第5話 ダンジョン


「ダンジョンだ! ダンジョンが現れたんだよ!」


 ギルドに辿り着くと、先程の男がカウンターで大声を上げていた。


「ちょっと落ち着いてください。話の内容がよく分かりません」


 他の職員が男に慌てて水を差し出す。すると、男はその水を一気に飲み干した。


「はあ、はあ、済まない。ずっと走りっぱなしだったからな」


 男は少し落ち着きを取り戻した。


「ダンジョンだ。ダンジョンが現れた」


「それはさっきも聞きました。ダンジョンなんてどこにでもあるでしょ!」


 この星にはダンジョンと呼ばれる、未だ解明することのできていない未知のエリアが存在した。そしてそれは冒険者がクリアをすると消滅し、また新たな場所に別のダンジョンとして現れる。


「違うんだ。街のすぐ近くに現れたんだよ!」


 男の言葉にギルド内はどよめいた。そしてギルドの奥からマッチョな男が現れる。


「その話は本当なのかしら?」


「本当だ、マスター。俺はこの目で見てきたんだ。信じてくれよ」


 このマッチョな男は、なんとこの街のギルドマスターだった。そして両手合わせながらそれを顔の横へと運び、


「うう~ん、まあ!」


 ぶりっ子の様な声を上げた。言わずもがな、このギルドマスターはオカマだった。そしてこの言葉を皮切りにして、


「うぉーーー! ダンジョンだ!」


「街の近くに、ダンジョンが現れたぞ!」


「酒もってこい、酒!」


「今日は飲みまくるぞ!」


「うぉーーーー!」


 ギルド内はお祭り騒ぎとなった。


「あなた、詳しく説明をしなさい」


 ギルドマスターが男に顔を近づけた。



 ★



「おう! ここも賑わってるな!」


 ギルド内の視線が入口の方へと集まる。そしてアルは横を向いた。


「あ、クロム! 帰ってたのか!?」


「ようアル! 久しぶりだな~。元気だったか?」


 クロムはアルを見つめた。


「「「キャーーー!!!」」」


「クロム様よ!!!」


「キャー! キャー!…」


『バタン』


 黄色い声援が飛び交い、一人の冒険者の女性が気を失いその場に倒れた。そしてギルドマスターがクロムの方へと近づいて行く。


「おかえりなさいクロム。調子はどう?」


「あ~、ぼちぼちだ」


「あらそう。それは良かったわ」


 ギルドマスターが熱いウィンクを贈る。そしてまたそれを合図にして、


「クロムが帰ってきたぞー!」


「うぉーーーーー!」


 再びギルド内が盛り上がった。


 この白髪のラフな服装をしたクロムと呼ばれる男は、この街で生まれ育ったAランクの冒険者だった。


 冒険者にはランクと呼ばれるものが付けられている。ランクはFから始まり、最高ランクはSSSとされていた。が、SSSというランクの所持者は現在存在しておらず、また、SやSSランクの冒険者も数える程しか存在していない。そして次のSランク冒険者と噂をされているのが、このクロムだった。


「にしても、街の騒ぎとは少し雰囲気が違うな~。何かあったのか、アル?」


「ダンジョンが街の近くで見つかったみたいなんだ」


 クロムは目を丸くし、アルの肩を抱いた。


「はっはっは~! そりゃ~、めでていこった!」


 クロムとアルは知り合いだった。クロムは時々、アルのおじいさんに会いに訪れていたからだ。だが、訪れてくる理由はアルには分からなかった。


「丁度良かったわ。クロム、そのダンジョンに向かってくれないかしら?」


「おいおい。俺はさっきこの街に来たばかりなんだぜ。それに、スカイボールの祭りを見に来たんだ」


「そんなこと言って~。実は、気付いていたんでしょ?」


 ギルドマスターは体をくねらせながらクロムへと近づく。


「や、やめてくれ! 俺にその毛はない!」


 蟹股で後ずさって行くクロムの姿は、とてもかっこ悪かった。

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