食事が週一のサプリ摂取なディストピアで、美味しい手料理を!
- ★★★ Excellent!!!
SFとして非常に完成度の高い作品だ。細部に至るまで丁寧に作り込まれた世界観は実に説得力があり、文章力も高く、これを本当に高校生が書いたの!? 近頃の高校生すげぇな! と驚愕してしまった。……そもそもカクヨム甲子園のエントリー作品と知らずに先入観なしで読み始めた作品だったので、作者は私と同年代だろうな(30代)と勝手に想像していた。それほどまでに作者の精神的な成熟が伺える内容だった。
■■以下、ネタバレあり■■
西暦2200年代半ばの第四次世界大戦により人類のサイボーグ化が急激に進み、人類の必要とする食料の量が激減。それに伴う従来の農業や畜産業の衰退。1週間に1度の摂取でそれ以外は飲まず食わずでも活動できる完全栄養サプリメントの普及により、食事が必須ではなく娯楽となった西暦2300年代。
物語の前提となる舞台背景が冒頭の数話で無理なく説明されているのも、読者と足並みを揃えようという作者の気遣いが感じられて好感度は高い。
この物語の主人公は理不尽な理由で仕事を解雇された若くて優秀な研究者。そんな彼は、過疎化が著しい田舎の町に食肉用のキメラ開発の為にスカウトされる。
人々が飲食を仮想現実内で楽しむのが当たり前になっているこの時代において、あえてリアルの食事とおもてなしに価値を見いだし、主人公と仲間たちが本物の食事の魅力を前面に押し出しての町起こしに奮闘するというのが物語の屋台骨となる。
このレビューをしたためている時点ではまだ最初の量産キメラ『コケモモ』が登場したばかりだが、リアルが調理師である私にとって大変魅力的な食材だと唸らされた。
これからどのような食材キメラが登場し、どのように料理されていくのか。今後の展開がすごく楽しみだ。
この異色のサイバーパンクグルメ小説は、完結すればある意味パイオニア的な存在になるかもしれないと読者の期待を抱かせるだけの潜在力のある作品だ。是非ともエタらず完結まで書き切ってほしいと思う。