昔の日常


 朝6時半くらいに起きる。


 朝ご飯を食べながら新聞をパッと読む。テレビニュースをBGM代わりにして。


 学校に行けば、とりあえず授業を聞いて部活へ行く。部活が終わったら、友達と一緒に帰る。家に帰ったあとは、録りだめしていたドラマやアニメ、映画、バラエティー番組を見る。こんな所在ないものだった。お互いに何かを高め合ったり、他校の生徒との喧嘩に明け暮れたり、誰かを好きになったり。そんな青春ものやヤンキー漫画の主人公のような学生生活は送っていない。


 特に友達と一緒に帰っているときが、一番楽しかった。


 意味もないのに大したことないことで騒いだり、好きなアニメやドラマ、漫画の話をしたり。今思えばくだらないけど、面白いことばかり転がっていた時間。そんな無意味な時間が、私は何より好きだった。


 ちなみに肝心な学校の方は、正直だるかった。数学と体育の時間は特に。


 数学の授業は、話を聞いていてもさっぱり理解できなかった。体育は運動神経の悪い私に向かって、文句がたくさん投げ掛けられるので、やる気が起きなかった。


「どちらがマシか?」


 そう聞かれると、私は迷わず、


「数学」


 と答える。


 どんなに難しくても、数学の場合はやり方がわかれば大方解けるからだ。対して、体育は個人の運動能力と理解能力が物を言う。特に球技は。


 運動能力と理解能力も乏しい私は、なかなかやり方が覚えられないので、


「なんでできないんだよ!」


 とクラスメートから叱られることが多かった。


 今でも、怒鳴ったりできないことを無理やりやらせたりした連中のことは、恨んでいる。私は人の顔と名前、やったことはしっかり覚えている性分なもので。


 授業が退屈なのに加え、朝会も多かった。校長先生や教頭先生、生徒会長の話がやたら長かったので、


(早く終われよ…)


 と考えてやり過ごしていた。


「正直こんな長話をして、誰が得をするのか?」


 校長先生や教頭先生、生徒会長の長話について、そんなことをよく考えていた。


 何かを人に訴えかけたいときは、短く、誰にでもわかる表現の方がいい。その方が、老若男女関わらず伝わりやすい。そこに感情表現を込めたり、何度も繰り返し伝えたりした方が、さらに伝わりやすくなる。


 けれども、校長先生や教頭先生、生徒会長の話には、そうした工夫も見られない。ただ長話をして、生徒に訓戒を垂れている自分偉い、みたいな優越感に浸る。そんな傲慢な感じが、かなり控えめに言って好きではなかった。


 頭も良くないし、運動神経も悪いのに加えて無気力。友達に会うために学校に行っていたろくでなし中学生。それが、私だった。




 学校が嫌すぎた反動か、休日はかなりゆるゆる過ごしていた。


 朝8時半くらいに起床。朝ご飯を食べながら録画したアニメを見る。支度を済ませ、9時ぐらいに多田くん宅に集まって遊ぶ。遊びの予定がない日は、撮りためていた録画番組や借りてきた映画を見ていた。


 多田くんの家に集まって、よくポケモン(カードゲームだったりDSの通信対戦の方だったりする)や昔のゲームをしていたのが懐かしい。


 特に、『悪魔城ドラキュラ黙示録』というニンテンドー64のゲームをやったのは印象深い。


 ゲームに「マジカルニトロ」という爆薬を運ぶステージがあるのだが、それがかなり難しかった。一瞬でも動くと、爆発してゲームオーバーになるからだ。


 マジカルニトロを運んで、雑魚敵の敵襲に遭って爆発しては、


「ああああ!」


 と多田くんと一緒に発狂していた。そして、発狂する私と多田くんを楽しそうに眺める三浦くん。


 いつもこんな構図で、かわるがわるプレイしていた。


 ちなみに、マジカルニトロは誰も運べずに終わってしまった。


 午後からは自由に過ごしていた。隣町のブックオフや図書館へ行って読書をしたり、一人サイクリングをしたり。書店へ行って本を買うこともあった。


 ブックオフで思い出したけれど、休日の午後、三浦くんと会ったことがある。隣町のブックオフで。


 ブックオフへ行くと、私はコミックとムックのコーナーを回ることにしている。


 漫画本コーナーを見尽くした私は、ムックコーナーへと足を運んだ。


 ムックコーナーへ行くと、私は必ず都市伝説や心霊系の本を読んでいた。非日常感が感じられて面白いな、と思っていたからだ。新聞や週刊誌にも載ってない過激さ胡散臭さが、刺激を求めていた私の心に刺る。


 私は売っていたムック本を手に取った。内容は、フリーメイソンやイルミナティが世界を支配している、火星には宇宙人がいる、というものだった。よく陰謀論や都市伝説で聞く話だ。


 本を読んでいてしばらくした後。私は本を元あった場所に戻し、隣にある店へ行こうとした。そのとき、三浦くんとばったり会ってしまった。


「あ!」


 私と三浦くんは、思わず声を上げた。隣町のブックオフでまさか会ってしまうとは、想像もしていなかった。彼の口から、よくブックオフに行ってるとは聞いていたけど。


 しばらく沈黙し、お互い見つめ合ったあと、私は、


「そういえば、さっきまでここで本立ち読みしてたんだけど、これオススメするわ」


 と先ほどまで読んでいた本を、三浦くんに紹介した。


 三浦くんもこういう話が好きなので、多田くんがいないとき、よくオカルトじみた話をしながら帰っていた。その関係で、情報提供ができないかな、ということで紹介した。


「おう、後で読んどく」


 そう三浦くんは言って、ムック本に手を付けた。


 私はブックオフを出たあと、隣にある店へと向かった。そのあと、彼が私が紹介してくれたムック本を読んだかどうかはわからない。




 これが勉強嫌いで頭も運動神経も悪いろくでなし中学生だった私の日常だった。日常というよりも、一週間とかルーティンと表現した方が正確なのかもしれないが。


 そんな無為な時間の中ではっきりとわかったことがある。それは、


「大切な誰かといる時間は、一瞬一瞬をしっかり噛み締めて過ごそう」


「この世に永遠なんて無いから」


 ということ。


 次に会える日は、明日かもしれないし、数年後、もしくは一生会えないかもしれない。だからこそ、大切な人と一緒にいる時間は貴重なのだ。それが、楽しいことでも、しょうもないことでも同じくらいに。


 それと同じくらいにこの無為な時間について強く感じるのは、


「平和で楽しい世界だった」


 ということだ。もちろん、体育や朝会のように、多少の不満がないわけでもなかったが。それでも、まだ純粋無垢な少年だった私は、心の奥底で、こんな日常がずっと続くのかな、と考えることもあった。そして、続いてほしい、と願っていた。けれども、この時間は、よどみに浮かぶうたかたが消えるように過ぎ去っていった。

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ある世捨て人の記録 佐竹健 @Takeru_As1999

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