(ⅵ)、f、文末が連用形、連体形の場合
やっと1章ラストです。
通常、文末が連用形である場合は、省略か倒置しかありません〔詠唱中断という場合はあります〕。
ところで「連用形」とは「用言に連なる形」という意味です。
たとえば、「とても早い。」の「とても」は活用がなく、用言を修飾しているので「副詞」と呼ばれます。
一方、「早く走る。」の場合、「早く」は「走る」を修飾しているので、「とても」と同じ、つまり「副詞」的な用法です。「早く」は連用形です。形容詞や形容動詞の連用形は副詞と同じ役割があるわけです〔「静かだ」という形容動詞の連用形「静かに・〔する/なれ〕」も同じです〕。
仮に連用形で終わる文があったとしたら、それは何らかの用言があることほのめかしていると考えられます。これが省略の例です。「もっと早く……」「もっと高く……」など、会話文や心中文によくある表現方法です。
2005年にセガから発売された『龍が如く』というゲームのタイトルも「如く」の後に何らかの動作を示す語があるはずです。「龍が如く気高く生きる」なのか「龍が如く孤高に舞え」なのか、それはプレイヤー毎に心に抱く言葉があるはずです。
司馬遼太郎〔1923-1996年〕の小説『
俳人の
こういう表現方法を「連用止め」とか「連用中止法」と呼ぶことがあります。「空を飛び、山を眺める」という文の「飛び」が連用中止法の例です。
それでは実際の詠唱文の例を見てみましょう。数は多くありません。
【引用1】は省略、【引用2】は倒置の例です。
【引用1】FGO〔2015年~〕ライダー・アキレウス・
クサントス、バリオス、ペーダソス! いくぞ!! 命懸けで突っ走れ!
我が
『
【引用2】『ヴァルキリープロファイル』〔1999年〕大魔法・セレスティアルスター
永遠に
【引用1】の「我が
【引用2】は「諷意」と「封印」の「フウイ」という音を意識しているのでしょう。
「男は度胸、女は愛嬌」のように本来関連のない別の語を音の共通点で以てつなげたとも理解できます。
加えて、「フウイ〔諷意〕」という言葉は「フウイン〔封印〕」という言葉の中にある、という言葉の新発見を示したとも言えます。
同じ発想のものとしては、「きになる、はすぐすきになる。」というキャッチコピーがあります(札幌駅総合開発アピア・ポスター。『超分類!キャッチコピーの表現辞典』39頁〕
連用形については以上です。
次は連体形を見てみましょう。
連体形は連用形の名称と似ているように「体言に連なる形」です。体言は名詞のことですから、名詞の前にある用言は連体形です。「走る。」と「走る人。」のように、口語では終止形と連体形が同じ形ですが、後ろに名詞があれば連体形だと判断できるわけです。
連体形で文が終わるといえば、係り結びの法則で「ぞ・なむ・や・か」という係助詞がある時には文末が連体形になるのでした。
他にも「いかが」「いかで」「いづれ」「
しかし、平安時代から係助詞や疑問の副詞、疑問代名詞もないのに連体形で文が終わる現象が見られ始めます。
有名なのは、『源氏物語』〔若紫〕の「雀の子をいぬきが逃がし【つる】。」〔完了の助動詞「つ」の連体形「つる」〕という
18歳の光源氏が、後に妻とする10歳くらいの
一般に連体形で文を終えると、余情や余韻を示すと言われています。
しかし、口語では終止形と連体形が同じ形のものが多く、その微妙な違いを感じることは少ないでしょう〔ただ、同じ形でもアクセントが異なるとも言われます〕。
それが理由なのかはわかりませんが、詠唱文が連体形で終わる文は多くありません。
例を挙げましょう。
【引用3】『テイルズ オブ グレイセス』〔2009年〕シェリア「ピクシーサークル」
テイルズ オブ シリーズの詠唱文は攻略本に載っているものを引用していますが、ゲームは音声だけなので句読点や!などの記号は編集の手が加わっています。
したがって、「与うるピクシーサークル」という可能性もありますが、おそらくそのつながりは考えづらいでしょう〔意味以外にも、ボイス付きなので間があることがわかります〕。
「名を与える」よりは「名を与うる」の方が詠唱らしさがあるという判断なのかもしれません。
なお、このゲームではシェリアは「~名を与うる」という詠唱の文言が多いです。
【引用4】『テイルズ オブ シンフォニア』〔2003年〕コレット「リヴァヴィウサー」
その力
魂の
【引用1】にも書いたように、元々句読点はありませんが、ここも「流るる」〔口語だとラ行下二段動詞「流れる」〕が「魂の輪廻」とつながるわけでもないでしょう。
一文目の「その力」は「魂の輪廻の力」ということだと考えると、やはり「流るる」で一度切れていると判断できます。
「その」という指示語は「彼は走った。その走り方が笑えた」のように、前の言葉を受ける語ですが、冒頭から「その日は雨だった。~」という場合も考えられるので、先に「その」が来てもおかしいことではありません。
以上が文末に注目した詠唱の特徴でした。1章は思っていた以上に長々といろんな話にもなりました。
次章からは「詠唱らしさ」を作り出すために注目すべきことをいくつか述べていきます。
1章までの内容は形式的な部分で切り取ったので、そんなに深い内容ではありません。実際には次章からが本番みたいなものです。
引用する作品や詠唱文も多く、日本語の事象や法則なども確認する量も増えるため、少し時間がかかりそうです。
1章ほど更新頻度は高くないと思いますが、引き続き、よろしくお願いします。
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中二病にかかった人のための詠唱文分析と作成の予備講座 白バリン @shirobarin
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