サイドストーリー
二匹の怪獣
幼い頃、うまく友達と付き合えない私はいつも意地悪をされていた。
「なおちゃんは〜……、最近までアメリカに留学してたけど、向こうの彼氏と別れて帰ってきた近所のお姉さん!」
「アメリカに留学してたけど、彼氏と別れて帰ってきた近所のお姉さん??」
おままごとでは、“お母さん”や“お姉さん”になりたかった。でも、いつも配役は、“野良犬”とか、“近所のおばさん”とか、“セールスに来た人”とか、「家族」にはなれなかった。
だけど、一人で遊ぶのは寂しいから、「家族」になれなくてもおままごとに参加していた。
「ねぇー、お姉さんはアメリカに行ってたんでしょ?えーご、しゃべれるんだよね?」
「え……」
「えーご、しゃべってよ」
「は、ハロー、とか……?」
「そんなの誰だって言えるじゃん!」
「だって……」
「ほんとうに、アメリカ行ってたのかなぁ〜」
泣きそうになった。英語なんてそんな知らない。知っているのはハローとグッバイとナイストゥーミーチューくらいだ。
「おっじゃましまーす!!」
そんな時だ。いきなり知らない女の子が入って来た。
「え、誰?」
「近くに引っ越して来たヤマダでーす。あいさつに来ました〜」
「はぁ、どうも……?」
困惑していたようだったけど、お母さん役のその子はとりあえず、女の子を家に招き入れた。
「あ、私、お茶とお菓子が欲しいですぅ〜」
女の子は入って早々、図々しく“お母さん”に言った。
「はい、どうぞ」
“お母さん”は仕方なく“お菓子”と“お茶”を出す。
「足りない……」
「え?」
「足りないわ……」
「え、何、もっと??」
「全然足りないぃぃぃーーー!」
その後女の子は「ウガァァァーーー!」と叫び出して、出された“お菓子”をひっくり返し、家の中のものをめちゃくちゃに壊し始めた。
「フッ、フフフ、フハハハハハ!実はワタシは別の惑星から来た怪獣だ!!」
「は、はぁ!?」
「今は腹が減って腹が減って仕方がない。――そこにいる人間どもをみんな食っちまおう!」
「え?えっ?えっっ!?」
「アガァァァァーーーー!!」
そう叫んでさらに“台所”も“リビング”も“寝室”もしっちゃかめっちゃにした。
「うわわわわっ」
“お母さん達”は慌てて逃げた。
私はあんぐりと口を開けたまま、その光景を見ていた。
「……ねぇ、名前、なんて言うの?」
“お母さん達”が去った後で“怪獣”は私に言った。
「へっ、あ……、さ、最近までアメリカに留学していたけど、向こうの彼氏と別れて帰って来た近所のお姉さんです……」
「いや、そうじゃなくて」
「……なお」
「なお?」
「うん」
「あたしはあずさ」
「あずさちゃん……」
「あずさ、でいいよ」
「うん、あずさ!」
「……ねぇ、なお」
「ん?」
「一緒に、人間の皮を被った怪獣ごっこやろ!」
そのときの笑った顔は怪獣なんかじゃなかった。
私を救ってくれたヒーローみたいに見えた。
「うん、いいよ!」
手を繋いで、二匹の“怪獣”は地球を荒らす。
大声で叫びながら。
とびきりの笑顔で。
ナゾの転校生 篠崎 時博 @shinozaki21
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