第51話 それは1つのエピローグ

「外に出られないって、どういう事よ」

「そうだ。俺達を出せ」

「そうは言っても偉いさんから止められた。出す訳にはいかん。俺の首が飛ぶ」

「ゴブリンなんて怖くないわよ」

「そうだ。ウチにはアネィとアルがいるからな」

「兎に角、諦めてくれ」


お昼から薬草摘みに出掛けようとすると門番に止められた。

東の森の安全が確保されるまで、街道の通行者を除く冒険者の出入りが禁じられたそうだ。

出て行けるのは、ゴブリンの死体運びのクエストを受けた冒険者のみだ。

下から2番目のアナクラスの俺らには関係のないクエストだ。


「お前ら? もしかして冒険パーティー『シスターズ』じゃないか?」

「はい。そうですが、何か?」

「お前らが来たら、冒険ギルドに来るように言付かっている。すぐに出頭しろ」

「坊主、お嬢ちゃん。何かをやったんだ?」

「何もやっていないわ」

「そうだ。ゴブリン討伐なんてやってないぞ」


下の兄が余計な事を言いそうなので口を閉じさせて、その場を後にした。

冒険ギルドに到着すると、担当に応接室まで案内されてゴブリン退治の現状を説明された。

ゴブリンの壊滅に成功したらしい。

しかし、ハイゴブリンを倒した後からゴブリン達は統制を失って四方に逃げた。

このゴブリン達が駆除出来ていないらしい。

かなりの知恵を持ったゴブリンは経験を積めば、間違いなくゴブリンリーダーに進化する。

この駆除は絶対だそうだ。


「見つけ次第、殺せばいいじゃない」

「ゴブリンは雑食でしょう。森に隠れて繁殖すれば、今回と同じ事が起るのよ」

「つまり、ゴブリンの討伐が終わるまで森に出られないんですか?」

「建前としては、そうなるわね」


建前?

担当は自分で入れたお茶を飲みながら溜息を吐いた。

昨日の討伐には領軍30名が参加していた。

領軍、居たのか?


「領軍は3日後に300人が出動する事になっていたのよ。それなのに討伐が終わりましたでは、領主様へ報告が出来ないでしょう」

「ハイゴブリンの討伐は我が冒険ギルドに譲ったとして、ゴブリン5,000匹を討伐したのは領軍という事になったわ。ゴブリンの魔石は領軍が受け取り、領内の軍敷地内に運ばれているのよ」

「領軍なんて何もしていないじゃない」

「そうだ」

「領主様から出動を貰った軍団長の面子があるのよ」


大人の社会は面倒臭い。

そんな事を担当と話している間にギルド長がやって来た。

厳つい髭を生やして大男だ。

担当が譲った席に腰掛けた。

一緒に事務員が入って来て、壺と割れた壺と小さな箱を持って来た。

箱の中には3つの鉄球が入っていた。

俺がハイゴブリンを狙って撃った鉄球だ。


「悪いな。態々、来て貰って」

「悪いと思うなら森に出させて」

「そうだ」

「悪いがそれは出来ん。門の管理は軍の管轄だ。冒険ギルドでどうこう出来ん」

「これは何でしょうか?」

「これは最近出回っている壺だ。元々、油が入っていたが、媚薬を塗っていないのにしっかりした物で、漬物を入れるのに重宝されている」


雑貨店で壺が銅貨5枚で売られているとは知らなかった。

確かに油を詰め替えた後は無用だ。

元手がタダなので雑貨店に入れると幾らで引き取ってくれるかが気になった。

だが、問題はその壺ではない。

その横に置かれた割れた壺だ。


「これは森から拾って来た物だ。こっちはハイゴブリンの死体を確認した時に見つけた鉄球だ。特に意味はない」

「意味はないとは、どういう意味ですか?」

「見て貰いたかっただけだ。王都の魔法省外局の課長のお気に入りで、レムス子爵夫人の後ろ盾を持つ者と争う気はない。その事を伝えたかった」


ギルド長がはっきりと『争う気はない』と宣言した。

つまり、俺達の行動はバレている。

バレて当然か。

売った壺と同じ破片がゴブリンの巣の近くに散在していた。

誰が油を教会に寄付しているのは調べれば判る。


『誰がゴブリンの巣に油を放ったのか?』


それは俺だ。

この町で大量の油を調達できるのは、油協会か、俺なのだ。

油を撒いた犯人だと言っているようなモノだ。


「油の壺を買いたい。60個、定価の銀貨8枚で売って欲しい」

「今すぐにですか?」

「すぐではない。ゴミの焼却に使いたいので暑くなるまでなら、いつでも構わない。焼却場の側にある小屋に入れて欲しい。その分の代金は前金で渡そう」

「アル。どういう意味だ」

「ゴブリン討伐の報償金の話です。参加していない俺達には払えない。だから、油の購入代金で払いたいと言っています」

「定価なら私達は全然得をしていないじゃない?」

「姉さん。教会を通じて売れば、俺には銅貨1枚も入りません。また、勝手に油を売るのも御法度です」

「だったら駄目じゃない」

「お嬢ちゃん。冒険ギルドは壺を買いたいと言っている。油を買う訳じゃない。買った壺に油が入っていただけだ」

~ル」

「あははは、大人の社会は狡いモノだ」

「足りないか?」

「いいえ、十分です」

「アル。判るように説明してくれ」

「ですから、銀貨480枚を討伐の報償筋代わりに払うと言ってくれている訳です」

「480枚って、小金貨48枚!?」


下の兄の目が輝いた。

これで肉が買えると俺の体を揺すった。

現金なモノだ。


「で、何が目的ですか?」

「手柄を領軍に譲って欲しい」

「始めから言い出すつもりはありませんが・・・・・・・・・・・・」

「そんな口約束を信じるほど、大人の社会は優しくない。お前がレムス子爵夫人の力を借りて手柄を主張すれば、調査に応じねばならん」

「俺が勝つと?」

「勝つとは言わんが、壺の残骸をなかった事に出来ん。あの大量の油をどこから調達したのか?」

「それで口止め料ですか?」

「そうだ。出来れば、来年からは油の壺を安く買いたい。ゴミ焼却クエストの依頼料は増やして貰えないので経費を減らしたい。あれだけ隠し持っていたと言う事は売る場所がなかったのではないか?」

「正解です。次回から壺の値段を半額で提供しましょう」

「ははは、それは助かる。去年から油の値段が3割増しになって困っていた」


ギルド長が破顔して豪快に笑った。

あっ、失敗した。

気前よく値引きし過ぎた。

3割引で良かったのか。


「最後にもう1つ頼みだが、領軍のゴブリンの討伐が終わってから、ゴブリンの生き残りがいないか冒険ギルドも5回ほど調査する予定だ。依頼する冒険者パーティーは口が固い奴らだ。その荷物持ちサポーターをやって欲しい。言っている意味は判るな」

「城外の貢献10回になれという意味ですか?」

「そうだ。城の外に出ても大丈夫と判れば、特例制度で『エフクラス並』と認められ、城外活動の許可書が与えられる。お前が領軍の魔術士と同等の水と土の魔法が使える事は承知している。今回のような非常事態になった時に召集を掛ける事ができる」


ギルド長は『ドブ攫い』クエストから俺が水と土の魔法が使えると知っているらしい。

担当も言っていたが、東の森で拠点設営に動員したかったと・・・・・・・・・・・・。

だが、下から2番目のアナクラスの俺らを動員できなかった。

さっさと特例を取得しろって事か。

こっちも肉の調達に森に出たい。

利害が一致した。


「判りました。荷物持ちサポーターの仕事をお受けします」

「助かる」

「これからも色々と便宜を図ってくれると助かります」

「何でも言ってくれ。出来る事ならやらせて貰う」

「随分と親切なのね?」

「お嬢ちゃん。一時的であっても、領軍のお抱え魔術士と同等の魔法使いが手に入るんだ。大切にもするさ」

「それだけア~ルが大切って事ね」

「その通りだ」

「いいでしょう。協力して上げるわ」

「宜しく頼む」


姉さんとギルド長が握手を交した。

その日、冒険ギルド内に俺達『シスターズ』の口座が作られて、銀貨480枚が振り込まれた。

その内、銀貨5枚を出して商店街に肉を買いに行った。

だが、通常クエストが止まっている為か、肉の値段が高騰していた。


「アル。肉だ」

「シュタ兄ぃ。肉は高いので魚にしましょう」

「川魚だと!?」


文句を言っていたが、夕食で下の兄は魚を美味しそうに食べていた。

俺も美味しく頂いた。

こうして、領軍の調査が終わるまで10日余りもノンビリする事になった。

暇な内に日課の小説の書き写しを進めた。

休養があってもいいじゃないか。


第一章第一節『僕らはみんなゴブリンスレイヤー、ゴブリンなんてやっつけちゃおう(終)』

第二節『(仮)アーマーアントなんて全滅だ』へ続く。

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転生は普通のことだった!~最弱賢者の大逆襲~ 牛一/冬星明 @matta373

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