ハッピーエンド

スサノオに殺されてしまったオオツゲヒメだったが、彼女の死体からは、様々なものが生まれるんだ。


頭からは蚕。

目からは稲。

耳からは粟。

鼻からは小豆。

陰部からは麦。


そして尻からは大豆が生まれたという。


これが

日本における五穀の誕生というわけさ。


五穀。


つまり、食糧。


富の発生だな。


女の死体が富を産む。


なんかゾクゾクするな。


余談だが、

この「女の死体から食べ物が生まれる」という話。


実は古事記だけじゃないんだよ。


元々はハイヌウェレ神話といって、

インドネシアやポリネシアあたりの物語が起源になっているようなんだ。


それが古代日本に伝わり、

古事記にも色濃く反映したってわけさ。


そのハイヌウェレ神話はどんな話かって?


これも似たような話でな。


ある島にアメタという男がいた。


ある時、アメタはイノシシを狩る。


すると、そのイノシシの牙には、実のようなものがついていたんだ。


アメタはその実を持ち帰ったところ、

その晩、不思議な夢をみた。


夢では謎の男が、

「イノシシの牙からとった実を土に植えろ」

と告げる。


アメタは夢のとおり、実を植えた。


すると、あら不思議。


実はみるみる木に育ち、

最後には一人の少女に成長したんだ。


アメタはその少女をハイヌウェレと名付けた。


さらに不思議な事にそのハイヌウェレ。


なぜか彼女の排泄物は、

高価なものばかりだったんだ。


ここでも排泄物。


古事記にそっくりだろ?


んでハイヌウェレが排泄するたびに高価なものが増えていく。


そのおかげで、

アメタはあっという間に大富豪になってしまった。


ここで終わればハッピーエンドなのたが、

そうはいかない。


島の人々は高価な排泄物を出すハイヌウェレを気味悪がり、

また金持ちになったアメタへも嫉妬するようになってしまうんだ。


ホント、醜いよな。

大衆ってヤツは。

能無しの分際で、嫉妬だけは一人前なんだから。



そして、人々は祭りの最中、

ついにハイヌウェレを殺してしまうんだ。


アメタは嘆き悲しんだものの、

もうハイヌウェレは生き返らない。


アメタは、弔いのためハイヌウェレの身体を切り刻み土に埋めた。


するとどうだろう。


その埋めた土からイモが生えてきたという。


これがインドネシアのイモ、

つまり穀物の起源というわけさ。


似てるよな。


オオツゲヒメもハイヌウェレも。


女の死体が穀物、つまり富の起源となった。


だが、神話とはいえかわいそうなもんさ。


オオツゲヒメは善意を悪意で返されて殺され、

ハイヌウェレは嫉妬で殺された。


そして殺した奴らが、富である食糧を受け取る。


ホント。


世の中、どうなってやがると思うよ。


善人や能力ある人間がむくわれず、

悪人や嫉妬深い奴らが得をするんだからな。


オレだったら許さないな。


だってそうだろ?


何で良い事をした女が殺されなきゃならないんだ。


かわいそうすぎるよ。


オレだったらこういう話にするよ。



「夫を裏切った女が殺された後、女の死体から五穀が誕生する。ふしだらな妻は死に、残った夫は五穀豊穣に恵まれ裕福に暮らしました。そう、悪は滅び正義は栄えました。めでたしめでたし」



素晴らしいハッピーエンド。


な、これだったら分かりやすいだろ?


ククク。


おいおい。

どうした?

さっきから震えてばかりじゃないか。


えっ?

もう帰るって?


ちゃんと歩けるならいつでもどうぞ。

ま、無理だろうけどな。


悪いな。

さっきの酒に薬を入れてさせてもらったよ。


痺れ薬。

何のためにこんなことをするんだって?


今更何言ってんだよ。


もう分かってんだろ?



お前、

結婚前からオレの妻と不倫してただろう?


しかも8年もの間。


いやはや、初めて知った時はショックだったよ。


しかも散々遊んでおきながら、

お前の方が飽きて捨てたらしいじゃないか。


ヤツのケータイに全部残ってたんだよ。

お前とのやりとりがよ。


しかもあの女。


お前との関係が終わったあとも、

色んな男とやりまくってたみたいでな。


研究バカで世間知らずのオレは、

まんまと騙されてたわけだ。


だが、ヤツの不倫。


お前がきっかけだったことだけは確かだよな。


どうしてくれようかねぇ。


どうせ、今日来たのも、久しぶりに妻に会って、

後日セックスでも楽しもうって魂胆だったんだろ?


みえみえだぜ。


おいおい、叫んでも無駄だよ。

ここは地下室。

しかも元歌手の演奏部屋だぜ?

防音はコレでもかってくらいシッカリしてるのさ。


ちなみに今日飲み屋で会ったのは偶然じゃない。

ずっとお前を張ってたのさ。

この日のためによ。


ククククク。


えっ?妻はどうしたかって?


おいおい。お前、今までの話聞いてたのか?


鈍いヤツだな。

オオツゲヒメとハイヌウェレの話だよ。


え?

死体はどうしたって?

だからバカなんだよ、お前は。


あの日焼けマシーンみたいな装置。

優れモノなんだぞ。


人間の痕跡なんて残さないくらい、

死体を完全な栄養土にしてくれるんだよ。



いやはや。オレも感謝しなきゃな。


オオツゲヒメやハイヌウェレと同じく、

特許という富を産んでくれた妻によ。


ハハハ。


いやはや、神話の時代から女はすごいよ。


すべての創造の源なのかもしれんな。



おおっと、心配するな。


神話の時代と違って今は男女平等の時代。


お前の身体も、細胞一つ残さずに、

栄養土にしてやるからよ。


だから安心して眠ってくれ。な?


〈了〉

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女体が産みしもの ヨシダケイ @yoshidakei

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