流行病とブルーベリー

七草世理

本文

 ブルーベリーは眼に良いという話を聞いたことがある。実際のところどれ程効果があるのかは分からないが、今はどんな話でも信じたい気分だ。

 三日前、俺は流行病に罹った。焼き付く様な喉の痛み、サウナに入れられたような体の火照り、穴棍蛇アナコンダに纏わり付かれたような身体の重さ。全てが不快な感覚だった。だが、ここまではよく聞く典型的な症状である。奇妙なのは、俺の視界に常に黒点が見えることだ。正確に言えば、俺の視界に映る全てのものに例外なく漆黒の点が付いている。家具にも、壁にも、小物にも、一つの例外なく。

 試しに机の黒点に触れてみる。すると、黒点は静かに振動し始めた。刹那、机にヒビが入り、崩れた。

 俺の眼はどうにかしてしまったらしい。まともな人間は見てはいけないもの、認識してはいけないものを見ている気がする。

 今は無性にブルーベリーが食べたい。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

流行病とブルーベリー 七草世理 @nanakusa3o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る