第5話 街へ

 『まち』へ行く事は禁止きんしされていた。


 差別さべつにより罵声ばせいびせられるくらいならまだいいが、暴力ぼうりょく日常化にちじょうかしている『街』に行く事は命の危険きけんがあった。


 はんスラに住む者はその風体ふうてい誤魔化ごまかせず、貧富ひんぷは差別を生み、東洋人とうようじんの私ではそれをかくす事も出来できなかった。


 してや子供一人でなどもってのほか。危険であった。


 何故なぜ危険をおかしてでも『街』へかうのか。


 私一人で――。


 それは私がそうしたいと懇願こんがんし、ねいさんをいわう『ケーキ』が『街』にしか売っていなかったからだ。


 彼女を祝う事に私はそれ位しか出来ず、何より半スラの人達ひとたちは『ケーキ』をあきらめており、それが納得なっとくできずにいた。


 それに彼らには無くて、私にだけはあるもの。最悪さいあくそれにたよれば自分の身は守る事は出来るだろうと考えた。


 私には『魔法まほう』があった――。


 それでも半スラの人達からは心配しんぱいされめられたが、『魔法』の事をうまくかくし、どうにか私は彼らを説得せっとくし、何とか許可きょかた。


 ふくの中から一番いちばん上等じょうとうなものを頭巾ずきんかおを隠す事を条件じょうけんに。


 半スラから街の中心地ちゅうしんちまでは5キロ以上あり、さらにケーキが買える洋菓子ようがしてんはその先であった。


 道のりはわかりやすく、ほとんど街へ行った事の無い私でも地図をたよりにどうにか行ける具合ぐあいで、街の中心には『国会こっかい』がり、とりあえずずはそこを目指めざした。


 明日にひかえた『グレイ姉ちゃん』の祝賀しゅくがパーティーのために。


 ――ボストン川にかるタワーばしわたり、ヤンキーどおりまで来ると『街』へ着き、国会前こっかいまえ広場ひろばまでもう少しだった。


 しかし、私の足ではここまで来るのに2時間かかっており、流石さすがつかれていた。


 『街』には多くの人間がた。建物たてものも高く立派りっぱで、都会とかいそのものだった。


 すれちがう人々は横目よこめに私を見ている事を感じたが、その視線しせんつめたく感情かんじょうなど感じなかった。


 ただ見られている。しかし私にはそれだけでも恐怖きょうふに感じ、そこに私の居場所いばしょは無い事を感じた。


 恐怖をこらえ進み続けると、国会前広場へ近付ちかづくにつれ異様いような空気がただよっていた。


 大勢おおぜいの人々が自分と同じ方向ほうこうへ進み、その先には国会があり、同じ目的地もくてきちへ向かっているのを感じた。


 国会前広場へ向かうであろう大勢の人々は、そのほとんどが女性で、私はその意味をその時は理解りかい出来ずにいた。


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おとめの夜あけ 第二部 合川明日 @aikawa_asu

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