第2話:ボクを知るための旅へ
ボクは蚊のカラダを手に入れた。どこにだって飛べる。どうやら人間の血を吸おうと飛んでいたみたいだけど少しカラダを借りるね。
「新井さん、世話するから〜」
「ダメなんだ。この子達は危ないんだよ。簡単に身体を乗っ取れるし、乗っ取った生き物の情報を取り入れてしまうほど賢いんだ。でも、火に弱いから最悪なことになる前に……」
「どういうこと?よく分からないよ」
「そうだよなぁ。困ったなぁ」
賢ちゃんはまだ人間だけど子供と言われるらしい。大人が多いから珍しい生き物だ。いつも大きな犬と一緒にやって来る。
そうだ。犬だ。あれなら動ける。
「じゃあ、また分かれよう」
「いや、『まねっこ』しようよ。あの白い犬になりきったら楽しいはず」
カラダを二つに分けようとしたが、また戻って賢ちゃんの犬になった。実験で何度か変化したことがある。
「あっ、ジョン太郎だ」
「え?」
本物より小さいが動くには困らない。賢ちゃんが来た方向へ走り出すと、新人も慌てて追いかけてくる。
「ワンワン!」
「待ってジョン太郎!」
「しまった!待て!」
何人かの大人が捕まえようとするが、俊敏な動きでかわしていく。しかし、着いた先は壁だった。これでは先に進めない。
「どうしよう」
「いつも喋っているよね」
「うん」
スライム状にカラダを戻してから三つに分かれ考える。分かれている間だけそれぞれ別個体になるので、知恵を出し合うことにする。
ボタンはボク1が乗っかったら上手く押せるだろう。ボタンを押したら10秒は開いたままだ。
「おーい」
「蚊が戻ってきた」
「どうしたんだ?」
「声を出さないと開かないんだ」
「早くしないと…あ!賢ちゃんに喋ってもらおう」
「賢ちゃんに?」
「賢ちゃんもここを通ってるんだ。開けられるよ」
「でも、ボクたちはまだ『成長』途中だから人間のカラダは借りられないよ」
「違う違う。賢ちゃんが自分で話してくれる」
「分かったぞ。『おしゃべり』を使うんだね」
ボクたちは賢ちゃんのことを思い浮かべる。いつもお気に入りのヒーローが描いているTシャツを着ていた。
「名前…名前…」
「Tシャツに描いてた」
「なぞなぞ、仮面!」
「そうだ!」
文字が平仮名だったのが助かった。いつも大人たちは言葉を覚えさせようと画面に平仮名を出して話しかけている。
おはよう、おやすみ、こんにちは。
挨拶が扉を開ける魔法の言葉。
「賢ちゃんが来た!新人はまだだ」
きっとここでどうしようもできないと思ってるんだ。
熱いところに連れていかれたくない。
外になんとしても出てみせる!
「なぞなぞ仮面に『まねっこ』しよう!」
一体が小柄ななぞなぞ仮面に変わる。賢ちゃんはその姿を見て目をキラキラさせている。
「なぞなぞ仮面だー!」
「おはよう」
「おはよう?違うよ。今はこんにちはだよ」
「こんにちは」
「こんにちは。どうしてなぞなぞ仮面がいるの?」
ボタンを指差して、次に壁の奥を指差す。行きたいんだと気持ちを込めて指すと、最初は考えていた賢ちゃんがようやく閃いたようだった。
「分かった!外で遊んでくれるの?なぞなぞ仮面、行こう!」
通じて良かった。
ボタンも賢ちゃんが押して開けてくれる。賢ちゃん、凄いなぁ。
壁が左右に動き開いていく。急いで通り、先に駆けていく賢ちゃんの後を追う。
これでやっと外に行ける。
「じゃあね、ボクのおうち」
ボクはワクワクした気持ちとちょっぴり不安な気持ちを持ちながら初めてツルツルしていない地面を踏みしめる。
「なぞなぞ仮面と冒険だ!」
「賢ちゃん、ありがとう」
ボクたちは元の姿に戻り賢ちゃんから離れる。
「あれ?さっきのスライムさん」
賢ちゃんはいきなりなぞなぞ仮面が消えてキョロキョロしていたけど、ボクたちを見つけて手を振っている。
「さよなら、スライムさーん」
そうだった。いつも実験が終わった時、大人は手を振っていた。
「さよなら」
別れる時に言う言葉だった。
「さ、よ、な、ら。さよなら!」
覚えたぞ!
ボクたちも小さな手を作って、さよならを言いながら姿が見えなくなるまで振ったのだった。
謎生物S 水玉ひよこ @red15
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