第5話 ひと月後の結果

 幸運にも、全ての旦那が私を気に入ったようだ。

「ひと月だけの付き合いになるか、長い付き合いになるか、そこは由香さん次第だねぇ」

 口入屋の主人はそう言って笑う。

(やってやるよ、リアル逆ハー!)

 乙女ゲーでの経験を思い出しつつ、私は彼らに接する。

(恋愛シミュレーションゲームが、本当にシミュレーションの役割を果たす日が来るとはね)


 妾奉公開始を始めてから半月ほど経った頃から、イレギュラーが起こることが増えてきた。

 例えば虎之助との外食デートの時。

 江戸のグルメに興味津々の地方出身虎之助と共に、蕎麦を手繰っていた時だった。

(ん? 視線?)

 辺りを見回すと、見覚えのある姿が目に入る。

(弥三郎!)

 大きな風呂敷包みを背負っているので、小間物屋の外回りの途中だろう。刺すような視線で虎之助を睨んでいる。

(ちょ、睨まないでよ! 今日は、虎之助と約束の日なんだから!)

 焦っていると虎之助が気付く。

「ひょっとしてアレ、旦那さんの一人かい?」

「えぇ、まぁ……」

「はは、すごい目だ。だが、今日の由香さんは拙者のものだからな」

 虎之助は笑いながら身を寄せてくる。弥三郎の眼差しが、ますます険しくなった。

 この日、虎之助を見送り一人長屋へ戻ると、案の定というべきか弥三郎が待ち構えていた。

「あんたはおれのもんだ」

 そう言ってしゃにむにしがみついてくる。熱烈だが拙い愛情表現。まるで駄々っ子のようだと、少し可愛らしくは思ったが。

(別の人の来る日じゃなくてよかった……)

 予定外の行動にはかなり困った。

 更にこの日、虎之助と私が共に蕎麦を手繰っていたのを目撃したのは、弥三郎だけではなかった。大工の源次もまた、建築中の建物の上から私たちを見ていたようなのだ。

「あれは、いい男だな。……俺とは違う」

 長屋を訪れた源次は、そう言ったきりがっしりと私を抱きしめて離さない。

(愛されてる感はあるけど、重い……!)

 来訪は予定通りだったが、そのまま翌日の昼過ぎまで、源次は私の側から離れようとしなかった。

 弥三郎と源次は特に、自身が独身ゆえに私に別の男の存在を感じると、嫉妬を覚えるのだろう。

(でも、安囲いという条件で契約しているんだから、他に男もいるよ!)

 そうは思うが、冷められて契約を切られても困る。何とかなだめすかして甘い言葉をささやき、ご機嫌を取るしかなかった。

 そういう意味では、与平はとても気楽な存在だった。私の元へはただ息抜きのためだけにやってくる。何を求めるでもなく、リラックスだけが目的のようだ。

(ただ私に執着がない分、本当に一ヶ月限りで去って行く可能性が高い)

 そんな彼の心を掴むのは、別の意味で頭を使った。


「由香さん、旦那さん方は四人とも引き続きあんたを囲いたいようだよ」

 約束のひと月が過ぎた時、私は口入屋の主人からそう告げられた。

「本当ですか!?」

「あぁ、旦那さん方は随分あんたを気に入ったようだ。案外やるねぇ、お前さん」

(やった……!)

 これで今月も四両の収入にありつけると、心の中でガッツポーズをとった時だった。

「でね、由香さんを囲いたいって方がもうお一方現れたんだよ」

「え!?」

「どうするね? この方にも囲ってもらって一両受け取るかい?」

(どうしよう……)

 四人をうまくさばきつつ付き合うのもかなり神経を使ったが。

(もう一人受け入れれば、収入が増える! 月に五両の当初の目標達成だ!)

 令和の世で換算すれば、収入十六万円から収入二十万円のアップになる。

「よろしくお願いします!」

「おお、助かるよ。早速話をつけておくからね」

(この一ヶ月でそこそこ慣れて来たし、あと一人くらいなら……!)

 不安と期待を抱えつつ、私の逆ハー生活は次のステージへと移ったのだ。


――完――

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囲われるだけの簡単じゃないお仕事 香久乃このみ @kakunoko

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