最終話 大事なのは王のプライド? 国の威信? それとも……
軍事国家アルタリアのこれ以上の覇権と暴走を止めるため。
僕の行動をきっかけとして国民全員と国王が動いてくれたのだ。ある意味、奇跡だなとお酒を飲みながら騎士団長のサリアさんは後に言ってくれた。
不可能と言われたミッションに
家族を守りたかった。国を守りたかった。日常を守りたかった。そんな全ての人々の願いが一致した結果だった。
国王様の達成不可能な依頼を受けたことが全ての始まりだ。誰もどうすることもできないと
「我々の情報収集の結果と、お前が軍事国家アルタリア周辺でも集めてくれた国家機密の内容も同じだった」
短期間によくもこれだけ調べ上げたものだと、騎士団長のサリアさんはそう言って笑った。
「普通なら常識外れも良いところだ。他国の国民を殺して国を手に入れてその後、何がしたいのか分からない。それに国民を虐殺した後に手に入れた国など、敵国への恨みしか残らない。そんな国を手に入れてどうするのか?」
「できる限り詳細に調べました」と、僕もお酒を飲みながら答えた。
「奴隷兵にするだけが目的なのか分からないが、国王に報告すべきだと私も判断した。スパイからも軍事国家アルタリアの状況が怪しいと報告があった。戦争の準備ではないかという疑いの報告はあちこちからあがった。それらを総合的に判断すると戦争の準備だと思わざるを得なかった」
騎士団長のサリアさんは心境を話してくれる。
「そしてお前が王城に忍び込むと連絡があった日の深夜に心配してたら、空も白む頃にいきなり『10日後に軍事国家アルタリアはサンクチュアリに攻め込むつもりだ! 魔剣も奪って逃走中! 対応を求む!』というお前からの爆弾情報だ。真偽の判断に迷った私は、国王に緊急事態だと打診をして運よく相談ができた。結果として我々はお前の情報を信じざるを得なかった」
と話して、最初は信じられなかったと笑う。
「国王がお前を信じて派兵した理由。それは今ままで
と僕は今までのことを褒められて知らずニヤニヤしてしまう。
「私もお前という友人を持って実に鼻が高い」
と騎士団長のサリアさんは今日の酒は格別だと笑っていた。
◇
また新人記者は魔剣グラムを奪って
「今回の多大なる功績をどう思われますか?」
と記者は僕に質問する。
「僕1人がしたことなんて、たいしたことはないです。でも自分の家族と国を守りたいという人々の想い、そして軍事国家アルタリアの恐怖の象徴と言える奴隷兵」
ふむふむとペンでひたすらに書きなぐる記者。
「そして最後は軍事国家アルタリアの暴走を止めたいと、みんなが思っていたという天運」
「ではまったくご自身の実力ではないと?」
メモにペンを走らせる記者。
「めぐり合わせが、たまたまうまくいっただけ。色々準備はしたけれど運がよくて、僕は助かっただけなんです」
と僕はあっけらかんと話していたと記事に載っていた。
また軍事国家アルタリアの国土統一の野望を打ち砕き、奴隷兵を禁止する条約を全世界に適用するよう
「万が一、誤った情報を信じたのだとしたら、儂が笑いものになればいいだけの話だ。国の威信だけでは民の命は救えない。民は国の宝だ。その民に被害が出ると分かっている情報と証拠がこれだけそろっているのに動かなかったら、それこそ儂は皆の笑いものになるしかなかろうて!」
と豪快に笑ったと言い伝えられている……
終
敵国の王城に忍び込み王家の秘宝、魔剣グラムを奪え! 冴木さとし@低浮上 @satoshi2022
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