第3話 葬儀
通夜の日の午前中に納棺師の二人がやって来た。
三十半ばの色気のある女性が師匠で、三十代のがっちりした体の男が弟子
のようだった。
「これも料金に入っていますか?」ケチな父親が聞いた。
「基本料金では白衣の着せ替えとお体を拭くのが入っています。お顔の修正とお足の修正は別です」
「じゃー 顔と足の修正は要らないです」
「貴方! お通夜と葬式に親戚の人が和夫の顔を見るから、あれじゃ! 余りに和夫が可哀そうでは?」
「その通りだよ、兄さんケチケチしない!」叔父さんが呆れて注意した。
「じゃー 顔だけで良い!」
「はい、唯、お足が曲がっているので、今の棺には入りません。お身体がご立派で今のサイズで一杯なのでお足が曲がったままでは入りません。ワンサイズ上になり、五万円程高くなります」
「えー そんなに! 今直ぐ俺が足を鋸で切ってやる!」
「兄さん、辞めて下さい。それ位のお金なら私が出しますから、そんな恥ずかしいことはしないで下さい!」さすが叔父さん会社を経営しているだけの事はある。
「ではワンランク上の棺でいいですね?」
「はい、お願いします」
「では体を拭きながら白衣を着せます」私の体を横にさせて、白衣を掛けながらパジャマの上着とズボンを脱がした。
その時、私の小さい分身がころりと出た。
「和夫のこの小さい一持は使った事があるのか? 三十代手前で死んでしまって、無かったら余りにも可哀そうだ!」
(くそ親父が碌なことを言わない! 風俗とソープランドで五回程使った!)
「何故パンツを履いていないのか?」親父が母に聞いた。
「パジャマがピチピチでパンツが履けないのよ」
「あれ、御糞体が?」と納棺師が思わず驚き声に出した。
そして割り箸とビニールの袋を取り出した。
私のお尻の間に割り箸を入れるとコゲ茶色の円盤形の物を取り出した。
直径十二センチ程だった。
「立派な御糞体です」
「糞だろ! 匂うな!」馬鹿な親父が大声を出した。
「いいえ、唯の排泄物ではありません。人が苦しみに耐えられなく排泄しまう。普通は長い筒状で終わりますが、苦しみが長く続くとお尻の筋肉が収縮し、薄い円形に変化するのです。真に珍しいものです」
「それをどうするの?」
「通常は御糞体をコーテングして御仏壇に飾ります」
「金掛かるだろう?」
「コーテング一式で十万円です」
「ヒエー 高いな、一緒に焼却場で焼いて貰え、ヤケクソの焼け糞で丁度良い、ハッハッハ」全く下品で馬鹿な父親だ。
「そうでしたら庭に置いて下さい。そこから霊力が広がります。お金はかかりません」
「そうしよう」と父は御糞体の入ったビニールの袋を受け取った。
納棺師が「これから御糞体の糞が付いた処を綺麗にします」とビニールの手袋をして濡れテッシュを持ち、私の小さい一持の先を持ち上げ玉袋の裏から肛門に掛けて付いている糞を取り始めた。
「お姉さん、玉袋は皺になっているから丁寧に、和夫は生きている内に女の人にこんな事をして貰った事は無いだろう。良かったなあ! 良かったなあ!」
また親父が余分な事を、黙って見ていろ!
「ではお顔の修正を」と弟子に指示した。
顔は鼻から下の顎が左側に曲がっていて、顎肉が不気味に垂れていた。
弟子は顎を元に戻そうと左から押した。力を入れ過ぎたのか、パキッを左顎が外れ、焦って右側から戻そうとしたら、右の顎も外れてしまった。
顎が外れて口が細長くなり顔が長くなった。
前より増しだが、口が開いたままは不味いと、下から顎を持ち上げ口が閉まる状態で白いテープで止めた。
次は苦痛で開き切っている目を手で閉じたが閉まらずこれも白いテープで止めた。
「テープが目立って可笑しい」と父が注意した。
「分りました」と顔に白いファンディションを塗りだした。
「如何ですか?」
「これでは正月のお供え餅じゃないか?」
「それでは」とアイラインで目を一本の線で表し、口は赤い口紅で
一本の線で表した。
「これで良い! 前より断然と良い!」と父は喜んだ。
母と叔父夫婦は呆れたのか何も言わなかった。
新しい棺が来た。納棺師と弟子と父と母と叔父夫婦で如何にか私の体を棺に入れ斎場へ向かった。
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