第2話 決めた覚悟
「...ここは?」
目覚めた場所は見慣れない場所だった。頭は枕に乗っているような感覚がし、お腹には温かいシーツがある感覚がする。
ベッドの上だろうか。
でも、何故私は寝ているのだろう。これは私のベッドでは無い。それに、この部屋だって知らない。
私が寝ている間、もしくはその前に何があったのだろう...。
「...」
思い出せない。
その為私は、他の情報を知るべく、腹筋に力を入れて起き上がった。
すると、他にもたくさんのベッドがこの部屋にあることが分かった。この特徴の施設と言えば、病院だろうか。
でもやっぱり、ここにいる理由が分からない。
ヒントは無いのだろうか...。
すると奥の壁にかけられている時計が目に入った。針は9時を指している。朝だ。
そういえばお腹が空いた。お母さんのご飯が食べたい。
「...ん?」
今、何か違和感っぽいものが...。
思い出せない...。
でも...思い出さなきゃいけないことなはず...。
...何分経っただろうか。
私はずっと必死に思い出そうと悩んでいた。
けど...全く思い出せない。
その時、私は誰かに話しかけられた。
「瑞紗さん、矢坂瑞紗さん。起きたんですね!良かったです...。」
声のした方を見ると医者と見られる人物が私の近くに立っていた。やはり、ここは病院だったのだ。
にしても人がここまで近くに来ていたというのに全く気づかなかった私はどうかしている。
ちなみに矢坂瑞紗とは私の名だ。どれだけ記憶を忘れていてもこれだけは変わらずに覚えれていた。不幸中の幸いと言うやつだろうか。
ぼーっとしている私を見て医師は、
「瑞紗さんはご両親のことを覚えていますか...?」
と暗い声で聞いてきた。さっきまでは「良かった」等と明るい声で話しかけて来ていたのに。
ていうか、『両親』?
確かに言われてみれば、お母さんだけじゃなくてお父さんにも何か違和感がある。
思い出せない...。
私は医師の方を見ずに、静かに首を横に振った。
医師の張り詰めた空気を間近で感じる。
「心苦しいですが...瑞紗さんの為にも言わせて頂きます。気分を悪くされましたら、すぐ言ってください。」
医師の言葉からして、両親に不幸なことが起きたのは推測できる。
けど...詳細が分からない。
すると医師は、すーっと空気を吸い込み、私に話し出した。
「単刀直入に言います。ご両親は...殺害されました。犯人の目星はついています。けれど...逮捕は不可能に近いです...。なぜなら...。」
医者はそこで一旦話を止めた。
この先の話が詳細だから、なのだろう。
けど、私にはその先はあまり必要無かった。
思い出したのだ。
その影響で、頭の中にあの時の光景が走馬灯のように走り出す。
そうだ。アイツ...あの化け物が...。
思い出すだけで悔しい。
その時、また医師が口を開いた。
「なぜなら..、ご両親は最近各地で存在が噂されている化け物、『デマイス(demise)』に殺害されたからです...。」
医師は全てを話終わったのか、黙り込み、私の方を見ている。
アイツはデマイスという名前なのか...。
多分、デマイスはある英単語の発音だ。確か終焉という意味となるdemiseのはず。
確かにアイツの行動に沿っている名前だ。
私は全てを思い出させてくれた医師にこう言った。
「話してくださり、ありがとうございます。」
ただ、これだけ。
その言葉を聞いた医師は口元に軽く笑みを浮かべ、机に朝食を置いてくれた。
「いただきます。」
私がそう言ってご飯を頬張る。
それをみた医師は、食事面は健康だと判断したのだろう。頭を撫でてくれた。
ゆっくりと医師の方へ顔を向ける。
医師は泣いていた。
その時は何故この人が泣いているのか理解が出来なかったが、理由は後日知った。
それは、あの事件の当日に、私は病院へ搬送されたと言うのに、目を覚ましたのは3週間後で、長時間眠っていたことが関係している。だから医師も、私が生きていたことに何かを深く感じていたのだろう。
ちなみにこの情報を教えてくれたのは私の専属となった看護師さんの相崎さん。
優しい人だし、手際も良い人だけど...、私に専属の看護師さんができたということは、しばらく私は病院生活なのだろう。
きっともう、あの家には戻れない。
それを悟った私は寂しさでいっぱいになった。私に愛情をくれた両親。その存在を失うということはつまり、私は一人になるということだ。それは...想像しているものより辛いこと。
そして私は復讐心等から、デマイスを倒すことを決意した。
正直言って、厳しい。けれど私は例の看護師から良い情報を聞いたのだ。
それは...。
(遡ること3日前のこと...。)
「瑞紗ちゃん、ビッグニュースだよ!」
私がベッドで本を読んでいると、いつもより高いテンションの相崎さんが部屋に入ってきた。相崎さんは看護師だっていうのに、普通に私の友達みたいな人だ。
「どうしたの?」
私がそう聞くと相崎さんは、目を輝かせながらこう言った。
「あのね!来月、この病院に大賢者様が訪れてくれるらしいの!」
大賢者...さま?
様がつくってことは、偉い人なのだろうけど私にはぴんとこなかった。
あまり喜んでいない私を見て相崎さんは何かを察してくれたのか、大賢者様について詳しく教えてくれた。
「大賢者様はね、魔法使いなの。いろんな魔法が使えてね...!あ、例えば...雷を降らせたり!それに、大賢者様って呼ばれるだけあって優しいのよ!貧困で苦しむ人々や他にも酷い扱いを受けている人々を助ける為、旅をしているの。それで最近はあの化け物を倒すべく頑張ってくれているらしいわ。ちなみに大賢者様が病院に来る理由は、医者にも治せない程の重い病気がある人々を治療する為よ。」
この話で、大体の人物像は相崎さんに教わったけれど...。聞けば聞くほどこんがらがる。
魔法使いで、優しくて、重い病気も治せて...。
正に謎の人物だ。
けれどこの人はあの化け物と対になる存在。それに、この人も化け物を倒そうとしているらしいし...。
そして深く悩んだ末、私は決意したのだ。
来月、大賢者様をなんとか説得して弟子にしてもらい、修行をする。
もしそれができたら、化け物を倒すのだって無理な話では無いはず。
そして私は同時に、もう一つ決意をした。
「無理だろうがなんだろうが関係ない。私は私を信じ通すんだ。絶対に迷わない。」
この決意が少女の冒険の始まりだった。
The world does not end @kyonnsii
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