2-④ 

  項垂うなだれながら慶子さんが教室に入ると、既に和菓子さまは席についていて、イヤホンで何やら聞いているようだった。

 慶子さんに気がついた和菓子さまは、片方のイヤホンを外すと「おはよう」と、声をかけてきた。


「おはようございます」

「今日の放課後から、部活に出てほしいんだけど」


 さっき別れ際に、山路さんから言われたことと同じことを和菓子さまが言う。


「はい。先程、山路さんにもそう声をかけられました」


 魂がどっかに飛んだ状態ながら、慶子さんは答える。

  部活に出ると言っても、今日は見学だけだ。慶子さんが初心者であることから、まず剣道がどんなものかを見てほしいと言われたのだ。


 放課後、山路さんは慶子さんをB組まで迎えに来てくれると言った。そして、部室やら案内したあと一緒に剣道場に行きましょうと。慶子さんは、自分の学校に剣道場なるものがあることを、初めて知った。


「そっか。山路に会ったんなら大丈夫だな。ところで、柏木さん、そろそろお店に来たほうがいいよ」

「お店」の言葉に、慶子さんはぱっと和菓子さまを見た。


 慶子さんは、四月に入ってすぐにお店に行った。 桜の和菓子が出ると聞いていたからだ。

 その時買った和菓子は、「はなびら」という桜の花びらを模した「練り切り」と、「初桜」と名付けられた淡い紅色と白の「きんとん」をのせたもの、桜の葉を「道明寺」で包んだ「桜餅」の三つだった。

 同じ桜をモチーフにした和菓子なのに、三つが三つとも違っていたのだ。

 そしてその時、和菓子さまが言ったのだ。


「花見は、和菓子屋でもできますよ」と。


 謎のようなその言葉に慶子さんは首を傾げ、それは一体どういう意味なのかと尋ねた。すると和菓子さまは「四月は、時期をずらして三回お店に来るといいですよ」と、言ったのだった。そして、その時期はこちらから教えると。


 その時期というのを、一体どうやって自分に教えてくれるのかと慶子さんは疑問だった。けれど、あの時すでに、慶子さんが同級生であると和菓子さまはわかっていたのなら、納得である。


「今日の帰りに、寄らせていただきます」


 剣道部の話とは、うって変わって笑顔の慶子さんに、和菓子さまも小さく笑った。

 

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