第15話 札幌駅占拠

「ん?」


 氷継ひつぎは突然の怒号に頭を傾げる。

 優柰ゆうだいも彼に続いて奴らの装備を一瞥いちべつしたが、そこまでの脅威を感じはしなかった。それもそのはずで、奴らが手にしているのは魔力を有した『魔弾』を使用する銃器ではなく、現在では旧式となった鉛のみの銃器。当然生身であれば非常に危険だが、魔法などの防御術があれば容易に防げてしまう。

 先日の一件以降、確かに治安は多少悪くなったが、それでもこういった程度なら強化された見回りの軍部の人間で十分対処可能だろう。


「なあ、優柰。どうなると思う?」


「そうだね~、警備員とか学生も多いし犠牲者ゼロで制圧できる...と思うけど。あっちがノープランかどうかによるかな」


「何ベラベラ喋ってやがる!!静かにしろ!」


「へーい」


 力ない返事と共に、脱力した手を上に上げ抵抗の意思は無いことを示す。その態度には特に反応を示さず、何やら店員に指示をしている。


 ───俺らの制服見て何も反応しない辺り、何かあるな


 流石に札幌駅を占拠したとなるとただのチンピラの集まりではないだろう。


「ここは僕がやろう、異能を使う」


「!?何言ってる...お前に異能は───」


「【逆行する運命者アナザー・ジ・フェイター】=罪人の鎖アウター・ザ・チェーン=」


 氷継ひつぎの言葉をさえぎる様に席を飛び出て通路へ。そのまま奴らに向けて異能を発動する。彼の背後に顕現けんげんされた無数の陣から鎖が伸び、罪人を拘束した。鎖一つ一つに細かく刻まれたルーン文字が紅く輝き、奴らの体内から少量の魔力を吸収しエーテルへ変換して陣の中に蓄えた。


「こんなことをしても無駄さァ...」


 拘束された内の一人が笑みを浮かべる。


「この駅には何十と仲間がいる。それに...あれを使えば被害は駅だけじゃァ済まないぜ?」


、とはなんだ」


「クックック...そいつァ餌だよ」


「っな!あれをここで使う気か!!」


「餌...ってなんだ?」


 席から聞き耳を立てていた氷継ひつぎが疑問を浮かべた。


「業界用語よ。裂界を強制的に引き起こす成分が含まれた結晶、領域接続結晶Region Link Crystal、通称RLC。そしてその結晶には領界種を引き寄せる成分が多量に含まれてる。だから、餌って呼ばれてるの」


「裂界...確か領域が現れる現象のことか。あの言葉がブラフじゃないんだとしたら、まずいなんてもんじゃねぇぞ」


 そう呟いて席を立ち優柰ゆうだいの隣に立った。


「それを使ったらどうなるか、知らない訳じゃないだろ!仲間はあと何人いる!場所は!」


 優柰ゆうだいはチンピラの一人に詰め寄り問いただす。だが、奴はへらへらと笑うだけで当然ながらその問には答えなかった。


「悪いが俺達はただのチンピラじゃァない。わかってるだろぉ?お•坊•っ•ち•ゃ•ま」


 その言葉を合図に徐に口を動かし、何かを噛み砕き飲み込んだ。数秒苦しむ様を見せ、脱力した。奴らに息は無く、脈もない。


「自害したってのか...」


「そう、みたいだね」


 二人は唖然として言葉が出なかった。


「二人共、どうします?」


「...僕らでどうにかするしかない。まずはこの場を収めよう」


 そう言って優柰ゆうだいは店内に居る人達に呼び掛ける。


「僕らは領域探査学院の生徒です。この場は一先ず安全になりました!ですが、まだ奴らがこの駅に潜んでいる可能性があります。なので、皆さんはまだこの場に留まっていて下さい!」


 彼の呼び掛けで緊張の糸が切れたのか、皆それぞれ肩の力を抜き安堵の表情を浮かべる。優柰ゆうだいは彼女らにこの場を任せて、氷継ひつぎを連れて店を後にした。

 優柰ゆうだいは顎に手を当てて少し考える。


「優柰、どうする。どう炙り出すつもりだ」


「落ち着いて氷継、それなら大丈夫だよ。どうせあっちからアクションがあるさ」


 その言葉の数秒後、館内放送が流れ首謀者とおぼしき人物の声が響く。


『ここ札幌駅は我らが占拠した。我らの要求をのまなければ、この駅に餌を撒き、外界と接続させる。何が起こるかは重々承知している。の大阪府と同じ末路を辿りたくなくば、北海道ここで保有している淵核産器えんかくさんきを我らに渡せ』


「淵核産器ぃ??なんだその中二病チックな兵器は」


「氷継、意思の宿る武具を知ってるかい」


「ん?ああ、中学の時の歴史と国語に出てきたな...確か、魂の込められた武具には精霊が宿る。そしてその精霊と契約をした者には絶大な力が与えられる。その名を継願具けいがんぐ


「よく覚えてるね...。そう、そしてその武具の大元でそれを産み出す為の器、それが淵核産器。もしそれが奴らに渡れば大変だよ」


「だけど、継願具を作るために必要な人間がいない。魂込めるなんて、気合いでどうこうできるもんじゃないだろ」


 しばしの沈黙の後、優柰ゆうだいは重い口を開いた。


「継願具は名匠だけが作れる訳じゃないんだ。淵核産器はある一定のレベルに達している武具に、強制的に精霊―――魂を植え付けられるんだ」


「......まじかよ。誰にでも使える代物ってわけだな、淵核産器ってのは。まあ、色んなもん無視すればだけど」


 冷や汗が氷継ひつぎの頬を伝う。


「うん。この放送、たぶんもう外には伝わってるはずだけど、僕らでやるしかないと思う。外部からは下手に手出しできないだろうし」


 無言で頷き、人が集められているであろうSTELLAR PLACEステラプレイス一階へと向かう。事態は一刻を争う、二人はケースから武器を走りながら取り出し、エスカレーターをジャンプで時間短縮をして一階へ急ぐ。想継エーテル術式【宿脚クルース】による脚力強化で通常では無し得ない脚力を実現し、着地時の衝撃をほぼ無視してそのまま突き進む。

 途中、武装した襲撃者がちらほら点在していたが、優柰ゆうだいの異能で素早く無力化しその場に拘束していた。

 一階に到着し、広場が見える位置にあった遮蔽物へと身を隠して様子を伺う。広場には無数の人が魔法によって手足を拘束され、中心に立つ襲撃者に怯えている。その中には探査学院の生徒もおり、ただただ恐怖しているだけだった。


「どうする...。うちの学院の奴らまで捕まってるぞ」


 若干顔をひきつらせながら隣にいる優柰ゆうだいに問う。


「どうもこうもない気もするけど......。いっそ真正面から行ってみるしかないんじゃないかな」


「おいおい、例のクリスタルもあるしその選択を危険だろ」


「他に案がない...と、言うより僕らはあくまで対化物専門だからね。対人となるとそうするしかないよ。それじゃ、行こうか!」


「はぁ~...お前って頭脳派に見えてわりかし脳筋だよなぁっと」


 二人は立ち上がって剣を抜く。三つの刃が窓から差し込む光で照らされ、輝きを放つ。

 二人に気付いた襲撃者達数名が各々の武器を構えて走り寄ってくる。


「お先にどうぞ」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 そう言って優柰ゆうだいが二振りの剣にエーテルを流し込む。氷継ひつぎとは違いルーン文字をなぞらずともそこへエーテルを流せる、それこそ彼が熟練者何よりの証拠だろう。


想継エーテル剣技式【霖雨蒼生レイニー・フォウレント】」

 

 常磐色の光が九つの斬撃と共に輝く。襲い掛かる奴らの持つ武器だけに刃を当て、手から弾きそのまま異能で拘束した。


「ッガ!」


「悪いけど君達に自決はさせないよ」


 異能で産み出した鎖を口に咥えさせ、薬を飲ませないように対策する。


「あーあ、口にそんなもん咥えさせるなよな...」


「これくらいがお似合いだよ」


「ははっ。そういうとこほんと好きだわ」


 


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領域を統べる英雄譚 NoiR/ノワール @SY-07

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