花形教授(改訂版)

貴音真

【花形教授】

  -佐々木くん-


 どうもどうも、よく来てくださった。私は教授の花形だ。私が何の研究をしているかって?まあまあ、それよりも先ずはコーヒーでも呑んでくれたまえ。ん?このコーヒー、味がしませんな…おっと!これは、失敬々々。お湯を注いだだけで、コーヒーの粉を入れるのを忘れていたよ。はっはっはっ。

 佐々木くん!佐々木くん!

 え?佐々木くんって誰なのかって?ああ、紹介がまだだったかな。佐々木くんは私の助手をしている子だよ。ん?佐々木くんが男性なのか女性なのか気になるのかね?はっはっはっ。男性でも女性でも助手は助手だよ。まあ、君が気になるなら教えてあげよう。佐々木くんは女性だよ。それも、とびきり綺麗でグラマラスで聡明な女性だ。私が結婚していなければ妻にしたいところだよ。はっはっはっ。

 佐々木くん!佐々木くん!

 ………そう言えば佐々木くんは先月で辞めたんだったな。いや、失敬々々。申し訳ないがコーヒー豆を挽いてくるので少し待っててもらえるかな?え?コーヒーはいらない?はっはっはっ。そうかそうか、すまないね。では、このお湯でも呑んでくれたまえ。ふむ。いい香りだ。ん?ああ、すまないね。君は私の研究について教えて欲しいのだったね。そうだな…知りたいなら教えてあげよう。

 佐々木くん!佐々木くん!

 え?佐々木くんは先月辞めた?はっはっはっ。そうだったそうだった。…なぜ君がそれを知っているのかね?え?私がさっき言っていた?…そうだったかな?いやまあ、とにかく失敬々々。とりあえず、コーヒーでも呑んでくれたまえ。ん?このコーヒー、味がしませんな…

 佐々木くん!佐々木くん!

 え?佐々木くんはいないし、コーヒーには粉が入っていない?…どういうことかね?…だから、これはどういうことかと君に訊いているのだよ!佐々木くんはいない!コーヒーには粉が入っていない!私はそれらをなぜ君が知っているのかと訊いている!え?どちらもさっき私が話したこと?…なるほど。はっはっはっ。そうかそうか。それで、君は何をしにこの研究室に来たのかね?え?研究内容が知りたい?ほう…それを知ってどうするつもりなのかね?え?真実が知りたい?それはいったい何のことかね?え?佐々木くん?佐々木くんならこの研究室で私の助手をしている子だが…それがどうかしたのかね?先月から佐々木くんが行方不明?はっはっはっ。面白いことを言うな君は。佐々木くんならずっと私の助手をしているよ。

 佐々木くん!佐々木くん!

 ………なるほど。佐々木くんは先月行方不明になったのか。はっはっはっ。これは私としたことがとんでもないことを忘れていたようだ。ところで、君は何をしにこの研究室に来たのかね?え?佐々木くんを捜しに?はっはっはっ。佐々木くんならこの研究室で私の助手をしているよ。

 佐々木くん!佐々木くん!

 ………これはどういうことかね?え?どういうことかは私に訊きたい?はっはっはっ。いやはや、君は本当に面白いことを言うな。私が君に訊きたいことをなぜ君が私に訊きたいのかね?…私?私は教授の花形だ。え?花形は君だって?はっはっはっ。それは面白い。君が教授の花形なら私は誰なのかね?え?それは君が私に訊きたい?…いやはや、これは一本取られたな。ところで、君は誰かね?教授の花形?そうかそうか。はっはっはっ。

 佐々木くん!佐々木くん!

 え?佐々木くんはいない?そうかそうか。ところで君に訊きたい。

 私はいったい誰なのかね?


  -花形くん-


 どうもどうも、よく来てくださった。私は教授の花形だ。私がいま何をしているかって?それは花形くんに訊いてくれ。ん?花形は私だって?はっはっはっ。それは面白い仮説だ。私が花形くんならそこにいる花形くんはいったい誰なんだ?

 花形くん!花形くん!

 ………忙しい様だな。仕方ない、この教授の花形が君のお相手をしよう。ん?やはり私が花形なのかって?はっはっはっ。なるほど、君は面白い。それで、今日は何の用だね?え?私に会いに来た?ほほう、君はこの教授の花形に会いに来たのか。それはいい。

 花形くん!花形くん!コーヒーを淹れてくれんか!花形くん!

 ………花形くんは忙しい様だから私がコーヒーを淹れてこよう。ん?コーヒーはいらない?君はこの花形の淹れたコーヒーなんて呑めぬと言うのかね?…まあいいだろう。君は蛇口を捻って水でも呑みたまえ。それで、今日は何の用かね?え?花形教授に会いに来た?そうかそうか、では今呼んであげよう。っと、その前に。花形くんは本当に教授だったかな?ん?確かに私は教授の花形だが?え?君は教授の花形に会いに来た?それは花形くんかね?え?私のこと?はっはっはっ。君は繰り返し面白いことを言うな。私は教授の花形だよ。え?その花形教授に会いに来た?…何の話かね?冗談にしては笑えない話だ。私は教授の花形だ。花形教授ではない。無論、花形くんも花形教授ではない。え?だったら私は誰なのかって?はっはっはっ。君は私を知らんのか?私は教授の花形だ。そう、私は花形教授だよ。え?やはり私が花形教授なのかって?…君はいったい何を言っている?花形教授は花形教授だ。そして私は花形教授だよ。

 花形くん!花形くん!早くコーヒーを淹れてくれんか!

 え?花形くんなんて人はいない?はっはっはっ。

 ………どういうことかね?それでは君は花形くんが犬畜生とでも言うのかね?ん?そう言えば、花形くんとは誰かね?

 花形くん!花形くん!

 ………どういうことかね?え?君が私に訊きたい?はっはっはっ。君は私が君に訊いていることを私に答えろと言うのかね?なるほど、君は面白い。

 花形くん!花形くん!

 ………忙しい様だな。ところで、君は花形くんかね?違う?では、君は花形教授なのかね?それも違う?…では花形教授とは誰かね?え?私が花形教授だと?はっはっはっ。…どういうことかね?え?私が私を花形教授と言った?なるほど、君は面白い。

 花形くん!コーヒーはまだかね!花形くん!花形教授がコーヒーを呑みたいと言っておる!

 え?言っていない?君は花形教授なのかね?…そうだろう、違うだろう。…どういうことかね?…私は花形教授ではない君が!その君がなぜ!花形教授がコーヒーを呑みたいと言っていないとわかるのかと!そう訊いている!

 え?ここには私と君しかいないからわかる?…どういうことかね?ではそこにいる花形くんは何なのかね?

 花形くん!花形くん!

 ………どうやらいない様だな。君、花形くんはどこかね?え?知らない?では、花形教授はどこかね?え?それも知らない?では、君は花形くんでも花形教授でもないのかね?え?その通り?…どういうことかね?君はいったい誰なのかね?君が花形くんでも花形教授でもないなら君はここへ何をしにきたのかね?いや、それはどうでもいい。一つ訊こう。

 私はいったい誰なのかね?

 花形くんかね?花形教授かね?…私にわからないなら君にもわからない?はっはっはっ。なるほど、確かにこの教授の花形にも私が誰なのかわからん。ところで、君に訊きたい。

 花形教授とは誰かね?


  -ヒモシニ-


 どうもどうも、よく来てくださった。私は教授の花形だ。ところで、ここはどこかね?え?知らない?はっはっはっ。君は面白いことを言うな。知らないのならどうやってここに来た?え?私に連れてこられた?はっはっはっ。…どういうことかね?まあ、いいだろう。先ずはヒモシニでもやってくれたまえ。ん?…何だ、君はヒモシニも知らんのかね?なるほど、君はつまらない。いい若い者がヒモシニも知らんでその歳まで生きてくるとは嘆かわしい…まったく、嘆かわしい限りだよ!

 牛島くん!牛島くん!

 ………どこへいったのかね?…だから!牛島くんはどこかねと訊いている!え?牛島くんを知らない?はっはっはっ。なるほど、やはり君はつまらない。牛島くんも知らない。ヒモシニも知らない。君は何も知らんのかね?え?少しは知っていることがある?ほう…それで、君は何を知っているというのかね?え?私を知っている?はっはっはっ。それは面白い。それで、私の何を知っているというのかね?名前?…ん?確かに私は教授の花形だが?え?花形が私の名前?はっはっはっ。…どういうことかね?君がなぜ私が花形だと断言できるのかね?え?私が花形だと名乗った?なるほど、君はつまらない。…では君は私が!この教授の花形が!私はアドルフ・ヒトラーだと言えば!私はヒトラーになるのかね!…そうだろう、ならんだろう。…どういうことかね?だからこれはいったいどういうことかね?確かに私はアドルフ・ヒトラーではない。だがなぜ君がそれを断言できるのかね!或いは私はヒトラーかも知れんだろう!え?ああ、確かに私は教授の花形だ。え?なら私はヒトラーではない?そうか、つまらない君はそう思うだろうな。まあいいだろう。

 牛島くん!牛島くん!君はヒモシニばかりしていないでお客さんにコーヒーでも出したらどうだ!牛島くん!

 え?牛島くんはいない?はっはっはっ。…どういうことかね?まあいいだろう。さあ、君もヒモシニしたまえ。え?ヒモシニがわからない?はっはっはっ。君は本当につまらない。

 牛島くん!牛島くん!花形教授にヒモシニを教えてやってくれ!牛島くん!

 え?花形教授は私じゃないかだと?はっはっはっ。なるほど、君は存外面白い。花形教授は君だろう?え?君は花形教授ではない?…どういうことかね?わからない?君は自分のことがわからないのかね?君は花形教授だろう?え?違う?私が花形教授?はっはっはっ。それは面白い仮説だ。

 牛島くん!牛島くん!さっさとヒモシニを教えてあげないか!

 え?牛島くんはいない?…どういうことかね?

 牛島くん!牛島くん!牛島くん!

 ………なるほど、君の言う通りだ。…どういうことかね?…なぜ!君が!牛島くんがいないことを知っているのかねと訊いている!え?誰でもわかる?はっはっはっ。…君は何を言っているのかね?では君はここにいない牛島くんにもここに牛島くんがいないことがわかるとでも言うのかね?…ここにいない人間が!ここにその人間がいないことを!ここにいないのにわかるのかね!…はっはっはっ。そうだろう、そうだろう。いないのにいないことがわかるはずがない。ところで、君は本当にヒモシニを知らんのかね?ほう、そうか。…なら仕方がない。私が教えてやろう。この教授の花形が、君にヒモシニを教えてやろう。だがその前に君に一つ訊きたい。

 君は花形教授を知っているのかね?

 はっはっはっ。そうか、知っているか。なるほど…そうとわかれば話は早い。

 やはり君はヒモシニだ。


  -花形教授-


 どうもどうも、よく来てくださった。私が教授の花形だ。え?本当に花形教授なのかって?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 その通りだ。本当に私が花形教授だ。え?証拠はあるのかって?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 なるほど、君は面白い。証拠が何の役に立つというのかね?君は私が花形教授であるという証拠を披露したとしてそれを鵜呑みにするのかね?…そうだろう、しないだろう。つまり、そういうことだ。ところで、君は誰かね?…教授の花形?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 それは面白い。君があの花形教授か。つまり、こういうことだな。君はあの花形教授で、私が本当の花形教授だと言うことだね?まあ、そんなことはどうでもいいだろう。とにかく、先ずはカフィーでも呑んでくれ。え?コーヒーじゃないのかって?花形教授がそう言ったのかね?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 そうか、花形教授がそう言ったか。なるほど、花形教授はコーヒーと言っていたか。どの花形教授かね?…まあ、それは別にいいだろう。とにかく、カフィーを呑もうじゃないか。……うむ、うまい。え?味がしない?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 それはマミズのせいだろう。え?意味がわからない?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 問題ない。私はわかっている。さて、ここで君と会ったのも何かの縁だ。何でも好きなことを訊いてくれ。ん?ああ、そうだ。私は教授の花形だ。ん?そうだ。私が本物の花形教授だ。ん?君も花形教授だと?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 それはそうだ。君は花形教授だ。ん?君でも私でもない花形教授?ああ、彼はヒモシニだ。ん?ヒモシニの意味がわからない?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 問題ない。ヒモシニの意味はもうすぐわかる。ん?マミズ?だからそれは君が知る必要はないと言っただろう。ん?牛島くん?ああ、彼か。いや彼女だったかな?…まあいい牛島くんはヒモシニだ。ん?花形くん?勿論、彼もヒモシニだ。ん?佐々木くん?佐々木くんとは?…ああ、グラマラスな彼女か。残念ながら彼女はミズシニだ。え?ミズシニが気になる?ミズシニとはヒモシニではない。…つまり、そういうことだ。え?答えになっていないって?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 まあ、いいじゃないか。どの道、ミズシニは君とは無関係だ。君はヒモシニなのだからな…ああ、そうそう。君は花形教授だったな。ん?そうだ。私も花形教授だ。君はこの意味がわかるかね?え?わからない?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 問題ない。私はわかっている。

 ふぁっふぁっふぁっ。

 …ところで、君は自分が誰なのか証明できるかね?つまり、君は本当に花形教授なのかね?え?身分証?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 最初に訊いただろう?君は私が証拠を披露したとしてそれを鵜呑みにするのかね、と。そう、君は鵜呑みにしないと言った。そして、私もしない。だからそれは無効だ。え?知人か身内に証言させる?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 私は君に訊いているのだよ?…仮にもし、君の知人が君のことを花形教授だと証言したとしよう。だが私はそれも鵜呑みにはしない。だからそれも無効だ。それで、君は本当に花形教授なのかね?君は自分が本当に花形教授であると証明できるのかね?さっきも言ったが、物的証拠は無効だ。無論、知人や身内の証言も無効だ。

 ふぁっふぁっふぁっ。

 やはり出来ないか。そうだろう、そうだろう。君はそれがどういうことかわかるかね?つまり、こういうことだ。…君は君だけでは自分が花形教授であると証明出来ない。しかし、証拠や他人の証言があればそれが出来る。え?それがどうかしたのかって?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 君は存外鈍いな…

 ふぁっふぁっふぁっ。

 さて、宴もたけなわだ。そろそろ君のヒモシニを始めよう。君はこのヒモシニを経て本当の花形教授になることができる。

 ふぁっふぁっふぁっ。

 ん?どうしたのかね?え?身体が動かない?それはマミズのせいだろう。…いやはやこれは面白い。なぜマミズについて知りたがる?今さら君がマミズについて知っても無意味だろう?君はもうマミズを摂取してしまったのだからね。

 ふぁっふぁっふぁっ。

 …無駄話はさておき、早くヒモシニしてしまおうではないか。え?嫌だ?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 問題ない。私は嫌ではない。さあヒモシニを始めようか………ん?これはヒモシニではなく縊死いしだと?ほう、つまり君はヒモシニが首吊りだと言いたいのかね?

 ふぁっふぁっふぁっ。

 残念ながらこれはヒモシニだ。花形教授による花形教授のためのヒモシニだ。

 ………さあ、わかったらさっさと紐死にヒモシニしなさい、花形教授。

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花形教授(改訂版) 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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