退職金の四分の一をつぎ込むほどの料理

 普段はあまり行かない高級なお店での、老夫婦の特別な晩餐のお話。

 グルメ小説です。これでもかってくらいにひたすら料理が真ん中にある物語。
 出てくるのはコース料理なのですけれど、それらの描写や説明の細やかさがもう本当にすごい。

 主人公自身がこういった料理にあまり馴染みがないため、店員さんにどういうものかを尋ねたりする場面が多々あり、その度に丁寧な説明がなされるという親切設計。
 おかげで知識がなくとも問題なく、「へー」と感心しながら読めました。

 とはいえ、いくら高級なコース料理と言っても、退職金の四分の一をつぎ込むほどとなると、まず並大抵のことではありません。
 そこまでするほどの理由。一体、主人公にとって何がどう特別なのか?
 読み進めるに従い詳らかになる全容については、是非とも本編で見てみてください。

 作品紹介文の最後の方、不穏なようなそうでもないようなところが好きです。
 この物語をどう捉えるか? 一体何を感じるか?
 さまざまな答えが想像できること、それそのものに魅力のある物語でした。