女体が産みしもの

ヨシダケイ

シャトーラジョエンヌで乾杯

しかし、こんな偶然があるなんて。

ホント驚きだよ。

たまたま立ち寄った店でまさかお前に再会できるなんてよ。



ホント、久しぶりだなぁ。

オレの結婚式以来だからもう10年ぶりか。


あん時は、


「若い嫁さんゲットしやがって。あんな美人と毎晩セックスできるなんて羨ましい」


なんて散々イジられたっけな。


ん?その嫁さんはどうしてるかって?

まぁその話はいいじゃないか。後で話すよ。


それより何、ぼーっと突っ立てんだよ。

ホラ、遠慮せず、上がってくれよ。


しかし10年か。

長いように感じるけど、こうしてみるとあっという間だったな。


そりゃお互い歳をとるわけだよ。

最近じゃ身体のあちこちにガタがきはじめてな。

この前の人間ドック。

コレステロール値がDとか出ちまってな。


食生活を見直せだってさ。

まったく。

「余計なお世話だ」

と言ってやりたいけどな。

こればっかりは自分の身体だしな。


ま、自制しろってことかね。


あとは適度な運動もしろとか言ってたな。

研究一筋、運動音痴のオレが今更、

何の運動すりゃいいんだよな。


笑っちまうわ。

いや、ほんと。

歳は取りたくないもんだな。


ま、でも今日は特別な日だ。


お前ともこうして会えたんだし。


再会を祝して乾杯しようじゃないか。


シャトーラジョエンヌの70年モノがあるんだ。


お前も飲むだろ?

ちょっと待ってろ。 

はいよ。


それでは、再会を祝して。


乾杯。


一気に飲んでくれよ。


これが美味いんだからさ。


な?

美味いだろ?




ん。オレは最近どうしているかって?

見ての通りさ。

研究バカだったオレもいっぱしの金持ちになれたわけよ。

それもこれも出願した特許が大当たりしたおかげさ。

見てくれよ、この家。


立派だろ?

都内一等地にこんな広い家。

絶対に、手に入らないぞ。


元々は、あの大歌手、佐賀憲司が何億もかけて建てた豪邸だったんだがな。

女性スキャンダルで人気が低迷。

売りに出されたところをオレが買ったって訳よ。


ま、歌手の家だけあって、演奏用の地下室もあってな。

その地下室を改造して、研究室にしたのさ。


地下の研究室はいいぞ。

涼しいし静かだし。

わざわざ、大学に行かずに実験できるし、

今のリモートワーク時代にピッタリだ。


予算も講師時代とはうってかわって使い放題さ。


おかげで良い実験ができるようになってな。

ますます研究成果も出せるようになったってわけだ。


ほら、こいよ。


ここが地下室だ。

見てみろ。


あの日焼けマシーンみたいな装置あるだろ?

そう。

結構、大きいだろ?

人間一人くらいなら簡単に入れる大きささ。



コレ一つ500万円はするシロモノだよ。

スゴイだろ。

何の装置かって?


おおっ、よくぞ聞いてくれた。


これこそがオレが発明した、莫大な金を生み出してくれる特許の源さ。


さて、この中に入っているもの。


何かわかるか?


開けるぞ。

何ビビってんだよ。

さ、見てくれ。


おいおい。そんなに驚くなって。


変な生き物でもいるかと思ったって?

安心しろ。

んなもんいないよ。

見りゃ分かるだろ。土だよ土。

栄養土。

え?

土と特許。

何の関係あるのかが分からないって?

全く!


お前、仮にも弁護士だろ?

理系知識も少しは知ってろよ?

えっ?

離婚訴訟ばかり専門にしてるからそんなこと知らなくても良いって?


ハハハ。

不必要な知識は要らないってか。

全くお前らしいよ。まぁそう怒るな。


では質問。

作物を育てるのに必要なのものは何だ?

言ってみろ。

そう。水と土。

それに、肥料だよ、肥料。

 

そして土はどれだけ養分が含まれているかで、作物の育ち方が全く変わると言っても過言じゃないんだ。


そう。

オレは革新的な栄養土の開発に成功したのさ。


この土のおかげで、野菜も穀物も今までの何倍もの収穫が可能となったのさ。


作り方はどうやるかだって?


この日焼けマシーンみたいな装置に土と原料を入れて作るのさ。


え?原料は何かって?

そりゃ企業秘密。

言えるわけないだろ。

それが特許なんだからよ。


ほいよ。

そしてこれがこの土で育てたトマトだ。

真っ赤な色して美味しそうだろ?


まるで血の色みたいだろ?


いやいや冗談、冗談。

まぁ食ってみろ。


美味いだろ?

そうなんだよ。

本当に美味い野菜は甘さがあるんだよな。


いやいや喜んでくれて何より。


ふーっ。少し酔ってきたな。

やっぱりいい酒は酔いも早いもんなのかもな。

ハハハ。

おっ。お前もいい感じに酔ってきたな。

けっこう。けっこう。


ん?それより嫁さんの話をしろって?

まぁいいじゃねえかよ、そんなことは。

ん?気になるって。

うーん。

なら、まぁ、端的に言うとだな。


そう、アレだ。

逃げられたってやつだ。

それ以上は聞かないでくれ。



しかしこうしてお前と話していると色々と思い出してくるな。


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