第9話 かけがえのない宝

颯斗ハヤト美里ミサトの結婚に驚く数ヶ月前。


美里ミサトは苦しかった。颯斗ハヤトの「推し活」に巻き込まれていくうちにそれ以上の感情がいてきていた。好きだ。好きだけど、好きとは言わないし、言えない。


「私、自分の幸せを考えようと思うの。」


美里ミサトは同僚に告げる。そんな折、知人の紹介でのちに夫となる人と出会う。3ヶ月後には結婚が決まっていた。そして美里ミサトは退職した。


その2年後、ふいに颯斗ハヤトから連絡がきた。個人的な連絡はこれで最初で最後だという彼は


「転勤することになったんだ。その前に君にだけは連絡しておきたかった。」


と言った。美里ミサトは高鳴る鼓動を抑えながら、冷静に


「そうなんですね。お疲れ様でした。お世話になりました。お元気で。」


と答えた。それ以上はお互いに何も言わなかった。


この瞬間にもあの時の感情が鮮明に蘇る。残り香もまだ記憶に残っている。あれほど恋焦がれる人にこの先出会うことはないし、この激しく切なくも抑えた感情は二度と味わうことはないだろう。そのことを彼に感謝しながら、私たちは別々の道を生きていく。正々堂々と。








ご拝読、ありがとうございました。







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好きとは言わない 小田カオリ @airaroma

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