第7話 装備


「じいちゃん、ただいまー」


「お帰り。どうじゃった?」


 おじいさんはお茶をすすりながらモニターを見ている。


「力の適正だったよ」


「そうかそうか、それは良かったな」


 特に驚きもせず、お茶をすすりなおした。


「なんか反応が薄いな~」


「まあ、予想はしていたからの。アルは不器用じゃから、こうなると思っとったよ」


 グサリとアルの心に何かが突き刺さる。


「ふぉふぉふぉ」


 それを見ながら、おじいさんは微笑ましく笑った。


「ひでーな~。まあ良いけど」


 アルの立ち直りはなかなかに早かった。


「それよりさ、じいちゃん」


「なんじゃ?」


「明日、クロム達とダンジョンに行くことになったよ」


 流石に、これにはおじいさんも驚く。


「急な話じゃな。何があったんじゃ?」


 アルはおじいさんに今日の出来事を話した。


「そうか。そんなことがあったのか」


「行っても良いだろ?」


「ああ構わんよ。じゃがの、ダンジョンは危険だと言うことはわかっておるな?」


「わかってるよ」


「それなら良い。クロム達に迷惑を掛けんようにな」


「それもわかってるよ! ところでじいちゃん、俺の装備はどこだ?」


「それなら、洗濯をして押し入れにしまっておいたぞ」


「わかった。ありがと!」


 アルは押し入れへと向かい、明日の準備を始める。おじいさんは先程は特に何も話をしなかったが、少しアルのことを心配していた。


(やはり、ダンジョンが現れたか…。何事も起こらなければ良いがの…)


 おじいさんはせんべいをかじりながら、再びモニターでニュースを眺めはじめた。



 ★




 翌朝。


 アルが集合場へと向かうと、途中でミカと出会う。


「おはよ~、アル…。ふわぁ~」


「おはよ。何だいきなり? 眠いのか?」


「うん」


 ミカは欠伸をすると、その後目を擦った。


「ダンジョンが楽しみで、眠れなかったのか?」


「う~ん、違う~。昨日は近所の人が家に遊びに来てて、スカイボールの話で

盛り上がってたから、あまり眠れなかったの…」


「今日はダンジョンなんだから、気を付けろよ」


「ふぁ~い」


 ミカは再び口に手を当てながら欠伸をした。





 二人が集合場所へと辿り着くと、クロム以外は既に集まっていた。


「なんか皆、凄い装備よね…」


 ミカは目をパチクリとさせ、目が覚めたと同時にもじもじと恥じらう。


「恥ずかしいのか?」


「だって…」


 今日はアル達も含めて、全員装備を身に付けている。そして、二人の装備は効果が何も付いていない普通のものだ。素材もこの街の近に現れる魔物の革を使用しているので、見た目もあまりカッコ良いとは呼べない。


「そんなの気にしたってしょうがないだろ。それよりも、早く皆のところへ行こうぜ」


「待ってよ~…」


 アルはミカを置いて歩き出す。


 アルもこの事を気にしていないわけではなかった。だがそれよりも、今は皆がどのような装備を身に付けているのかと、そちらの方が気になっていた。





「皆、おはよう」


「おお、アル殿とミカ殿。今日は宜しくですな」


 アル達に声を掛けた茶髪の人物は名をマックスと言う。昨日も会話をしていたが、語尾に「ですな」を付ける癖がある。


 マックスの装備は背中に大きな盾と、使い回しの良さそうな大きさのハンマーを背負っている。そして全身はプロテクターでしっかりと固められていた。


 プロテクターとは所謂、防具の総称のようなものである。見た目はメカニカルなデザインとなっていが、これはエングレイブを刻んでいるからである。


 エングレイブとは簡単に言えば刻印のようなもので、これを武器や防具に刻むことで特殊効果を持たせることができた。


「クロムはまだなのか?」


「いつものことだ。気にするな」


 ベージュのスーツ姿にオレンジ色の髪をしたこの男はグレンだ。普段は無口であまり会話を好まない。


 そしてプロテクターはごつごつとした鎧だけではなく、グレンのような布製の防具も含まれる。


 グレンは壁にもたれ掛かったので、クロムはもう少し遅れるということのようだ。


「クロムが来る前に、今日の事、簡単に説明しておくわ」


 クリーム色の髪をし、グリーンのタンクトップに黒の短パンとロングコートを身に纏っているこの女性はエルルだ。クロムとは昔からの付き合いがある。


 エルルは座ったまま、アルとミカに手招をする。


「今日はダンジョンが発見されての初めての探索だから、ダンジョンの周りと1層だけ、探索をするわ。まだダンジョンが何層まであるかは分からないけど、今までの経験上、5層は続いてるはずだから、一応この事は頭の中に入れておいて」


 この辺りの話はアルとミカも何となく理解をしていた。冒険者になるために勉強をしていたからだ。


「それと、まだ出来立てのダンジョンだから、中に入って何が起こるか分からないわ。イレギュラーなことが起こるかもしれないから、二人はできるだけミルフィーの近くに居て。ミルフィー、良いわね?」


「う、うん。頼りない私だけど、二人ともよろしくお願いします」


 ミルフィーは丁寧に頭を下げた。


「こ~ら~。先輩なんだから~、しっかりしなさい」


「あっ、ごめんなさい。つい…」


 頭を上げてミルフィーの水色の髪がなびく。装備は水色と白色のデザインのドレスだ。そして、クロムのパーティーメンバーの中で一番年下でもあるので、遂、普段の話し方が出てしまう。


「それから、キキ」


「な~に~?」


「キキも二人の護衛をお願い。よっぽどのことがなければ大丈夫だとは思うけど…」


「任せて~。アルちゃんとミカちゃんは私が守ってあげる~」


 黒髪のキキはぴったりとした全身黒色のボディースーツに、白を基調としたジャケットを装備している。お尻のラインがはっきりと表れる姿なのだが、そこからは真っ白な細いしっぽが飛び出していた。


 キキは猫耳族だった。しっぽと同様に頭の三角の耳もまた可愛らしいのだが、感情を顔に出さなかった。本当はとても優しい子なのだが、今は無表情でアルとミカに話し掛けている。


「とりあえずは以上ね。何か質問はある?」


 エルルはアルとミカを見た。


「移動はどうするんだ?」


「ああ、忘れてたわ。移動はキキとミルフィーに付いて行って。二人乗りのボードを用意したから」


「わかった」


「うん」


 アルとミカは頷いた。


 この後、クロムが到着するまでの時間、皆で雑談を交わすこととなる。

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