ママから逃げろっ! 夏休みの宿題なんてやらないぞ。

桃もちみいか(天音葵葉)

魔法少女ミリアは宿題なんかしたくない

 あたしはこの小説のヒロイン。

 よく頑固者って言われる、美少女になりたい魔法少女、その名は美莉愛ミリア

 小学五年生だよ。


 あたしは去年からパパのお仕事の関係で家族みんなで魔法界の国から引っ越して来て、人間界の日本に住んでるんだ。


 今年の夏休みの宿題はやらないって決めたんだもん。

 せっかくの楽しい夏休み。

 宿題多すぎじゃんっ!


 去年の夏休みでつくづく思い知ったのよ。

 夏休みの宿題って大量すぎない?

 去年はコツコツ宿題ばっかりやってるうちに、夏休みが終わっちゃったの。

 あたし、なんでもハマると凝り性だからとことん追求してやってしまうのよね。

 自由研究には貯金箱を8個も作っちゃったしさ。


 今年も夏休みのドリルに工作、絵日記に予定表と天気観測、絵日記があるのに一行日記もあるし、なわとび練習と朝顔か野菜を育てて付ける観察日記と読書感想文!

 あっ、忘れてた。

 先生お手製の国語と算数の夏休み特別プリントに自由研究もあったのよ。


 なんなの、この量は!?


 無理、無理だから〜。


 だから、もう夏休みの宿題をやらないことにした。

 遊びまくるぞ〜!

 思いっきり夏を満喫するんだもん。


「ミリア、いけません。今日の分の宿題をやってから遊びに行きなさい」

「やだ、やだ〜! 宿題なんてやってたらさ、……夏が、夏休みが終わっちゃうも〜ん」

「もう、ミリアったらそんなこと言って。去年はきちんと宿題全部仕上げたんだから、出来るわよ。今年もちゃんとやりなさいね。ミリアはやれる子だってママは信じてるわよ。何事もコツコツとよ。さっ、少しはやりなさい。手始めにはまず絵日記なんて良いんじゃないかしら?」


 あたしは家事で忙しいママが見てない隙を狙って、魔法でパパッとトランクに旅行に必要そうな物を詰め込んだ。

 持って行くのは着替えに歯ブラシにくしに鏡にタオル、パンとおやつとおこづかい。

 うんっ、こんなとこかな?

 アタシはトランクを魔法で小さくして、お気に入りのピンクのポシェットに入れて肩から下げる。

 ちなみに魔法の杖もちゃんと入ってるよ。サイズが自由に変わる魔法の杖なの、便利でしょ?


 あたしは部屋の壁の箒立てに立て掛けてあった自分の愛用の最新キッズ箒を掴んだ。

 誕生日に買ってもらったギアとターボ機能付きのイケてる箒だよ。

 ベランダから箒に乗って両足で床を蹴り上げ、飛ぶっ!


「バイバイ、ママ〜」

「お夕飯までには帰って来るのよ」

「は〜い! ……ってあたししばらく、帰らないからね」

「ミ、ミリアー!? なんですってぇ!」


 ママは自分の箒を掴んでベランダに出て来た。あたしはママがすぐに追いかけて来るかと思ったの。

 だけどママは箒には乗らずにあたしをずっと眺めていたのだった。


 あたしのお家がどんどん小さくなっていく〜。

 遥か上空に来ると、雲の高さに並べば夏でも肌寒くなってくる。


「ちょっと寒いかも。どうせ行くならまずはあったかいとこが良いよね。よしっ、ターボボタンで南の海の島までひとっ飛びよ〜!」


 アタシの箒の性能はとんでもなく優秀だった。

 えっ、3分ぐらいで着いちゃった〜?

 ウフッ、はや〜い。


 さっそく南の島に降りてみよう。

 アタシは誰もいない場所を目がけて着地する。

 そこはヤシの木の木陰。

 箒から降りて砂浜に足をそっとつける。

 ヤシの木で日影になっている砂はほんのりひんやり。でも、砂の奥に足を突っ込んでみたらなんかホカホカしている。ちょっと前までは日向だったのかな?


 透き通る海、とってもキレイ。

 青い青い空にはかもめが飛んでる。

 波の音がする。

 すっごく近くで。


 もう〜、最高だ〜!


 アタシはポシェットから魔法の杖を出して、呪文を唱える。


「♪魔法は風を光を歌を奏でます。サヤソヨキラピカラララ〜♪ ミリアの元にいでよハンモックよ〜」


 あたしはハンモックに揺られ波音を聞きながら、のんびりお昼寝し始めてた。

 うとうと良い気分。

 起きたらトロピカルソーダでも飲みたいな。


「ミリアっ! 見つけたわよ」

「マ、ママっ!? うそっ、なんでママがここに? ミリアの居場所がなんでバレたの〜」

「ママにはミリアの行きそうな所ぐらい分かるわよ。それにそのミリアの最新型の箒の居場所は魔力探知センサーでママの箒に発信されるしね。人間界のGPSってとこ。フッフッフ」


 ずっる〜い!


「あたし、夏休みの宿題なんかやらないからね。魔法のほうきで海に山に遊びに出掛けて、それから魔法ゲートで異世界旅行だってしてやるんだから」

「待ちなさいっ! ミリア! ママが追いついたから今日の分の宿題はやること。それからどんなに遠くまで行っても晩御飯は家族皆で食べる。夜は家で寝るのよ」

「え〜。あたし魔法少女なのに〜」

「小学生が何言っているのよ。あと、ママに捕まったらミリアは文句言わずに宿題やるのよ」

「罰ゲーム付きの鬼ごっこじゃん」

「フッフッフ、母娘の楽しい夏休みの幕開けね」


 あたしまだまだ子供だもん。仕方なくママの提案に従うあたし。

 あたしミリアはイヤイヤ、絵日記に目の前の海の絵と鬼みたいな魔女ママの顔を描いた。

 


     ◇◆



 次の日はうんと早起きして、箒でエベレストまで来たよ。

 山の頂上は最高っ!

 空気が爽やか〜。


「ミリア〜!」

「げっ、またママだ! もう追ってきた〜。これじゃあ朝から宿題三昧になっちゃう」


 夏休みを楽しむはずが宿題とママのお小言オンパレード。

 逃げなくっちゃ!


 やばっ!

 ママが追って来るよ〜。

 どこまでも、どこまでも。

 

 あたしは魔法で色んな世界に逃げるんだけど、ママが宿題持って追いかけて来るよ〜。


 言い忘れてたんだけどね、あたしのママってば魔女経験豊富でかなり優秀な魔女なんだよね。


 ずるいよ、ママ〜!


 あたしはママに追いつかれるたびに、宿題攻略ミッションが発生するの。

 そんなんあり〜!?



 こうしてあたしには夏休みが終わる頃には、ママとのたくさんの世界旅行の思い出が出来た。

 ちなみに異世界ではママが魔法を使って大暴れ大活躍しているそばで、あたしミリアは羨ましそうに眺めながら宿題をやった。


 悔しいかな、ママと宿題から逃げては捕まるのがお約束になってて、気づけば夏休みの宿題は無事に終わっていたのだった。


 まんまとママの作戦にやられた!

 でも、まあいっか。

 夏休み満喫したし、宿題終わったもん。

 来年はママから逃げ切ってみせるからね。

 ぜったい、捕まらないんだから〜。


 あたし、魔法少女ミリア。

 今度は追いかける側になりた〜い。


 ミリアは元気で美少女な魔法少女で〜す。




           おしまい♪


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ママから逃げろっ! 夏休みの宿題なんてやらないぞ。 桃もちみいか(天音葵葉) @MOMOMOCHIHARE

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