特別なドラマを求める僕と、平凡な日々を愛した君と

 人生に特別なドラマを求めてしまいがちな『僕』が、ある種正反対だった『君』との思い出を振り返る物語。

 ややネタバレ込みのレビューになります。
 作品そのものが台無しになるような情報(例えばミステリ作品における犯人やトリックのような)を明かすわけではないのですけれど、でも少なからずネタバレではありますので、未読の方はご注意ください。



〈 以下ネタバレ注意! 〉

 完全に主人公のひとり語り、対話なども回想の中にしかないくらいで、つまりは100%主人公の主観に依っているお話です。
 その主人公の造形が非常に絶妙で、「彼の語る物語」を読み解くと同時に、「彼自身」を読み解く感覚がもう本当に楽しい。

 別に嫌な奴や悪い奴ではもちろんないのですけれど、でも同時に「創作物の主人公らしい良い奴」感もなくて、なんだか「現実のわたしたちと同じ層にある存在」っぽさがものすごい。

 性格も、ちょっと賢しらでどうにも自己陶酔的で……と書いちゃうとなんだか印象が良くないんですけど、でも本当に「我が身や現実のそこらの人を振り返るとこんな感じ」的な範囲にちょうど収まる生臭さ。
 これだけでもう読んでて無限に楽しいのだからたまりません。

 序盤はわりと限界カップルの恋愛劇(の回想)みたいな感じで、その生々しい手触りも好きなのですけれど、それを前提とした上での中盤以降の展開、急に立ち上がってくるSF的終末世界のパワーがまたすごい。

 結末なんかもう最高でした。
 結局なんもわかんないまま、といっては言い過ぎですけど、この世界に突き放されたような感覚がもう本当に好き。

 なかなかうまく感想がまとまらないんですけど、とりあえず思いつくまま書きました。
 読み出たっぷりのお話です。限界カップルやその経験のある方はぜひどうぞ。