第14話 事件発生

 札幌駅。札幌市にある駅でJR以外にも地下鉄やショッピング施設などが合体した複合施設。また日本で初めて自動運転昨日を備えた電車や、エーテルを主なエネルギーとした新幹線の導入―――試験的運用ではあるが―――をしたのもこの札幌駅だ。

 現在札幌市の都市再開発に向けて、周辺にはホテルやレジャー施設の建設が予定されており、その全てが地下歩行空間からのアクセスが可能になるとのこと。もしそれが実現すれば北海道への観光客はより一層増加し、地元民も潤うだろう。

 氷継ひつぎ達は店を後にしてから、そのまま近くの地下へのエスカレーターで地下に降り、そこから札幌駅まで地下歩行空間を使って目的地に移動した。時刻は既に午後十六時を回り、辺りは緋色に染まってさながら秋の紅葉の様。駅には帰宅中の学生が多く、ちらほら社会人も見え始めていた。


「結構人増えてきたな~」


「そうだね、時間も時間だし。僕らの荷物的にも人に気をつけて歩こうか」


 札幌駅五階。他の階同様にレディース・メンズのファッションブランドが並ぶここは、学生には少しばかり高い値段だが、1ヶ月バイトをすれば全く問題のないくらい。それに氷継ひつぎ以外の三人は貴族階級、あまり気にすることでもないだろう。


「これ、アルちゃんに似合いそうね!」


 そう言って輝夜かぐやはアルベントにベルトのついたベストをあてがった。丈感は短めでカラーは抹茶色、落ち着いた雰囲気が彼女にピッタリだ。


「良いですねこれ、自宅にある物とも合いそうです」


 エメラルドグリーン色の瞳の彼女に良く似合う。

 その一方男性陣は服を見るもあまりピンと来てはいないようだった。


氷継ひつぎ、君は...お洒落するかい?」


 袖口がワイドになっているジャケットを手に取り、凝視しながら問う。


「いや全く。中学は部活三昧だったからな......」


 フレアパンツ型の黒ジーンズを手に取り、凝視しながら答える。二人とも同じ顔同じ動作で首を捻っては、よくわからないと元の位置に戻すばかり。


「じゃあ、私達でコーディネイトしてあげるわ」


「ぜ、全身??」


 氷継ひつぎ輝夜かぐやの提案に耳を疑った。


「そ、全身」


 再びお財布の泣く声が聞こえた気がした。


「という訳だから、優ちゃん」


「は~い」


 いつものことと言わんばかりに、気の抜けた返事をしそのままアルベントに実を委ねる。彼女が優奈ゆうだいに似合いそうな服をどんどんあてがい、その間彼はただじっとしていた。


「ほら、私達も選ぶわよ」


「おー」


 ―――もうどうにでもなれ


 一時間後、ガサっと大きめの紙製の袋を四袋を持つ黒髪の彼と六袋持つ金髪の彼が大きなため息と共に女性陣の後ろを歩く。


「どうにでもなりすぎちゃった...」


「氷継、大丈夫かい?その......お財布」


「お財布どころか口座も泣いてる」


 彼ら二人はそれぞれ衣類を大量に買わされ、氷継ひつぎに至っては財布が泣くどころの話ではないくらい。その前を歩く彼女らはとても満足そうに鼻歌混じりに歩いている。二人も大きめの袋を一つずつ持っており、望んだ商品は手に入ったらしい。


「この後は夕食にしましょうか」


「そうですね」


「お、おう...」


「氷継、いざとなったら僕が出すよ」


「いや、まだ大丈夫だ...意味わからんくらい高くなければな......」


「いくら貴族階級だからって普通にチェーン店よ」


「命拾いした」


 ホッと胸を撫で下ろす。氷継ひつぎは左手に全ての紙袋を持たせ、右手で制服の内ポケットからスマホを取り出してLinkを起動する。



        ───Link───


氷継『母さん、今日は友達と夕食済ませるから俺の分はなくて大丈夫』


母『は~い、ちなみに誰と~?』


氷継『優柰と輝夜、それにアルベントだよ。母さんなら全員と顔見知りだろ?』


母『わ~!その子達なら安心ね!!』


氷継『母さん、俺もう高校生なんだけど』


母『親からすればずっと変わらず可愛い子供よ。楽しんできて~!』


        ───◇◇◇───


「うっし連絡完了」


 ぱぱっとスマホの電源を落としてポケットにしまう。

 氷継ひつぎの中学生時代は部活に明け暮れ、あまりこういった友人との外出は少なかった。きっと、無意識に生まれた罪悪感───から目を背けていたこと───からだろう。


「氷継君、何か食べたい物はある?」


「え、俺?う~ん......蕎麦かなあ」


「それお昼も食べたでしょ~?ふふっ好きなのね、蕎麦」


 輝夜かぐやが呆れ混じりに微笑んだ。


「昔から好きだよね、氷継」


「へぇ、氷継様の小さい頃ってどんな子供だったの?」


「そうだね......昔、家族ぐるみで氷継の家の庭で流しそうめんをしようって話になったんだけど、その時に氷継が『そうめんじゃなくて流し蕎麦がいい!!』って駄々をこねてたことがあったっけ」


 思い出すように笑いを堪えながら話す。


「ふふ」


「んふふ」


「おいなんてこと覚えてんだやめろ!」


 少し赤面しながら隣を歩く優柰ゆうだいに突っかかる。


「でもいいじゃないか、あの後蕎麦にしてもらったんだからさ。僕は蕎麦に賛成だよ!」


「私もです!」


「それじゃあ蕎麦にしましょ!」


「くそ、嬉しいはずなのに...」


 そうして、蕎麦屋に到着し四人は席に着く。


「さーてどの蕎麦にしようかな~」


 氷継ひつぎはメニュー表を開き意気揚々と選ぶ。口座が泣いていることはすっかり忘れてしまっている様だ。

 彼が吟味していると、数人の屈強な男達が店に入り腰に下げていた拳銃をレジカウンターにいた店員に向け怒鳴り声を上げる。


「お前ら!!札幌駅ここは俺たちが占拠した!!大人しくしろォ!!」

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