晩夏に還る
@asla
第1話
「今年の夏は例年よりも暑くなると見込まれます」
そんなニュースキャスターの発言を聞いたのが一ヶ月前。避暑地として有名なこの鷺宮村は、暑さとはあまり縁もなく、夏休みも終盤になり観光客もほとんどいなくなっていた。僕の夏休みの土産店のアルバイトの仕事も既にほとんどないも同然で、店主である親父は店の奥の居間に引っ込んでしまい、商売をする気はないらしかった。
「良二さん。店番がそんな顔してちゃ駄目ですよ」
あまりの暇さにレジでうたた寝をしていると、いつの間に来ていたのか、マリアの抑揚のない声で目が覚めた。見上げると、夏休みだというのに制服である。
「そうか。中等部は今日は登校日か」
「高等部も登校日です。良二さんが来てないから、担任の篠宮先生でしたっけ。すごく怒ってましたよ」
そう言って、彼女は客が座るための椅子に腰を下ろした。
小鳥遊マリア。僕の一個下の幼なじみであり、名前からわかる通りハーフだ。この村の最大権力である小鳥遊神社の一人娘でもある。
「労働は学業よりも優先されることだとは思わないか」
「別にバイトがない日でも良二さんが学業を優先したことなんてありますか?」
痛いところをついてくる。
「それにしても」
マリアが店を見回して言う。
「夏休みのはじめはあれだけ人がいたのに、こんなに閑散とするんですね。」
「まあよそに比べて気温が低いのがこの村唯一のメリットだしな。」
「こんなに可愛いお人形だって置いてあるのに」
そう言ってマリアはこの村が作っている商品の人形を指さした。可愛らしい鳥のデザインで、まあ子どもや女性受けは悪くない。ちなみにデザインしたのはマリアだ。
「気に入ってるなら何個か持っていって構わないぞ」
「いらないですよ。うちに何個あると思ってるんですか」
自分の創作物に対してひどいいいようである。
代わりに冷凍ボックスから商品のアイスを取り出し、扇風機の前に陣取り食べ始めた。
なお、この店は小鳥遊神社が経営主であるため、彼女が無料でうちの商品を食べようと僕にそれを咎める権利はない。
少し長めの黒髪が揺れるのと連動して、スカートがはためくので目のやり場に困っていると、今度は高等部の制服を着た人間が訪ねてきた。
「先輩いますか。」
訪ねて来たのは本郷美里だった。
続く
晩夏に還る @asla
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