杯傾ける縁側

やまおり亭

春、杯傾ける

天麩羅てんぷら西瓜すいかは食い合わせが悪い、って話があるだろう」

 目の前に座る、雇い主の男が言った。

 聞いたことはある。

 西瓜の水分が胃液を薄め、天麩羅油の消化を妨げるのだったか。

 たったそれだけのことで具合が悪くなってしまうのだから、身体というのは意外に繊細だ。繊細であるからこそ、こうして四季折々しきおりおり、細やかに食べ物の味や香りを楽しめるのかもしれないが──。

 そんなことを考えながら、葱坊主ねぎぼうずの天麩羅をかじり、ビールで唇を濡らす。

「ならば、だ。加島かしま君、天麩羅とビールだって相当じゃないか?」

 その瞬間を待っていたかのように、男が続けるものだから、

「それでも俺はビールを飲みますよ。強いので」

 グラスに残ったビールをぐいと干してそう返せば、男──佐々波さざなみさんは、にんまりと目を細めた。

 珍しいものを面白がるような視線だ。

 どうにも、落ち着かない。

 こうして酒と肴を二人で囲んでからこっち、佐々波さんはくろぐろとしたまあるい眼で、少しの遠慮もなく俺を見ていた。観察していたと言ってもいい。

 それがなんだか悔しくて、俺も折に触れては佐々波さんの造作を盗み見た。

 黒い目に、黒い髪。

 唇は薄く、肌はなめらか。金槌かなづちでコンと叩いたら澄んだ音がしそうだ。

 その薄い唇で、佐々波さんは言った。

「ビールを飲むのは久々だと言っていたくせに」

「酒じゃなくて胃腸の話です」

 苛立ちを見せてやるのは癪で、努めて淡々と言葉を紡ぐ。

 佐々波さんはいっそう上機嫌な様子で、俺と自分のグラスにまたビールを満たした。

 俺の手のひらで覆ってしまえるくらいの小ぶりなグラス。縁のすぐ側まで注がれた黄金色の液体が、ぷちぷちと気泡を発している。注ぎ方に気を遣って白い泡の層を作るなどという考えは、佐々波さんには無いようだ。

 苦いアルコールで染められたグラスをぐいとあおって、佐々波さんを見る。

 そして考えた。

 ──この人、どうして俺を酒に誘ったんだ?

 俺と佐々波さんは互いへの無関心ゆえ、今日まで上手くやってきた。少なくとも、俺はそう思っていた。

 だというのに、それを壊そうというのか、この人は。



 佐々波さんの家を初めて訪れたのは、大学二年生への進級を控えた春休みのこと。

 ──でかいなあ。

 門前に立ち、最初に出た感想がそれだった。

 バスに揺られ、やってきたのは東京二十三区外、三鷹みたか深大寺じんだいじ。平屋造りの一軒家は、うっそうと繁る若葉に覆われている。

 古風な数寄屋すきやづくりの外玄関に取り付けられた、真新しいインターホンを鳴らすと、

「はい、どちらさまでしょう」

 落ち着いた、女性の声がした。

「加島と申します。面接の件で伺いました」

「かしこまりました。ただいま──」

 やがて現れたスーツ姿の女性は、俺を見てほがらかに微笑んだ。

「お待ちしておりました、どうぞ」

「どうも」

 小さく頭を下げ、女性に連れられて中に入る。

 白い敷石を踏んで玄関の敷居をまたぐと、土間にはすでに何足もの靴が脱ぎ置かれていた。

「ライバルが多いな」そう思った。

 それというのも、ここにやってきた用向きというのが、とあるアルバイトの面接であったからだ。

 雇われるのは、ひとりだけだと聞いていた。



 面接の結果、俺はこの家の主に雇われた。

 家の主は、あの若いスーツ姿の女性──ではなく、ひとりの男だった。

 正確な歳はわからないが、俺よりは上であるように思う。

 雇い主の男にどう呼べばいいか尋ねたところ、男は「佐々波」と名乗った。

 名前か名字かは教えられなかった。しかし、雇い主がそう呼べというのだから、どちらでも構わないだろう。

 俺のありついた仕事は、佐々波さんの棲家すみかの管理だ。

 ひとり暮らしには少し大きすぎるこの一軒家は、佐々波さんがご両親から継いだものらしい。

「いささか手に余っているんだ。特に庭がひどい」

 俺が初めて出勤した日、佐々波さんはそう言った。

 彼の言葉通り、縁側に面した中庭の草木は、春であることを差し引いても伸び放題に伸びていた。

 日陰で土を柔らかく押し上げているのは、紫の小花を咲かせる名も知らぬ草たち。

 レンガの詰まれた日の当たる一角は、かつて花壇であったのだろうか。こぼれた花の種が、じわじわと境界線を侵し勢力を拡大している。

 庭をぐるりと囲むように植えられているのは、少し背の高い木々だ。

 外からの視線を遮るのが目的なのだろうが、それ以外の意図は感じられない。

 ありものを思いつくままに植えたような、統一感のない枝葉、幹の色形。ただ、いずれもみずみずしい若葉を纏っている。

 葉と枝の間をすり抜けた陽光が、健やかな木に囲まれた薄暗い庭の隅を、ぼうと照らしていた。

 確かに、手入れのされていない荒れた庭だ。

 だが、俺は──

「きれいですね」

 この庭を整えて、描いてみたい。

 初めてここを見た時から、ずっとそう思っていた。

「そうか? こだわりはないから、きみの好きにしてくれ」

 物珍しそうに俺を見て、佐々波さんは言った。

「いいんですか?」

「ああ、いっそ更地にしてくれたっていい」

 その言葉に腕まくりをする。

 視界の端で、佐々波さんが小さく肩をすくめていた。



 今日は大学が休みだったので、午前十時には佐々波さんの家に着いた。

 ──おじゃまします。

 小声で呟き、不用心にも初日から預けられた鍵で、家の中に入り込む。

 鍵を預けられてはいるものの、平日休祝日の別なく、この家には常に佐々波さんの気配があった。

「仕事を始めるときも終えるときも、僕に声をかける必要はない。僕の私室には立ち入らないこと。それ以外は、きみの好きにやってくれ」

 他でもない佐々波さんがそう言ったため、遠慮なく好きにやらせてもらっている。

 バイト先の人間と他愛ない雑談を楽しむのに気力を使う性質なので、この言いつけは正直ありがたかった。

 いつも通りに庭を整え、屋内を掃き清めて洗濯機を回す。居間の座卓に書置きがあれば買い出しや簡単な炊事もこなすのだが、今日は必要ないらしい。

 たったこれだけで、給金はそこいらのカフェで終日働いたのと同じくらい出る。

 仕事が終われば、持ち込んだイーゼルを庭に立て、縁側に腰掛けて絵を描いた。

 必要以上に関わってこない雇い主と、黙々と手を動かせば数時間で完結する仕事。

 しかも俺好みの美しい庭を好きに整えて、仕事が終われば日がな一日絵を描けるのだから、これほど都合の良いアルバイトはない。

 今日までは、そう思っていた。

「加島君」

「え?」

 描き始めて、三時間ほど経った頃。

 そろそろお暇しようかと筆を止めたところで、佐々波さんに声をかけられた。

 面と向かって話をするのは、アルバイト初日に業務の説明をされて以来のことだ。

「葱坊主をもらったんだ。ちょっとやっていかないか」

 佐々波さんの左手が、架空の杯を傾ける。

 酒に誘われたのだとわかった。

「はあ──」

 正直、気乗りがしない。

 応えあぐね、視線を空へと向けた。

 まだ日は高く、縁側には温かな日差しが惜しみなく降り注いでいる。

 俺はすでに成人しているが、大学の同期の大半は、そうではない。

 ゆえに俺も、そう飲み慣れてはいなかった。

 少なくとも、こんな時間から酒を飲むことに謎の罪悪感を覚えるくらいには。

 だが──

「葱坊主の天麩羅、喰ったことあるかい? ビールもつけよう」

「頂きます、ぜひ」

 その言葉で、俺は一も二もなく首を縦に振った。

 自宅でやるには手間がかかりすぎるが、出来合いのものを満足するだけ買うとやけに高い。

 ひとり暮らしの大学生にとって、天麩羅とはそういうものだ。

 加えて、今日はたまたま昼を抜いていた。

 天麩羅とビールという如何いかにもな組み合わせに、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。



 葱坊主の天麩羅を揚げたのは、佐々波さんだ。

「料理、できたんですね」

「自分の飯を用意するのに困らないくらいにはな」

 小麦粉の軽い衣で薄く包まれた葱坊主に、ぱらりと塩を振っただけのシンプルな天麩羅。大瓶にたっぷりのビールと、小さな二つのグラス。

 それらを縁側に据え、両側に俺と佐々波さんが腰を下ろした。

「乾杯」

「乾杯」

 グラスを掲げ、躊躇ちゅうちょなく酒を干す佐々波さんの後を追い、グラスに少しだけ口を付ける。

 俺の仕草を見て、佐々波さんが怪訝けげんな顔をした。

「ビールは苦手だったか?」

「いえ、飲むのが久しぶりなだけです。成人式で乾杯したっきりで」

「そうか。僕がビールと言うなり誘いに乗ったから、てっきり好きなんだと」

「俺がつられたのは天麩羅のほうです」

「ああ、飲兵衛のんべえじゃなく食いしん坊だったか」

 佐々波さんが、天麩羅の皿をこちらに軽く押しやる。

「別に、俺は普通ですよ」

 むっとしかけたが、天麩羅に罪はない。

 気を取り直して、ころころと積み上げられた葱坊主を箸で捕らえた。

 口に運べば、舌に触れるかすかな塩味。追って衣の油が香った。

 やけどをしないよう、慎重に歯を立てる。

 さくり。

 ──あ、美味い。

 葱坊主を食べるのは初めてだった。

 ほろ苦くて、春らしい味。ほんの少しだけ、葱の甘いところの匂いがする。

「やっぱり葱坊主は天麩羅だな」

 佐々波さんも最初のひとつを口に運び、ほくほくと味わっていた。

「その辺の店でおいそれと買えないのが惜しい」

「もしかして、これ、高いものなんですか?」

「高いものじゃない。だが珍しいものではあるかもな」

「え──」

 思わず箸を引いた俺を見て、佐々波さんはにやりと笑う。

「だから、ありがたがりながら、遠慮せず食べるといい」

「──はい」

「ああ、そうだ」

 佐々波さんが、ついと箸で天麩羅を指す。

「天麩羅と西瓜は食い合わせが悪い、って話があるだろう」

 聞いたことはある。

 西瓜の水分が胃液を薄め、天麩羅油の消化を妨げるのだったか──



 佐々波さんは意地が悪いが、おそらく悪人ではないんだろう。

 同時に、どうにも食えない人だ。

 思えば、佐々波さんはアルバイトの面接のときからこうだった。

 ──あれを面接を呼べるのならば、だが。



 俺が初めて佐々波さんの家の敷居をまたいだ、あの日──

「よし、きみにする」

 そう言われたのは、面接会場である部屋の全貌を把握する前だった。

 俺をここまで案内してくれたスーツの女性が、「あら」とこちらを振り返る。

 俺はと言えば、部屋を仕切る障子戸が開けられた瞬間、右手に広がる明るい中庭に目を奪われていたものだから、まだ部屋に足を踏み入れることすらできずにいた。

「……えっ」

 やや遅れて庭から視線を引きはがし、初めて部屋の中に目を遣る。

 毛羽のない畳の上に、黒く光る木製の座卓が据えられていた。

 たぶん、居間なのだろう。

 座卓の向こう側には男が座っていた。若い男だ。白い開襟シャツの袖を片側だけまくって、剥き出しの肘で卓上に頬杖をついている。

 この時の俺は知らなかったけれど、この男こそが家の主であり、後に俺の雇い主となる佐々波さんだ。

 男が、じっと俺を見る。

 負けじと見返せば、男は口元に笑みを浮かべて視線を横に滑らせた。

「面接は終わりだ。サ、帰った帰った」

 部屋の中で、複数の人間が息を呑んだ。

 ここからは見えない位置に、何人かが立っていたらしい。

 障子の陰で、人の動く気配がする。彼らの退出を妨げないよう脇に避けると、俺が立っていた場所に次々と人影が現れた。

 俺と同じく、アルバイトの面接を受けに来た人たちなのだろう。

 詰襟の学生服を着た青年、俺と同い年くらいの女の子、年上の男性、うんと年上の還暦が近そうな女性。

「────」

 皆、無言。その上、すれ違い様になんとも恨みがましい目でこちらを見てくる。

 無理もない。俺が選ばれた理由が、当の俺にすらわからないのだから。

 最後に、スーツの女性が廊下に出た。

「加島さん、これからよろしくお願いしますね」

 女性はそう言って、他の候補者──元候補者たちと共に、玄関へと去っていく。

 どうして俺の名前を知っているのかと疑問に思いかけたが、そういえば面接前に玄関先で名乗ったのだった。

 そんなことを考えながら、女性のしゃんと伸びた背中を見送っていたら、

「きみ、加島というんだな」

 さきほどの男が、いつの間にかすぐ側に立っていた。

 そのままどこかへ去らんとする男を、とっさに引き留める。

「あの」

「なんだ?」

「そこの庭の絵を描かせてもらえませんか。もちろん、仕事が終わった後で」

 男はしばし無言で俺を見て、

「好きにしていい。ただ、静かにやってくれよ」

 そう言うと、今度こそどこかへ行ってしまった。



 そんなこともあった──と、

「今日は、急に誘って悪かったな」

 男──佐々波さんの声で、我に返る。

 顔を上げれば、薄く微笑む佐々波さんと目が合った。

「きみ、驚いていただろう。困ってもいた」

「いえ──」

 言葉に詰まると、佐々波さんの笑みが深くなる。

「ついさっき、やっと脱稿したんだ。それで少し浮かれていた」

「脱稿?」

「原稿を書き上げて、提出し終わったってことさ」

「あんた、物書きだったんですか」

「言ってなかったか?」

「ええ、まあ」

「僕は仮にも、きみの雇い主なんだがな。自分の給料がどこから来てるか気にならなかったのか?」

「────」

 気にならなかったと言えば嘘になる。

 あんな採用の仕方をされて、気にならないはずがないだろう。

 ──だが、

「俺の仕事には関係ないことでしょう」

 そう思って、今まで気にしないようにしていたのだ。

「へえ、そうか」佐々波さんは気の抜けた声を上げて、グラスに残ったビールを干した。

 酌でもしようかと手を伸ばした俺を制し、自らビール瓶をひっつかんで、とくとくとグラスに注いでいく。

 瓶を傾ける佐々波さんの手は、左手だ。

 左はシャツの腕をまくっているのに、右は袖のボタンまできっちり留めていた。

 佐々波さんと初めて出会ったあの日、片方だけ腕まくりをしていたのも、確か左であったような──

 癖なのだろうか。左利きなのかもしれない。

 そんなことを考えながら、佐々波さんをぼうっと見ていると、

「どうした、加島君」

「あ、いえ──」

 また目が合って、どきりとした。

 とっさに視線を下に逸らすと、佐々波さんも俺の手元を見る。

「グラスが空いてるじゃないか。気づかなかった」

 どうやら、ビールを催促していると思われたらしい。

 瓶を手に、こちらに乗り出す佐々波さんを、俺は慌てて止めようとした。

「その、大丈夫です。自分で」

「いいんだ。ねぎらわせてくれ」

 そう言われると、返す言葉がない。

「うちに来てくれたのがきみで、助かってる」

「それは、どうも」

 駄目押しに負け、大人しく空のグラスを差し出す。

 佐々波さんは、至極楽しそうに俺のグラスを満たした。

「では、改めて──乾杯」

「乾杯」

 今度はグラスを掲げるだけでなく、互いに軽く打ち合わせる。

 硝子のぶつかり合う澄んだ音が、やけに耳に残った。

 どちらからともなくグラスの半分ほどを空けて、庭を眺める。

「継いだときは持てあましていたが──」

 立てた片膝に上半身を預け、佐々波さんはしみじみと言った。

 怜悧れいりな横顔が、ふわりと緩む。

「庭が美しいってのは、存外悪いことじゃあないな」

 満足気にビールを呷る顔は、なんだか幼く見えた。

 考えていたより、俺と年が近いのかもしれない。

 その表情に、なんともいえない親しみを覚えたせいだろうか──

「どうして俺に決めたんですか」

 自然と、言葉が口をついた。今なら聞いても良いのだろうと思ったのだ。

 佐々波さんが、言葉も交わさず俺を採用したのは何故か。

 ずっと疑問だった。俺が雇われた理由も、それを決めた佐々波さん自身にも、俺は興味を持っていた。

 だが同時に、おいそれと聞いてはいけないような気もしていた。

 あの日の佐々波さんの態度が、どうにも奇妙だったからだ。

 触らぬ神に祟りなし。好奇心を満たすためだけに、せっかくありついた割のいい仕事を失うのも馬鹿らしい。

 そういったわけで、俺は佐々波さんへの興味を努めて失うようにしていた。

 興味を失うよう努力していたのだという事実を、今このとき、他ならぬこの人が思い出させてしまうまでは。

「そうだなあ──」

 詳しくは言わずとも、佐々波さんは俺の聞きたいことを察したようだった。

 グラスをこつんと縁側に置き、神妙に俺と目を合わせる。

「いちばん美しかったからさ」

「──は?」

「真に受けるなよ。冗談だ」

 からからと笑って、佐々波さんは最後の葱坊主を口に放り込んだ。

 山のようにあった葱坊主の天麩羅は、いつの間にかすべて俺たちの胃に収まっていた。

「面接の日、きみは僕を見て目の色を変えなかったろう」

 佐々波さんが言う。

「だから、僕のことを知らないんだろうと思って雇った」

「────」

「きみ、必死な顔で僕を呼び止めたと思ったら、仕事の後は庭で絵を描きたいなんて言うんだものな。僕の見立ては大当たりだったわけだ」

「あんた、もしかして有名な作家なんですか?」

「さあ、どうだろう」

「はぐらかさないでくださいよ」

 そんなふうに言うってことは、そこそこ顔が売れている人なのだろう。

「マア少なくとも、きみに顔を知られていない程度の作家だよ」

「それは──だとしても、採用初日に自宅の鍵を渡すのは不用心が過ぎませんか」

「何かあったら、それはそれ。とびっきりのネタになる」

「なんですか、そりゃ──」

 豪快なのか、適当なのか。

 いずれにせよ、今まで抑えつけていた佐々波さんへの興味が一気に膨らむのを感じた。

「佐々波ってのは筆名ですか? それとも本名?」

「知りたいなら、掃除のついでに本棚でも漁ってみたらいい」

「いいんですか?」

「きみなら問題ない。読みたい本があれば持っていけよ。そのかわり──」

 佐々波さんの目が、柔らかく細められる。

「また、こうして飲もう」

「────」

 気づけば、俺は頷いていた。

 こうして俺と佐々波さんは、たびたび酒を酌み交わす仲になったのだ。

 この、美しい縁側で。

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