墓場の歌

仁科柘榴

 この町では年に一度、墓場で歌うという行事がある。不謹慎と言われればそうだが、残念ながらこれが伝統行事である。この町の人間はその行事を誰も不思議に思わないし、不満も抱かない。それに、行事の日には学校や仕事がお休みになる。家族揃って家で過ごし、歌う時間になったら家族揃って墓場まで蠟燭で道を照らしながら向かう。道照らすのに使う明かりは懐中電灯ではなく、蠟燭じゃないと駄目らしい。昔からの伝統を大切にするこの町では当時から使用していた蠟燭でないと駄目だそうだ。こんなに仰々しくするもんかねと僕はずっと思っているが、学校が休みになるからまぁ良いやと毎年思っていた。その行事の日は食事が豪華になるし一日中ゲームをしていても怒られない、学校からの課題も出ないし良い事尽くしである。僕も毎年参加しているのだが、毎回歌の歌詞が違うのだ。この前の年は確か、死んだ人間がどんな人でも天国に行けるように願うような内容だった気がするが、今年は違う。確か、天国なんてないから地獄へ行くぞ、みたいな歌詞だった。僕は何故この行事が行われているのかわからないが、死者を弔う行事とは思えない。だが、そんなことはどうでもいいか。行事は一週間後に迫っている。一週間後の豪華な食事を想像して少し口角が上がった。当日が楽しみだ。

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墓場の歌 仁科柘榴 @zakuro33

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