第46話 最終話

「お断りだ」と、ヴェルン。


 あたりは夕暮れの赤に染まり始めています。険悪な空気を感じてか、ヴェルンの使い魔もあたふたしています。カーキの魔女も少し困ったような顔をしています。たぶんこれを予想してわたしを連れてきたんですよね。


「でもヴェルンも『ノシリアの選択は正しかった』って言ってましたよね?」

「それとこれとは話が別だ。シダラとツァズパニを許したわけではない」とヴェルン。

「えー。泣く子も黙るウタイーニャ家、エルボアーテ家、イスルロード家ですよ? 黒い猫も白くなりますよ?」

「貴族がまたわたしの小屋に火をつけにくるか?」

「意地悪いわないでくださいよ。三家が頭を下げているって言ってるんです」

「何でもかんでも貴族の思い通りにされてたまるか。貴族にだってわたしは負けないぞ」


 いつもクールなヴェルンが感情的ですね。実際のところヴェルンが大暴れし始めたらそう簡単には止められそうもありません。


「いまポッセの醜聞しゅうぶんをだしたらテロリストが勢いづきますよ。ポッセが割れるかもしれませんよ。ヴェルンはここの子どもたちのために治安を守ってきたんじゃないんですか? みんなヴェルンをしたってるんですよ」

「ずるいぞナピ。それとこれとは話が別だ。わたしはシダラとツァズパニを許さない!」

「今は恩を売っておけばいいって言ってるだけじゃないですか」

「ナピ!」と、カーキの魔女がわたしたちに割って入ります。「無理強むりじいすることはできない。――でもヴェルン、少し考えてみてくれ。今日は失礼するよ」


 カーキの魔女は杖に乗って飛んで帰りました。わたしは歩いて自分のコテージに向かいます。とぼとぼと歩いていると黒白猫のコケモモが背中に飛びついてきました。コケモモはそのままわたしのフードの中に入りました。

「重いですよ、コケモモ」

「残念だ」

「ですね。ヴェルンはプライドが高いんですよ。普段は冷静なのに自分が軽んじられていると感じると感情的になるんです」

「ヴェルンの気持ちは分かる」

「そうですか?」

「お前は割り切りすぎだ」と、こけもも。

「…………。猫に言われてしまいました」


 そうですね。わたしの価値観で考えていたのでヴェルンも事件の隠蔽いんぺいを了承してくれるものと考えていました。でもわたしは戦争の当事者ではないですからね。ヴェルンの気持ちももう少し考えてあげるべきだったかもしれません。


「明日、謝りにいきましょうか……」


 なんてことを考えながらその日は眠りにつきました。しかし翌日。ヴェルンの小屋をたずねてみると、そこにはヴェルンの姿も使い魔の姿もありませんでした。それどころかヴェルンの小屋はきれいにまとめられていたのです。その様子はまるで、


"しばらく旅に出ます。探さないでください"


 と、言っているようでした。

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青い魔女と、死ぬと裸になってよみがえる魔女 秋山黒羊 @blacksheep1375

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