第29話 お礼
週を挟んだ月曜日。お昼ご飯食べている時、不意に蒼が口を開いた。
「そういえば、白雪さんの誕生日が今週末らしいよ」
「な、なんだと!? その情報は誠か?」
予想通り、びっくり食いつく大翔。僅かに身体が前に出る。
「昨日華ちゃんと話しててたまたま聞いたんだ」
「よくやったぞ、蒼。でかした」
鼻歌を歌いながら、白雪ノートを取り出した。またしてもどこから出てきたのか、謎だ。
書き書きとペンが動く。書き終えると、シュッと一瞬で消えた。マジックかな?
「そんな喜ぶことか?」
「当たり前だろ。ずっと秘匿されてきた情報だ。学校の七秘密に数えられているんだぞ」
「なんだよ、七秘密って」
意味がわからない。七不思議ならまだしも七秘密って。学校がなにを隠すんだ。名前を付けた奴誰だよ。馬鹿なのか?
「七秘密は俺が付けた名前だから、知らないのも無理はない」
「お前かよ」
馬鹿は目の前にいた。眼鏡をくいっと上げているが、アホなのは筒抜けだ。きりっとした顔が凄く残念に見える。
「この秘密、蓮も知らなかっただろ?」
「正確な日にちは覚えてなかったが、確かにそろそろなのは知ってたぞ」
「な、なんだと!?」
「一応10年同じ学校だぞ?」
「だからって、同級生の誕生日をそんなに覚えてるかね」
「小学生の時も中学生の時も白雪の誕生日は大分騒がれたからな。流石に記憶に残るっての」
白雪と同じクラスになった時のこと。教室の女子みんなから祝われ、色んな人からプレゼントを貰っていた。
同じクラスの時じゃなくても、白雪の誕生日の話題が教室に広がったこともある。
とにかくあいつの誕生日はやたらと騒がしかった記憶が強い。だが、思い出してみると、去年、高一の時はそういう話は聞かなかった。
何か察したようで大翔が小さく呟く。
「じゃあ、白雪さんの誕生日が周りに知られていないっていうのは……」
「まあ、そういうことだろ」
衆目に慣れていたとしても、あれだけ目立つのは疲れるのだろう。俺だったら30分で心が病む自信がある。
「そ、そうであったか。女神様の生まれた記念日ということで大々的に祝福したかったのだが……」
「やめとけ」
「そうか。でもそうすると間が悪いな。この前の勉強会のお礼を渡すかどうかの話を蒼としていたのに」
「お礼?」
「わざわざ時間を取ってもらってまで教えてもらったからな。お礼をするのが筋であろう?」
「そうそう。三人で買って、華ちゃんと白雪さんにて美味しいチョコとかでもどうかなって話してたんだ」
知らないところで、そんな話が進んでいたとは。まあ、実際二人にとってあの時間は最高の時間であったのは間違いない。
「蓮もどう?」
「俺?」
確かに、頼んだのは俺だし、渡すのが筋か。だが、白雪にお礼というのが、プライドを邪魔する。
そんな気持ちを見透かしたように、蒼は口を酸っぱくする。
「蓮だって白雪さんに教えてもらってたでしょ。ちゃんとお礼はしたほうがいいと思うよ?」
「うっ……」
悔しいが正論だ。仕方ない。仕方ない……か。渋々頷けば蒼が顔を輝かせた。
「やったね。大翔、これで渡せるよ」
「おう。でかしたぞ。蓮から渡して貰えば受け取ってくれるに違いないからな」
「いや、分からないだろ」
「俺の勘が大丈夫だと告げている。フラグが仕事してくれるはずだからな」
確信めいた表情の大翔。出たよ、謎理論。前から出てくるそのフラグってなんなんだ。
「それに蓮が白雪さんに渡せば、自然と蒼が七海さんに渡すことが出来るからいいこと尽くめだ」
「……そういうことかよ」
お礼をダシにして、さらに七海との接点を作りたいという蒼の思惑があったらしい。道理で蒼にしては中々強引だと思った。
「いやー、頼むよ。僕も華ちゃんに近づけるし、蓮も白雪さんと仲良くなれる。そして大翔は貢ぐことが出来る。win-winだしさ」
「俺は仲良くなるの望んでないんだが?」
ちょっと認識が異なる。眼科を勧めたい。
「俺が渡すより、大翔が渡した方が良くないか? 大翔だって直接渡したいだろ」
「お、俺が? 無理無理無理」
早すぎて顔が3つに見える。なんだ、その特技。
「緊張して死ぬし、断られたらより死ぬ。蓮、お前しかいないんだ。頼んだ」
「……はぁ」
蒼もだが、なんでそんなにビビリなのか。白雪に嫌われようが別にどうでもいいだろうに。
うるうると瞳を潤ませる大翔に押されて、放課後買いに行く約束まですることになった。
「これ、友達の話なんだけど」と恋愛相談したら彼女が赤面してる件〜あの、本当に友達の話ですよ?〜 午前の緑茶 @tontontontonton
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「これ、友達の話なんだけど」と恋愛相談したら彼女が赤面してる件〜あの、本当に友達の話ですよ?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます