第3話 初夢〈微言流素〉

「ウイルス」と聞けば、危険な感染症を連想する。


 そのため、微生物や細菌の仲間だと誤解もされるが、その一方で……。

「生物でないものが、どうして感染症を引き起こすのだろうか?」という疑問は残る。

 これはこれで、自然な感覚なのかもしれない。


  生物と非生物との狭間にてウイルスめらは生きてゐるとふ(医師脳)


 病原体から〈自己〉を守るための免疫システムにより、体内の〈非自己〉は排除される。

 ところが不思議なことに、母体(子宮)は(非自己であるはずの)胎児を育み続ける。

 ここで活躍するのが(胎盤の絨毛を取り囲む)合胞体性栄養膜である。

 この膜は胎児側へ酸素や栄養素を通すが(非自己を攻撃する)リンパ球等は通さない。

「合胞体性栄養膜の形成に関わるタンパク質〈シンシチン〉は、ヒトのゲノムに潜むウイルスの遺伝子に由来する」と言うから、神秘的でさえある。


  ウイルスの多様性こそ驚きけれ胎児を守るヒーローさへや


     *


 中国では、CОVID―19を「新型冠状病毒感染症」と書くようだ。

 しかし、全てのウイルスが〈病毒〉をまき散らすというわけではない。


 それにふさわしい借字を考えてみよう。

 細菌より微細なウイルスだから〈微〉を使いたい。

「ヴィールス」と、昔は呼んだことだし……。

「微言流素」ではどうだろう。


  人類の傲慢に対する警鐘を先住なる〈微言流素〉が鳴らすと覚ゆ


  〈微言流素〉は「さまよへる遺伝子」正にいま爆発的に世界をかけをり


      *


 正月らしく、ここからは初夢の話をしよう。


  俗に言ふ富士鷹茄子の初夢なく正月二日も熟睡に目覚む(令和2年)


  初夢を見しか見ざりしか二度寝して確かめたくなる温き床にて(令和3年)


  初夢に詠みたる短歌(うた)の目覚めにて消え去り願ふ夢の録画を(令和4年)


 令和5年の初夢は、どんなストーリーだろうか。


 ――つがる方面先遣隊の隊長が身体中のギザギザを震わせながら報告している。

「新しい攻撃目標を発見しました!」

「それで?」という司令官の催促に応えて、ギザギザを更に震わせながら続ける。

「病院に入院中の癌患者さんに潜入したところ、猛烈なスピードで増殖する〈癌細胞〉というものを発見しました。これをターゲットにすれば、我々の部隊も際限なく増殖することができるのではないかと愚考して……」

 ここまで聞いた司令官は、ギザギザを千切れんばかりに震わせながら大声で命令した。

「これより直ちに、攻撃目標を正常細胞から癌細胞に変更する!」


 それから数日後のことだが、津軽癌センター(ТCC)は大騒ぎになっていた。

 院長室では、主治医たちが興奮して報告している。

「私の受け持ちの患者さんですが、5人とも腫瘍の影が消えてしまいました」

「私の癌患者さんは、8人とも腫瘍マーカーが正常域まで低下しました」

「治療法を変えたのかね?」と尋ねた病院長に、白衣の一団は一斉に首を横に振る。

 その後ろでレジデントが呟いた。

「あの~、その患者さん全員がコロナの抗原検査で陽性と出ていましたけど、これって関係ないですよね……」

 それを病院長は聞き逃さなかった。

「よしそれだ!」と叫び、ただちに臨床研究を準備させる。


 その二か月後、津軽メディカルジャーナル(ТMJ)の電子版に速報が載った。

『新型コロナウイルス感染で癌が縮小した』というタイトルは、グーグル翻訳で中国語になっている。

『由於新的冠狀病毒感染,癌症已經縮小』――初夢予告編。


 明けましておめでとうございます。

新年も御愛読のほど宜しくお願い致します。


(2023元旦)



     🙏


『みちのく春秋』のオーナー且つ発行者急死にうろたふ 続刊渇望す(医師脳)


 オーナーであり発行者の訃報は全くの衝撃!


 発刊の理念:https://www.michinokushunju.com/philosophy.html

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