雪女。令和edition、ですけど!?
あんころまっくす
それは昔々のそのまた昔のお話。
あるところに年老いた
ここでは本人たちの名誉のため名前は伏せておきます。ええ、大事なことなので。
彼らは年中無休で山へ入っては木を切り薪を作って生計を立てて暮らしていました。彼らは個人事業主であり労働者では無いのです。
悲しい労働形態はさて置き、それはある冬の日のことでした。
朝から怪しげだった天候が案の定一気に崩れて吹雪となり、下山出来なくなったふたりは山小屋で一夜をしのぐことになります。
吹雪のなか山に入るなど正気の沙汰ではありませんので現代人の皆さんは決して真似しないようお願い致します。
職業がら薪の手持ちだけは事欠かないふたりでしたので山小屋で暖を取ると保存食を分け合い、それとなく良い雰囲気になった瞬間もありましたが特になんの進展もなく眠りにつきました。
けれども、夜は更けて丑三つの頃でしょうか。異様な冷気に弟子は目を覚ましました。囲炉裏の火の熱は感じているにもかかわらず雪が吹き付けるような冷気を感じるのです。
戸締りは万全、ふたりだけの山小屋だったはずです。
弟子が恐る恐る薄目を開くと、そこには白い長襦袢に長い黒髪の、そしてそれはそれは恐ろしい目付きの美女が立っていました。
内側からしっかり鍵をかけておいた扉はどういうわけか開け放たれ、外から猛烈な吹雪が吹き込んできています。
これでは囲炉裏の熱も焼け石に水というもの。山小屋の中は完全に冷え切ってしまっていました。
弟子は目を覚ましたものの、歳のせいかあるいは既に危険な状態なのか、隣で眠っている師匠は目を覚ます気配がありません。
女は師匠にその美しい顔を寄せるとそっと白い息を吹きかけました。
するとどうでしょう。師匠の顔色はスッと青く、そして瞬く間に白くなり呼吸を止めてしまったのです。
え? 死んだ? マジで?
弟子が困惑しているあいだにも女は冷たくなった師匠を離れ、次のターゲットである弟子に覆いかぶさりその美しい顔を寄せてきました。黒瑪瑙のような美しい瞳がじっと彼を見つめます。
弟子は思いました。あ、うん。これは死んだ。と。
しかし……それにしても美しい。
瞳だけではなく、その長い黒髪も、ひとのものとは思えぬ白い肌も、着物から覗く豊かな乳房も、なにもかもが美しい。はい、おっぱいすごいですね。
弟子の視線は女の瞳より今にも零れそうなその乳房に釘付けです。弟子は童貞だったので仕方がありませんでした。
このような女に覆いかぶさられては到底尋常のままではいられません。
今にも灯し火が消えそうなほどに冷え切っていた肉体は、しかしその過酷な境遇にこそかえって根源たる衝動を揺さぶり、ついには熱を帯びて力強く屹立するのでした。
「お前もあのジジイのように殺してやろうと思ったが……って、ちょ!? ええっ!?」
弟子はなにか良い感じのことを言おうとしていた女の肩を押して仰け反らせると一瞬で体制を入れ替えマウントポジションを取りました。形勢逆転です。
女の着物が乱れ美しくも肉感溢れる太ももが付け根近くまで露わになりましたが幸か不幸かマウントを取っている弟子の視界には入りません。女にとってはまさに不幸中の幸いと言えました。
「いや、あの、え、冷たくない? 冷たいよね私! かなり冷たいと思うけど!?」
実際彼女の体温は触れているだけで命に関わるほど低いのですが、目を血走らせ息を荒げる弟子は意に介した様子もありません。
「冷たい、ああ、冷たいさ! だがその程度がなんだというのだっ!!」
女は気付いてしまいました。マウントを取っている弟子の灼熱に猛る逸物の存在に。その熱さたるやまるで人間火力発電所です。
「俺の中に滾るぅ! リビドォ! パトスッ! のっ! 前にはっ!!」
「ぎゃあああああああああああっ!」
女は思わずその容姿にそぐわぬエグい悲鳴をあげてしまいました。
「お前が噂に名高い雪女というやつか! なるほど聞きしに勝るおっぱ、美しさよ!」
その
「このような美女に命を奪われるなら俺も
弟子は雪女の着物を無理やり掻き開くと露わになった乳房を問答無用に鷲掴みにしました。
これ犯罪ですので法治国家にお住いの皆さんは決して真似しないようくれぐれもお願い致します。
「この猛りを鎮めぬ限り俺を凍らせるなど到底叶わぬと知れぇいっ!! お願いします一回だけで良いのでっ!!」
底知れぬ恐怖、生まれて初めての羞恥と屈辱。
触れ続ければそれだけで凍える肌も一息で肺腑を凍らせる吐息もこの男の欲望の前には無力でした。
しかし彼女とて名を馳せた怪異、それらを圧倒的に上回る怒りがその心をどす黒く塗り潰していきます。
もはや答えはひとつしかありません。
キレた雪女によって閃光の如く放たれた一本拳が弟子の喉仏を的確に捉え穿ちます。
異能など所詮は児戯に過ぎません。最後に頼れるものは鍛え上げた己が肉体のみ。
人体急所への一撃にもんどりうった弟子をブリッジで弾いた雪女は素早く立ち上がり、前蹴りでその鼻面を潰さんばかりに容赦なく蹴り飛ばして距離をとりました。
しかしここまで一度も異能が通用しなかった弟子はもはや怪異殺しと呼んでも過言ではありません。少なくともそれだけの不安を彼女に与えていました。そのような相手に異能を持って相対するなど雪女にはとてもできなかったのです。
その心情、お察しいただきたい。
あと実際に強制性交等罪の被害に遭いそうな場面に暴力で相対すると非常に危険ですので霊長類最強の自負でもない限り雪女の真似はしないほうがよいです。
そういうときは大きな声と音がお勧めです。一番効きます。
「お、お、お前!! 四百年後だったら御用待ったなしだからねこれ! 御伽噺だと思って甘えてたら社会的に百遍泣かすわよ!!」
雪女は乱れに乱れた着物の襟元をどうにか掻き合わせながら怒りに声を荒げました。とはいえ
しかし弟子もまた、華麗にマウントを崩して見せた雪女の底知れぬ
舌戦が始まりました。
「構わぬ! どれだけ汚れようが我が生涯に一片の悔いなし!!」
「色々混ぜて都合の良い言葉を捻り出すな! 周りの迷惑を考えなさいよっ!!」
「え、そもそも初対面で会話もなく殺そうとしといてそんなこと言う? っていうか既に師匠殺されてるんだけど?」
「急に素になんないで! お前たちがこんな吹雪の日に山に入って来るからこんなことになってんじゃないの!!」
「こっちだって生活掛かってるんだよ! 冬場は冬眠してる熊と違って吹雪いててもおまんま食わにゃやってけねえのっ!!」
「うるさいうるさい! 今日は見逃してやるからもう帰って! 夜が明け次第帰って! 言っとくけど私のこと誰かに言ったら命は無いからねっ!!」
「ほう、つまり」
弟子の目がきらり、いや、ギラリと輝きました。
「里でこの話をすればお前が家までデリバリー」
「お、おまっ!ブッ殺すぞこの腐れ
「だが、そうなのだろう?」
「……ぐぅ」
立派なぐうの音が出ました。
「うわぁんもうやだ人間なんか知らない! 二度と来んなボケェっ!!」
雪女は開け放たれたままの扉から外へと飛び出し一瞬で吹雪の中へと消えてしまいました。さすがの弟子もこの中へ飛び出して後を追うのは躊躇われます。
外は吹雪が弱まりつつあり、その向こうでうっすらと朝日が昇り始めていました。
こうして無事に雪女との遭遇から辛うじて生き延びた弟子ですが、ひとつ問題が残されていました。
溢れんばかりの熱い滾りがまだ力強く脈打っているのです。
どうにか息を整えて鎮静を試みましたが、そのたびに雪女のたわわなふくらみの弾力が脳裏とてのひらに蘇りどうにも収まりがつきません。
「こ、これはまさか雪女の呪いか……」
言いがかりです。
「くっ、いったいどうすれば……」
そのとき焦る弟子の視界に、まるで救いの神のように既に冷え切って息絶えた師匠の姿が映りました。
「え、ちょっとまって、わし死んでるんじゃけど?」
「この猛りを収められるなら……この際背に腹は代えられないかと」
「いやいやわし男じゃんっていうか屍姦は直接的には犯罪じゃないが実際には間接的に死体損壊罪が付随するからノーチャンじゃぞ」
「大丈夫です師匠、誰も見てませんし発覚の恐れもありません」
死んでいる師匠に迫りくる弟子を退ける
「ちょ、ま、なんにも大丈夫じゃないし、おい、話聞けって」
「死人に口なしですよ師匠。お任せください、大丈夫、優しくしますから……」
「いやああああああああああ!? アッー!!」
いつしか吹雪は止み、美しい朝日がふたりを照らしていました。
なんという奇跡でしょう。師匠の凍えた肉体は、弟子の熱く滾った献身(意味深)により息を吹き返したのです。
ところで師匠も言っていましたが屍姦は総合的にみれば結局犯罪となりますので決して真似しないよう本当にお願い致します。
それ以来、冬の山に雪女が現れることは二度となく、無事生きて山を降りたふたりはいつまでも仲睦まじく暮らしたそうな。
めでたし。めでたし。
雪女。令和edition、ですけど!? あんころまっくす @ancoro_max
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