真珠婚式と門出
阿滝三四郎
真珠婚式と門出
私たちの旅路は
『初夜』の、あの日から30年。まだまだ続いている
結婚から2年後に、長女の楓が生まれた
そして、その3年後に、長男の大志が生まれた
長女の楓は3年前、同じ会社で働く男性の元に嫁いだ
今では、一男の立派なママである
そして昨日、長男大志の結婚式があった。可愛らしいお嫁さんを目の前にして、
参加者一同満面の笑みで祝福をした
そして、私たち夫婦といえば
30年前、あの『初夜』に泊まった、同じホテルの同じ部屋で
朝を迎えることができた
「長い間お疲れ様でした❤」
「そうだね。やっと落ち着くことができるね」
「そうでもないでしょ、もう少し大きくなれば、部屋中走り回って鬼ごっこが始まるかもしれませんよ」
「大丈夫だ、まだまだ若い。孫の一人や二人かかってこい。ってね」
「ほんと、色々あった30年だったな。でも、子供達もすくすく成長してくれて、大きなケガや病気もなく、立派に成人してくれたよ」
「あら、覚えていないの?」
「えっ?」
「楓が、パパ嫌いってグズッテ、ずっと話もしてくれなかったのを」
「あっ、あったね。でも1週間位じゃなかったか」
「そうですよ、でも、その1週間。頭抱えてどうしたらいいって、ずっと泣き言、言っていませんでしたか?」
「あはっ、そうだった、そうだった」
「まったく、あの時の顔、映像にしておけば良かったですね」
「あの時は、どうしたんだっけ、どうやって話をしてくれるようになったんだっけな」
「覚えていないんですか?」
「うん」
「まったく~。その頃、テレビ番組で流行っていたキャラクターのぬいぐるみを一緒に買いに行って、プレゼントしたら、話をしてくれるようになったんですよ」
「そんな、現金な奴に育てていたのか」
「そうじゃないですよ。買って買ってと、せがまれていたのを、あなたがダメと言ったら、口もきいてくれなくなったんですよ。それに懲りて、今度の休みの日に買いに行くぞと言ったら、笑顔になって、話すようになったんですよ」
「やっぱり、現金な奴に育ててしまった」
「今は、大丈夫ですよ。しっかり家計簿もつけて、家計をやりくりしていますよ。」
「コーヒーでも淹れようか」
「あなた、何かしたの?」
「うん?なんで。何もしていないよ」
「喧嘩すると、いつも仲直りは、あなたの淹れてくれるコーヒーだったのよ。いつも新しい豆を買ってきて一杯一杯ドリップしてくれたんですよね」
「今日は違うよ、二人の為の門出に、淹れているんだよ」
「コーヒーで、ですか?」
「これしか、できないんだよ」
と笑った
「そうでしたね、コーヒー淹れる以外何もできませんでしたね。わたしが先に逝ったらどうするんですかね」
「大丈夫だ。見送ってね」
「まったく、図々しいですね~、あなたは。仕方ないからコーヒーで、いいですよ」
「おまちど」
「ありがとう」
「そういえば、大志たちの新婚旅行は、今日の飛行機で発つんだったよな」
「そうですよ、イタリアのローマからアマルフィーとフランスのマルセイユに行きますよ」
「海沿いの景色が、綺麗な場所ばかりだな。誰かに似たのか」
「景色の綺麗な場所で、ゆっくり過ごすんだと言って、スケジュール組んでいましたよ」
「昔読んだ小説に出てきた街だな。マルセイユで、恋人にお金が底をつきそうだから、お金を送って欲しいとお願いしたら、彼女も付いてきたという話もあったな」
「わたしは、行かないですよ。いや、行っちゃうかな。やっぱり、行く~かな。綺麗な風景に、美味しい魚料理にも会えそうだしね」
「お金は、ついてくるんだろうか」
「そんなことは、知りません」
二人して、笑った
窓の外は
30年前と同じ風景が、青い海と青い空が広がっていた
眼下に広がる、青々とした風景を見に、二人はベランダに出た
二人は並んで、ベランダの手すりに手を掛けて、おもいっきり顔を青空に向けた
「これからも、よろしくね」
「はい」
真珠婚式と門出 阿滝三四郎 @sanshiro5200
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