おとめの夜あけ 第二部

第3話 エンドロール

　『呪文（じゅもん）』を唱（とな）える→『魔力（まりょく）』が減（へ）る→『魔法（まほう）』が起（お）きる。

　ではなく、『呪文』を唱える→『魔力』が減る→『不思議（ふしぎ）な事』が起きる→その一連（いちれん）全（すべ）てを『魔法』と呼（よ）ぶ。

　でもなく、『呪文』を唱える→『魔力』が減る→『魔法』が目覚（めざ）める→『因果（いんが）』と成（な）って現（あらわ）れる。という考え方。

　しかし世間（せけん）では『因果』そのものを、又（また）はそれらをまとめ『魔法』と呼んでいるらしく、その方が分かりやすいし、そうとしか考えられない。

　かく言う母も、『ややこしいから今まで通り『魔法』は『魔法』という認識（にんしき）でいいわ――』と言っており、益（ます）々理解（りかい）に苦（くる）しんだ。

　そう、その時の私には何が違うのか、その言葉の意味も母の説明（せつめい）も解（わか）らず、今まで通りの認識でしか『魔法』を捉（とら）えられていなかった。

　元服（げんぷく）を迎（むか）えるまでは――。

　元服祝（いわ）いのその日、魔女に成る為（ため）の儀式（ぎしき）を執（と）り行（おこな）い、私は魔法を継承（けいしょう）する事となった。

　しかしそれは、私にとって最悪（さいあく）のものとなった。

　儀式について何も教えてもらっていなかった私は、魔法なのだから、きっと何か魔術的（まじゅつてき）なものを想像（そうぞう）していたが、それは違った。

　魔術的とかそういう事より、それ以前に儀式ですらなかった――。

　母は私に魔法を託（たく）す為、自（みずか）らの命を絶（た）ったのだ。

　断末魔（だんまつま）。母の走馬灯（そうまとう）が断片的（だんぺんてき）に私へ流（なが）れ込（こ）み、それを垣間見（かいまみ）た。

　幼少期（ようしょうき）の母は、今の私と同じく、貧（まず）しく差別（さべつ）に苦（くる）しんでいた。

　母の場合、その原因（げんいん）の一つが魔女であるからで、彼女は生まれながら魔女だったらしい。

　それから彼女は自身が魔女である事を隠（かく）し生きていた。魔女を、魔法を恨（うら）みながら。

　――母からは、自分が魔女である事を他人（たにん）には知られてはいけないと教えられていた。

　魔女と知られると『魔法』狩（が）りに遭（あ）うから、と。

　魔法狩りが本当に有るかは分からないが、私が魔女である事は更（さら）なる差別を生むだけで、それは知られてはならない事と教えられた。

　母の生涯（しょうがい）。その一片（いっぺん）を見せられ、苦（くる）しみから解放（かいほう）された所為（せい）だろうか、母の死顔（しにがお）は笑っている様（よう）に見えた。

　――それは一瞬（いっしゅん）の出来事（できごと）であったが、確（たし）かに私の中に流（なが）れて来（き）て、そして私は『魔女』と成った。

　それ以来（いらい）私の過去（かこ）の記憶（きおく）は曖昧（あいまい）な事が多く、自分の名前を呼ばれる事にさえ違和感（いわかん）を覚（おぼ）えていた。

　『AKIKO』。――私はそう呼ばれている。