下.

 追い立てられるように王国を出た。これが伝説の勇者に対する扱いかよ! ザマァ系にしてやろうか!?

アイテムバッグにフラストレーションをパンパンに詰め込んだ俺は今、所謂いわゆる『始まりの森』的な所にいる。転生前は気にしなかったけど、勇者目線で改めて見ると森って虫も得体の知れない毒草もモンスター以外の動物もいるし、ファーストステージには向いてないと思うんだよな。見通しも悪くて不安感半端ないし。方角間違えてあらぬ方向への旅にもなりそう。


なんでそんなことゴチャゴチャ考えてるかって? そりゃあ……


「何立ち止まってんだよ俺」

「一応オメェが勇者でリーダーなんだぜ、シャッキリしろよ俺」

「気持ちは分かるぜ俺。俺は俺だもんな、俺」

「俺俺うるせーよ! 切羽詰まった詐欺か!」


現実逃避だよ! なんだこの気持ち悪りぃ光景は!? 毎朝鏡で自分の顔見てんのに、立体化するだけでこんなにキツいのかよ!

んで何より、どうしてコイツらはそんなに順応してんだよ!?


「具合悪そうだな、俺」

「悪いモン食ったか俺」

「食ったどころか体内から出て来てんだよ! 具合の最悪な人間が三人!」

「んだと!? それは俺でも聞き捨てならねぇぞ俺!」

「うるせぇーっ!!」


せめての救いは各俺が職業に合わせた格好しているからどの俺が何俺かの区別だけはつく、ということか。でもそんなの喉頭癌にトローチ渡されるようなモンだぜ……。


「もうやだ……。帰ってミオに会いたい……」

「俺はこの冒険が終わったらミオにプロポーズするぜ」

「俺は土地買って一面の小麦畑にして、そこでミオと二人で暮らすんだ」

「俺はミオにそっくりの娘と俺にそっくりの息子のささやかで慎ましい四人家族を……」

「待てや!」


俺達が一斉に俺を見る。なんだこの絵面。


「お前らまでミオを狙うんじゃねぇ! ずっとアイツを好きだったのは俺だぞ!」

「何言ってやがる! 分身するまでは同じ存在だったんだ、俺だってずっと好きだったに決まってるだろうが!」

「いくら俺でもミオのことは容赦しねぇぞ!」

「魔王の前にぶっ殺すぞ俺共!」


なんてこった! 余計な所まで俺過ぎる! これ冒険終わったら戻るんだろうな!?

そうしてギャーギャー騒いでいる俺達に反応したのか、


「おい俺!」

「なんだよ俺!」

「モンスターだぞ俺!」

「俺はモンスターじゃねぇよ俺!」


こんな報告にも混乱が起きんのかよ絶望的だな! 俺同士なんだから意思疎通くらいスムーズにしてくれよ!

とまぁ愚痴ってる場合じゃない。目の前に何やらキノコのバケモンみてぇな(つーかバケモノか)二足歩行生物がいる。


「こうなったら仕方ねぇ! 話は後だ、まずは奴を片付けるぞ!」

「「「おう!」」」


さすが伝説の勇者パーティ、戦うと決まったら全員動きが素早い。

まずは一瞬で俺と戦士俺でキノコを挟み撃ち、両足を薙いで動きを封じ、そこに魔法使い俺が焼却魔法を放射! 難無くキノコを撃破した。僧侶俺? 暇そうにしてたよ。


「こういうところの息はピッタリだったな。一安心だぜ」

「さすが俺だな」

「なんたって俺だからな」

「俺ながら惚れ惚れする手際だったぜ、俺」


ここの会話は混乱するなぁ。戦闘に影響してくれるなよ? そんなことを考えていると、


頭の上に経験値バーが現れた。へー、勇者目線だとこうやって出るんだな。そもそも出るんだな。


と思ったところで、


「あれ? お前らの経験値は?」


経験値バーがオリジナル俺にしか表示されない。他の俺は俺の経験値バーをただただ見ている。


「そりゃ俺」

「俺は俺なんだからよ」

「俺に経験値入ったら俺の経験値だぜ」

「んー?」


よく分からんがそういうことらしい。なんで俺以外の俺は当然のように理解しているのか分からねぇが、そういうことらしい。


「それより俺、レベルが上がったぜ」

「お、そう?」


さて、ステータスはどのくらい……、と思ったら、


「なんだよ! レベル上がったのにちっともステータス変わってねぇじゃねぇか! 俺に伸び代はありませんってか!?」

「違う違う、よく見ろ俺」

「んあ?」


よく見るとまたもやオリジナル俺にしか表示されないステータス欄の一番下に、『スキルポイント:10』の表示が。


「なんだこれ」

「このゲームはどうやらレベルアップで技が解放されて、ステータスはスキルポイントで好きに伸ばすタイプのゲームらしいぜ」

「なるほど」


取り敢えず勇者だから何も考えず攻撃と防御にポイントを振ると、


「おい! 何してんだ俺!」


魔法使い俺が肩を掴んできた。


「急になんだよ!」

「攻撃ばっか振られても困るんだよ! 魔法の威力が上がらねぇだろうが! 杖で殴り掛かれってか!?」

「はぁ!? え!? おい! もしかして!?」


こちらも多少不機嫌そうな僧侶俺が腕を組みながら言い放つ。


「そりゃ俺(勇者)にステータス振ってんだ、俺(魔法使い)にも反映されるぜ俺」


「はあああああ!? やり辛っ! 欠陥システムじゃねぇか!」

「そうなったもんはしょうがねぇ」

「とにかく賢さにも振れ俺ぇぇぇ!!」

「わ、分かっt」

「待て! 賢さなんか伸ばして戦士が何に活かすんだよ! 戦いは攻撃が基本だろうが!」

「耐魔法は上がるんだからいいだろうが!」

「そもそも俺が回復魔法使えなかったら後悔すんのは俺だぞ俺!」

「おいおいおい! 俺同士で喧嘩すんな俺!」


どうする、どうする!? これは相当上手くやらねぇと四人っていう少ないリソースの中で機能しない奴が出てくるし、何よりパーティ空中分解しちまうぞ!? 


考えろ、考えろ……!



 数ヶ月後。


『魔王様! 勇者パーティがここまで……、グハッ!』

『悪魔宰相! ククク……、そうか、遂にここまで来おったか。伝説だかなんだか知らんが返り討ちにしてくれるわ!』

「それはどうかな?」

『現れたな勇者共! 覚悟s』

「先制パンチ!」

『速い! おのれ! 喰らえ「魔王漆黒砲」!』

「おっと危ねぇ」

『くっ、速過ぎて当たらん……! であれば広範囲の攻撃でどうだ! 「魔王暗黒波動撃」!』

「おい、なんか効いたか、俺?」

「魔王が扇風機でもつけてんじゃねぇか、俺?」

『な、なんだと!? 余の攻撃が効いていない!?』

「ふっ、そりゃそうよ」

『ゆ、勇者!』

「俺達は伝説の勇者のステータス成長率を、不公平にならないよう全員が等しく恩恵を受ける『HP』『防御』『素早さ』のみに振ってきたからな!」

『な、何ィィィィィ!?』

「その代わり火力はからっきし、三徹くらい付き合ってもらうぜ覚悟しろよ!」

『このゴキブリ共めぇぇぇ!!!!!』






「ということがあって、勇者様御一行は『伝説のGレジェンダリ・コックローチ』とか呼ばれるようになって、開き直ってそれをエンブレムになさったんだよ」

「へぇー」


孫は興味があるんだかないんだか分からないリアクションをした。どうやら旗の由来より違うことの方が気になっているようだ。


「それよりおばあちゃん、結局勇者様は乏しい火力で魔王を倒せたの? その後一人に戻れたの? ミオさんとは結婚出来たの?」

「ふふ、気になるかい?」

「うん!」


おばあちゃんはにっこり笑い、


「出来たからおばあちゃんがいて坊やがいるんだよ」


ゴキブリの旗が誇らしげになびいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティ全員俺 〜ステータス割り振りの悲劇〜 辺理可付加 @chitose1129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ