転生したらこぶとりじいさんの世界だった

右中桂示

COB−TORYダンスバトル

 二十一世紀のあるところに暮らしていた若者は、ある日、交通事故で亡くなってしまいました。


 しかし若者は、気付くとおじいさんになっていました。ほっぺたに大きなこぶがあるおじいさんです。

 しかも昔の時代でした。周りはわらぶき屋根の家が並ぶ村でした。


 そこはちょっとした騒ぎになっています。その中心にいたのもまた、おじいさんでした。


「鬼の宴会に迷い込んで踊ったらこぶをとってくれたんだ!」


 その内容で、ああ、とおじいさんに転生した若者は気付きます。 


 ここはこぶとりじいさんの世界だと。

 そして自分は主人公のおじいさんの後に鬼の宴会へ行った二人目のおじいさんだと。


 ならばこの先の筋書きは知っています。

 転生おじいさんは山へ向かいました。




「昨夜とは違う人間だな」

「今夜は私が踊ります」

「なら踊ってみろ」


 鬼が宴会をしているところに乗り込めば、早速踊る事になりました。


 元若者の転生おじいさんは、前世でブレイクダンスをしていました。踊りには自信があります。

 いいえ、自信があるなんて話ではありません。

 プライドの問題です。

 踊りが下手だからこぶを増やされるという筋書きに、反抗したかったのです。

 負けず嫌いでしたから。

 この時代の鬼にも伝わるかは少し不安ですが、実力で強引に魅了してやると意気込みます。


 そうして踊り始めました。

 まずはステップ。

 軽やかに足をさばき、腕を振るって踊ります。

 お次はフットワーク。

 軽やかに全身を振り回して踊ります。

 そして大技、パワームーブ。

 背中や肩を地面につけ、回転して踊ります。

 最後にビシッとポーズを決めました。


「おおおおおおおお!」


 鬼にも好評のようです。

 やりきった転生おじいさんの口元には、自然と笑みが浮かびます。


 そんな中、ボスらしき鬼が前に出てきました。

 目の前にきた鬼の大きさや迫力は恐ろしいものでしたが、転生おじいさんは負けじと睨みます。


 しかし次の瞬間、とても驚きます。


「なっ!?」


 ボス鬼もブレイクダンスを始めたのです。


 ぎこちなさはありますが、どう見ても確かにブレイクダンス。鬼には似つかわしくないステップです。

 この鬼も転生したのでしょうか?


 しかしそんな疑問はすぐどうでもよくなりました。


 鬼のダンスに釘付けになったからです。

 速さ、高さ、体の大きさや筋力を活かしたダンスには認めるべき価値があったのです。


 なんとパワフル!

 なんとダイナミック!

 ぎこちなさを補って余りある力強さがありました。

 見ているこちらまで体を動かしたくなる、素晴らしいパフォーマンスです。


 転生おじいさんは震えます。

 強敵に、ダンサーとしてのプライドが刺激されます。


 ボスのダンスは佳境へ。ボスは逆立ちしました。

 ヘッドスピン。

 いいえ、角を基点に回っています。しかも片方を浮かせて。

 バランスをとるのは相当の難易度でしょう。それでも強引に成立させています。人間には不可能な大技でした。


 ダンスが終わり、ボスがポーズを決めれば、歓声があがりました。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 鬼は大盛りあがりです。転生おじいさんのダンスを見た時よりも、更に大きく。


 ボスは挑戦的に手招きしました。

 次のダンスを求めています。

 

 転生おじいさんは震えます。武者震いです。

 強敵を前に、燃え上がっていました。


 息を吸い込み、気合いを入れます。


「やってやる!」


 さっきよりも激しく。速く。熱く。

 全てをかけて踊ります。

 おじいさんの体だから無理は出来ないと思っていましたが、そんなものは知りません。慣れない体なんてのは言い訳です。

 熱い気持ちに任せて、踊るしかないのです。


 ステップはリズミカルに。

 フットワークは軽やかに。

 パワームーブは鮮やかに。

 力強さと同時に、手足の隅々まで意識した技巧を見せます。

 どんどん技を繋げます。

 両手をついてぐるぐると回転し、逆立ちして回転し、宙返りも織り交ぜます。

 汗が飛び散ります。苦しくても、表情は凛々しく保ちます。

 ボスのダンスに、負けるもんかと己を奮い立たせます。

 限界を超えて踊り尽くします。

 技の終わりにはビタッと回転を止め、静止。ここでも一切手を抜きません。


 最後まで踊りきりました。


「うううおおおおおおおおおおお!」


 山に響くのは、ボスの時よりも大きい大歓声です。

 鬼達は笑って騒いで、楽しんでいました。


 汗だくで息を切らした転生おじいさんも、この反応には満足して笑います。


 そこにボスが近寄ってきました。転生おじいさんの顔に手を伸ばします。

 思わず目を閉じましたが、なんともありません。目を開けると、ボスはこぶを持っていました。頬からこぶをとったようです。


 そう言えばそんな話だった。


 転生おじいさんは納得します。これはダンサーのプライドの問題だと意識するあまり、本来の筋書きを忘れていたのでした。


 そして宴会です。

 肉や酒もあります。飲んで騒いで踊って、とても楽しい宴会です。


 平和な昔話だな。

 転生おじいさんは心の中で思いました。


 しかしそこに、足音が聞こえてきました。

 現れたのはおじいさんです。

 村でこぶをとってもらったと言っていた、このお話の本来の主人公、こぶとりじいさんです。


 ですが、雰囲気が変わっていました。

 立ち姿には、闘志があります。緊張感があります。気迫を放っています。


 転生おじいさんは気付きました。


 このおじいさんも転生したダンサーだと。

 負けず嫌いで強者には挑まずにはいられない、好戦的なダンサーだと。


 何が平和な話だ。ダンスバトルはこんなにも刺激的じゃないか。


 だから立ち上がり、目の前に立ちました。

 二人のダンサーは向かい合い、火花を散らします。それを見た鬼も盛り上がってはやしたてます。


 今夜、ダンスバトルはまだまだ終わりません。

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