第5話 デイクの解説

翌朝、全身筋肉痛で投げ出したくなる気持ちをおさえエリックは大学へ向かった。3日前の晩に仕上げた課題は自身の研究を発表するための資料整理や原稿など、発表の準備であった。その発表は土嚢を30個運ぼうが、三日月島の危機だろうが関係はないらしい。予定通り行われるようだ。


「狂気の沙汰じゃないか。もう大学どころじゃないだろ。俺としては好都合だが。」


エリックはぼやきながら学校へ向かった。


道中、朝の放送が聞こえてきた。


「おはようございます。定時放送の時間です。大統領令によって、昨晩まで続いた土嚢運びは今朝までにすべて完了したと政府が発表しました。土嚢の効果は未知数ということですがある専門家によると1か月は決壊を免れるのではないかという見方も出ています——」


エリックはすでに絶望と同居しており、あきれる心の余裕はなかった。ただ、冷笑に付すのみであった。


「——ここで先日も話を伺いました、地震専門家のデイクさんにお越しいただき我々の今後について伺います。よろしくお願いします。デイクさん。」


「はい、よろしく。」


「まずデイクさん、先日、地震の原因について言及されてましたね。もう一度お聞かせください。」


「はい、えーっとね、まだ、はっきりと言えないんですけどね、地震はね地下で何かしらの衝撃が地上に伝わったものだと考えられますね。例えば爆発とか。僕は一番これが可能性が高いと思ってますね。」


「地下で爆発、ですか。どうしてそう考えられたんですか?」


「そうですねえ。まずね、先日海面上昇専門家のフェツェさんが仰っていた通り海面上昇は我々の住む三日月島が地震の度に海の底に向かって沈んでいるからなんですよね。沈むためにはスペースが必要ですよね。私はこの島の地下に大きな空洞があり、そして何らかの原因で爆発が起き、その度に空洞へ三日月島が引きずり込まれていると考えています。」


「なるほど。では我々はどうすればいいのでしょうか?」


「もう島を脱出するしか方法はないのではないかなって思ってますね——」


放送はさらに続いたがエリックはすでに大学の正門までたどり着いていた。

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いつか沈む島で 藍色 @universe888

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