おとめの夜あけ 第二部

第4話 グレイ・カシス

　『グレイ・カシス』――。私の家の近所（きんじょ）に住（す）む１９歳の女性。

　人当（ひとあ）たりが良（よ）く、端整（たんせい）な顔立（かおだ）ちの彼女は、近所（半（はん）スラム）でも有名（ゆうめい）で皆（みな）から好（す）かれていた。

　しかし彼女も女性という事に加（くわ）え、肌（はだ）の色（いろ）が黒（くろ）いという事で差別（さべつ）を受（う）けていた。

　『街（まち）』へ行こうものなら蔑（さげす）まれ、疎（うと）まれ、買い物はおろか、図書館にさえ入る事が出来（でき）なかった。

　彼女の場合、女性という事よりも、肌の色が違（ちが）うという事で差別され、時には警官から目を付けられ、いわれのない罪（つみ）で逮捕（たいほ）される事もあった。

　それでも彼女は明（あか）るく振（ふ）る舞（ま）い、彼女からはそういった事を感じさせなかった。

　彼女程（ほど）ではないが、東洋人（とうようじん）の私と境遇（きょうぐう）も似（に）ており、良く面倒（めんどう）を見てもらっていた私は、彼女を実（じつ）の姉（あね）の様（よう）に慕（した）っていた。

　そして驚（おどろ）く事に彼女は学校へ通（かよ）っていた。

　この半スラ（半スラム）では学校へ通う者は殆（ほとん）どいなかった。

　貧困（ひんこん）や差別、学校へ通いたくとも通えない。

　しかし彼女は進学（しんがく）まで果（は）たし、高校へ通っていた。

　普通半スラの住人（じゅうにん）は学校へは通えず、故（ゆえ）に進学などありえない。

　そんな中彼女は、学校へ通い、高校へまで進学していた。

　望（のぞ）んでも出来る事ではない。

彼女の家も貧（まず）しく半スラ育（そだ）ち。しかも肌の色が違う事、女性である事は少なからず彼女を苦（くる）しめ、学校を、進学を遠（とお）ざけた。

　唯（ただ）彼女は優秀（ゆうしゅう）だった。彼女は学業で貧困や差別を乗（の）り越（こ）え、高校まで進学したのだ。

　勿論（もちろん）そこへの障害（しょうがい）は多々あっただろうが、彼女の努力（どりょく）はそれらをものともせず、周（まわ）りからの支援（しえん）もあり高校へ通う事が出来た。

　そして更（さら）にすごい事に、彼女は大学への進学も決めたのだ。

　今の時代、女性が学業（がくぎょう）に専念（せんねん）する事は珍（めずら）しく、難（むずか）しかった。

　大学進学など以（もっ）ての外（ほか）。

　しかし学業優秀な彼女は大学への進学が決まったのだ。

　特待生（とくたいせい）での進学に授業料（じゅぎょうりょう）免除（めんじょ）。彼女がいかに優秀であるか窺（うかが）えた。

　貧困に差別、肌の色や性別、それらを乗り越え努力を続けた彼女は、貧しくても、蔑（さげす）まれようとも努力を続ければ報（むく）われることを証明（しょうめい）した。

　彼女は半スラの希望（きぼう）であり、私の憧（あこが）れでもあった。

「何時（いつ）か私も『お姉ちゃん』の様に――」

　そんな彼女の大学進学を祝う為（ため）、私は『街』へ買い物に向（む）かった――。