第6話 新しいダンジョン


「そうなのか、クロム?」


「アル! 疑うのか!? 俺はぜ~~~たい! その毛はないぞ!」


 アルはクロムの情けない姿に呆れる。


「はあ、違うよ。ダンジョンのことだよ」


「んん!? あ、ああ~、ダンジョンのことか。まあ、何となくな」


 クロムは頬を赤く染め、姿勢を正しながら頭を掻く。


『パン!』


「それなら、任せちゃっても良いわね!」


 ギルドマスターが突然両手を胸の前で合わせた後その手を頬に当てて体をくねらせると、クロムは仕方がないと言った表情をする。


「お、俺も…、付いて行っても良いか?」


 アルは思わず口から言葉がこぼれた。この賑やかな場の雰囲気に当てられたのかもしれない。そしてクロムは鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をする。


「アルはまだ、冒険者じゃないだろ?」


「俺も今日から冒険者だ!」


 アルは一歩前に出る。するとその背後からミカが顔を出した。


「ちなみに、私も今日から冒険者よ!」


「お前ら、二人とも冒険者になったのか! そうかそうか、良かったな~!」


 クロムは爽やかに笑いながら二人の頭を撫でる。


「やめてくれよ~」


「そうよ。子ども扱いしないで!」


 アルとミカはそれが嫌ではなかったが、恥ずかしいのでその手を振り払った。


「まあ、お前らの頼みなら、見過ごせね~か」


 クロムが顎を撫でていると、突如、背後に居た女性がクロムの肩を掴む。


「ちょっと! こんな子供で大丈夫なの? 足手纏いになるわよ」


 この女性はクロムのパーティーメンバーだが、アル達との面識はあまりない。何故なら、クロムがアルのおじいさんのところへ訪れる時は、いつも決まって一人だったためだ。


「こいつらなら大丈夫だ。爺さんに鍛えられてるからな。それに、初めのダンジョン探索は奥には進まないからな」


 今回のように新しいダンジョンが発見された場合は、初見ではあまり深いところまでは進まないことが一般的となっている。まずは入り口付近を調査し、そのダンジョンがどのようなものかを調べてから、奥へと向かうのが冒険者のやり方となっていた。


「それはそうだけど…。この子達、装備も持ってないんじゃないの?」


「装備は…、持ってるわ! 練習の時に使ってるものだけど…」


 ミカは女性に馬鹿にされたと思い言い返すが、装備には自信がなかった。


「ほら~」


 女性は呆れた顔をする。


「そう言うなって。俺も初めてのダンジョンはこんな感じだったんだ。なんとかなるさ。それに、お前達にも話しただろ。俺が初めてダンジョンへ行った時の事を…」


 クロムは苦い顔を作りながら後ろへ振り向く。すると、背後にいる仲間たちも苦い顔となった。


「それが先輩冒険者の、務めというやつですな!」


 仲間の一人の大男がアル達に近寄る。


「但し、自分の身は自分で守るように! そこは守ってくださいな!」


「わかったよ!」


「わかったわ!」


 こうして、何気なく口からこぼれ出てしまった言葉が、アル達をダンジョンへと導いた。



 ★



「出発は明日の朝だ! お前ら準備をしておけよ!」


「は、はい!」


  クロムが仲間に指示を飛ばすと、ローブを纏った少女が緊張をしているかのような声を上げる。


「アル達もそれで良いか?」


「うん、良いよ!」


「私も良いわ」


「よし。それじゃあ明日の朝8時に、南門に集合だ!」


 クロムは再び全員に伝わるように声を張り上げた。


「でも、移動はどうするの?」


 ミカが不安げな表情を浮かべながら、アルを見つめる。


「それは心配するな。今回は俺達が運んでやるよ。何なら、装備も貸してやるぞ?」


 クロムの提案にミカの顔が少しこわばる。


「そ、装備は良いわ。自分の物を使った方が動き易いし、それに…」


 ミカはもじもじとして会話を止めるが、


「臭そうとか言うんだろ?」


「言ってないじゃない!」


 アルが心を見抜き、ミカの顔は真っ赤になる。


「あははは。女の子だもんな~」


 クロムが再びミカの頭を撫でる。


「もう! アルのバカ!」


 アルとミカはじゃれ合い始めた。


「それならそっちは任せるぞ~」


 クロムはひらひらと手を振りながら後ろを振り向く。


「お前ら、そろそろ宿に向かうぞ」


「はーい」


 仲間のもう一人に少女が無表情に返事を返すと、クロム達はこの場から立ち去った。


「アル、これからどうするの?」


「俺は明日の支度をするから、一回家に帰るよ」


「そうね。私も明日の準備をしようかな」


 アルとミカもギルドを後にして、それぞれの家へと帰ることにした。

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