたら。その時の僕はすでに、自分の抱くものが、母への愛情だけではないことに気付いていた。
失って、彼女への思いは薄れていくどころか、ますます膨れ上がっていった。学校にいても、家にいても、どこにいても。彼女のことばかり考えて、積もった思いでどうにかなってしまいそうだった。
会いたい。
でも会えない。子どもにそんな術はなく。彼女のことを忘れようとしたけれど、そんなことできるはずもなく。忘れようと試みる度に彼女のことを思い出し、そうでなくても彼女のことばかりで。
だめだ。どうしたって、愛している。
ああ、僕はもう壊れてしまいそうだ。こんな異常な執着、僕はおかしいのかもしれない。けれど、どうしようもない。会いたい。
そんな思いを抱えたまま、たまたま町で彼女を見かけた。喜びに震えたけれど、声を掛けることができなかった。怖かった。長年募らせてきた思いが壊れてしまうのではないかと。
なのに、ふらふらと彼女のあとを追いかけて。ここに住んでいることを知った。
それで。
とうとうと語るカラスの言葉が、そこで途切れた。
それで、今に至るのだ。
カラスはじっと私を見ている。私もじっとカラスを見つめる。二人とも、情けない顔をしている。互いに、自分の心を表す言葉を持たない。相手に掛ける言葉が見つからない。なんて不器用で、もどかしい。
結局のところ、私はこの男を嫌いではない。
私には恋心というものは分からない。けれど、もう会えぬ相手をただただ一心に思い続けて、それはどれだけ孤独だっただろうか。彼女を見つけて、彼の心は癒されただろうか。公園に座っている間、私の家にいる間、カラスは少しでも幸せだっただろうか。そんなことを考えて、私の胸の内まで苦しくなるのは、きっと、そうではなかったのだと思うから。
どうしたら慰めになるのか。分からない。ただなす術もなく、互いを見つめ合って。
先に口を開いたのは私だった。
「彼女、引っ越すって。今週末」
「うん」
微かな、掠れた声でカラスは答えた。奇妙に歪んだ情けない泣き顔で笑った。私もカラスと同じ顔になった。なのに、二人とも涙の一粒だって流せない。一人で生きる時間が長すぎたのだ。この世界で生きるには、なんて私たちは不器用すぎるのだろう。
時が止まった静けさ。
小さく息を吐いて、カラスがゆっくりとこちらに近付いてくる。一歩一歩。
私の前で立ち止まり、そっと私の手にルナを返した。
そして、
「さようなら」
と言って、出て行った。
「カラス!」
私は彼の背中にそう呼び掛けることしかできなくて。気の利いた言葉を掛けることもできなくて。
閉ざされた扉を開けて、彼を追いかけることもできなかった。
カラスが出ていってずいぶん経ってから、玄関の靴箱の上に置かれた白い箱に気付いた時には、もうとうに賞味期限が切れてしまっていた。
一人でそのケーキを食べた。腹でも壊せばいいと思ったが、賞味期限が一日切れたくらいでは、私のお腹はびくともしなかった。ただただ甘くて。吐きそうなくらい甘くて、泣きそうになったけれど、やっぱり泣けなかった。
そうしてカラスは姿を消した。
階下の女性の引越しの日にも、姿を見せなかった。
カラスがいなくなっても、私はいつも通りの日常を過ごす。
朝起きて、カーテンを開ける。太陽はもう話し掛けてはこないけれど、その眩しさは、私を一日の中へ送り出すには十分だ。ソファに座るルナの頭を撫でて出勤する。
黙々と仕事をこなす。自分に合った仕事を。ピッキング中心のこの仕事は、やはり私に向いていると思う。ただ、将来の生活を考えると、働き方に工夫が必要だろう。今後の課題だ。それに、毎日単調な作業にちょっぴり飽きも出始めた。けど、その点に関しては、毎日昼過ぎには大方の仕事を片付けてしまう私に、筧さんが商品開発の手伝いをさせてくれるようになったので、新しい仕事はいい刺激になり楽しい。いや、楽しいのは、寄せられる信頼のお蔭かもしれないが。
昼休みはいつも通り、社屋の裏で一人で過ごす。
和久さんと筧さんとご一緒することもある。和久さんの武勇伝にはいつも笑わせられる。
時々は、派遣仲間のおばさんたちと一緒に食べるようにもなった。やはり愚痴ばっかりで、時々、いやしょっちゅううんざりさせられるけれど。けど、よく話題が尽きないなと感心したりもする。こうして人の輪の中にいることで、あの時、カラスに掛けられなかった言葉が見つかるのではないかと信じて。
アサコさんとはまだ会っていない。時々メールのやり取りをするだけで。少し、怖いのだ。あの時、私にとって会社の皆が敵だったように、アサコさんにとって私も敵だったのだろうかと。
でも、それ以上に。アサコさんと会って、じっくり話をしてみたいという気持ちが、最近むくむくと湧き上っている。聞いてみたいのだ。私が声なき声が聞こえるようになったように、アサコさんにも何かあったのか。そして、私がいることで、何かが変わったということもあっただろうか。暖かくなる頃までには、アサコさんに連絡してみようと思っている。
仕事が終わると、いつも通り家に帰る。
そして、今まで通り、アパートの前のコンクリート塀に腰を下し、時間を潰す。
カラスは来ない。
彼のことを何も知らないから、ただ待つことしかできない。
カラスはまた来るだろうか? ここに。
息を吐くと、まだうっすら白く浮かぶ。白い息を追いかけて視線を上げると、大きな木を見上げる。ちらほらと緑の葉が、いつの間にか生え始めている。私はこの木を知っている。
桜。
まだ蕾も見えないけれど、春がくると、自然にいつの間にか、花開くだろう。
満開の桜を見上げるのは、一人でもいいし、一人でなくてもいい。けど、その時にはここにのんびりとは座っていられないかもしれない。桜の木には毛虫が多いらしいから。移動する場所は、うちでもいいし、そうでなくてもいい。ただ、自分で選んだように生きればいい。
桜が妖しいほど美しく咲くのは、その木の下に死体が埋まっているからだという。梶井基次郎の小説の一節だ。でも。確かに桜は美しい。けれどそれは桜が生きて咲いているからだ。生きているものは、美しい。
生きるのは、大変だ。逃げ出したい場所だってある。けれど、今、ここから逃げ出そうとは思わない。生きづらい、でも生きたい。上手く呼吸ができない、でもここにいたい。
一人でしか生きられないくらいに弱くて、誰かとともにいてもいいと思うほど強い。
孤独にふるえるくせに、一人でも生きられるくらいに、強い。
私の強さは、私が決める。
「この世界では、上手く息ができない」
そう言った時に、カラスは笑った。「みんな、そうだよ」
「うそ」
「本当さ。宇宙飛行士なんて、わざわざ空気のないところに行くんだから」
ぼんやりとあの静かな夜を思い出す。カラスと過ごした。そういえば。宇宙の空気は甘酸っぱい香りがするのだと、いつかアサコさんに聞いた。甘酸っぱいって、桜のような香りかしら。なら、ここと同じだ。
うまく呼吸ができない。だけど、間違いなくそこにも空気は存在するのだ。ここにも。
だから、カラス。
私たちは大丈夫。ここにいても、大丈夫なんだ。
ああ。どう考えたって、私はこの世界を愛している。
月夜に毛虫 香久山 ゆみ @kaguyamayumi
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