ミニ紫陽花の希望 🪴

上月くるを

ミニ紫陽花の希望 🪴




 イタッ!!(´;ω;`)ウッッッ…

 針の束で刺されたような痛覚。


 左足指の中指と薬指の付け根……そこがヨウコの鬼門の部位で、いつも気になる。

 仕事時代、スーツに合わせ爪先のすぼまったパンプスを穿いていたツケが今ごろ。


 モートン病という名前をネット検索で知ったが、これという治療法はないらしい。

 究極の手術を避けたければ、自力のマッサージ or 歩き方の矯正で凌ぐしかない。


 歩き方を直すといっても、これまたヨウコの場合、ジムで習ったウォーキング法が身についているので、足の裏全体での着地という歩行法にはなかなか馴染めず……。




     🌨️




 もう夏も終わり近いというのに、じっとりした湿気が身体にまとわりついて来る。

 未明からこの蒸し暑さでは、昼間はどうなるのだろう……ちょっと気が重くなる。


 今日は歯科医の定期検診だから、早めに行って早めに帰って、身体を横たえたい。

 予約制とはいっても、ひとりの患者に一時間もかかるときがあるからどうなるか。


 これも年の功か、気分が妙に沈まないよう自分でコントロールする術がなんとなく分かってきているが、気圧とか夢見(笑)で日によってうまくいかないときもある。




      🌝




 今朝はそんな負のスパイラルに陥りそうだが、ひとつだけ小さな希望の灯がある。

 出がけに台所の出窓でたしかめた水栽培のミニ紫陽花の挿し木に根が生えていた。


 ポヤッと頼りない蜘蛛の糸のような数本だが、あれはまちがいなく発根だと思う。

 やった~! 祈るような期待に応えてくれた四本の挿し枝と握手したいくらいだ。


 もっとしっかり発根してくれたら、折を見て玄関先のプランターに移してやろう。

 うまくいけば、来春は瑞々しい葉っぱを、次いで可憐な花を見せてくれるはずだ。




      🏠




 玄関横の小さな花壇のミニ紫陽花は、仕事時代、母の日に娘たちが贈ってくれた。

 会社を閉じるとき植え替えたらしっかり根づき、毎年、美しい花を咲かせている。


 ふつうの紫陽花の半分ほどの花房に極めて多彩な色彩が混じり合って風趣がある。

 愛犬の骨もその地下に埋めてあり、ヨウコにとっては、とてもとても大切な植栽。


 なのに、今春、業者に花壇の剪定を頼んだら、繊細なミニ紫陽花まで大胆に……。

 健気に息を吹き返してはくれたのだが、一応保険としての挿し木を試みておいた。


 そんなヨウコだけしか知らない私的歴史が、つぎの章へとつながろうとしている。

 あの小さなポヨポヨを思い出すとつい足が弾んでしまい、またしてもピリピリと。

 

 


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