第9話
中野の訃報を伝えてくれた友人は、そう言って電話を切った。
彼は『無限冷蔵庫』の話を信じているような立場だったが、それは死者へのリスペクトだったのかもしれない。今さら中野の言葉に反対したくなかったのだろう。
しかし私は「『無限冷蔵庫』は中野の思い込みに過ぎなかったのではないか」と考えてしまう。
例えば、本当は食べ終わった後で中野自身が同じ食材を買い足して、冷蔵庫の同じ場所に入れておいただけ。でもそんな無駄遣いは認めたくないから、自分で自分の記憶に蓋をする。全ては無意識のうちの行動みたいになって、辻褄合わせとして自然に生まれたのが、『無限冷蔵庫』というカバーストーリーだったのではないだろうか。
私の頭にはそんな解釈も浮かぶのだが、中野本人が亡くなった今、もはや真相は闇の中だ。
どちらにせよ……。
彼が『無限冷蔵庫』と呼んでいた、あの白い物体。それは遺品整理の際、リサイクルショップに売り払われたという。
今頃、また誰かの手に渡って、便利に使われているのかもしれない。
(「無限冷蔵庫」完)
無限冷蔵庫 烏川 ハル @haru_karasugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★209 エッセイ・ノンフィクション 連載中 298話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます