第107話 手にした平穏
「改めて、この度はクリミアの街をお救いくださりまことにありがとうございました」
魔族との戦闘が終わり、数日ぶりに領主の館を訪れた僕らは、領主代行の地位に着いたリコリスさんに開口一番に頭を下げられる。
「ノアさん達がいなければローズ一人で魔族と戦うことになっていたでしょう。その場合、確実に我が娘は殺されていました。娘の話を聞くかぎり、魔族との戦闘はすさまじい余波を森へ与えたとか」
ギクリと僕の体が震える。
「た、たしかに魔族との戦闘は熾烈を極めました。こちらも魔族の展開する魔力障壁を突破するのに相当の魔力を消費しましたし、その……逸れた攻撃が周囲へどれほどの被害を及ぼしたのか、申し訳ないかぎりです」
「謝らないでくださいノアさん。わたくしは別にあなたの事を責めているわけではありません。むしろ魔族との戦闘があの程度の被害で済んだことを喜んでいるくらいなのです」
「は、はぁ……」
これはなんだ? 僕は怒られていると思ったが、どうやら違うらしい。
逆にめちゃくちゃ褒められてる気がする。
「わたくしは実際に魔族を目にしましたが、魔族の能力に関して詳しくは知りません。ですが、被害を抑えた末にそれでもあれほどの被害を生む魔法の使い手……かりにあの力が街に向いていたらと思うと全てが終わった今でもゾッとします」
「ま、まあ洗脳魔法もかけられていましたしね」
「お恥ずかしいかぎりです。首謀者たる我が夫は極刑に。今後はわたくしはこのクリミアの街を治めていきます」
「魔族による洗脳魔法は解けましたが、魔族による領地の改革や問題がまだたくさん残ってます。部外者の身で恐縮ですが、頑張ってくださいねリコリス様」
「ふふ。街を救った英雄にそう言われるとことさら頑張ろうという気になりますね」
「お母様、そろそろ雑談もその辺に。今日はノアさん達の報酬に関するお話をするために呼んだのでしょう? 無駄話が過ぎると時間の無駄ですよ」
僕とリコリスさんの会話にローズが口を挟む。
やれやれとリコリスさんが肩をすくめた。
「無駄話とはひどいじゃない。ノアさん達の活躍を讃えているのだから、重要な話だと思うけど?」
「たしかに内容は大事なお話です。ですが、街の外の被害報告など紙に書いた資料を渡せば十分でしょう? どう言葉を取り繕ったって無駄ですよ」
「まあまあ……だれに似たのかしら。せっかちねぇ」
仕方ないと言わんばかりにため息を吐いたあと、リコリスさんは会話を続ける。
「というわけでごめんなさいね? 娘がうるさいから話を次に移します」
「わたくしのせいにしないでください!」
「はいはい。……それで、ノアさん達に対する報酬のお話ですが……参りましたね」
「?」
「ローズの話によると、ノアさん達が望んだ報酬はこの街に滞在してる間の食事と宿代の負担だとか。しかし、街を救っていただいた英雄にその程度の報酬でいいものかどうか……」
「構いませんよ。もしかするとこの街にずっと滞在するかもしれません。そうなると食事代だけでもバカにならないかと」
「この街に留まってくれるんですか? でしたら宿代なんてケチな真似はせず、ノアさん達専用の家を用意しましょう!」
「いやいや! 冗談ですよ冗談! 僕たちは世界中を旅しようと思ってるハンターなので一つの街に長期間滞在することはないかと」
いきなり家をやるとは豪気だなこの人……。
ちょっと嬉しいと思ったが、せっかくの異世界だ。いろいろな景色や文化を見たい。最終的に帰ってくるならともかく、早期に骨を埋める場所を決める必要はないだろう。
「なるほど。でしたらひとまずこの街に滞在中の食費と宿代は全て無料にします。その上で他に何かお願いがありましたらその都度報酬を追加するということで」
「異存ありません。わざわざありがとうございます」
「いえいえ。何度も言いますがあなた方は街を救った英雄。本当なら次々に報酬を与えたいくらいなのです。……ではローズの言うとおり無駄なお話はこれで終わりにして、次は世間話でもいたしましょう。ね?」
リコリスさんが意地の悪い笑みでローズを見る。ローズは頬を赤くしてそっぽを向いた。
「お母様ったら!」
僕らは言い争いつつも仲良しな彼女たちを眺めながら、こちらへ話題が振られるまで穏やかに紅茶でも飲みながらゆっくりと待つ。
この平穏な光景が見れただけで、無理をしてまで彼女たちを助けた甲斐があるというものだ。
結局のところ、僕はこんな日常をずっと求めていたのだから。
———————————————————————
あとがき。
作者の都合により完結扱いとさせていただきます。
皆様のおかげで長く続けられました。ありがとうございます!
※追記
本作をリメイクした新作が出るかも……?
死亡フラグの立ったモブに転生した僕は、あえて勇者のパーティーから追放されてみた。転生特典を手に自由に生きる。え?勇者たちが問題を起こす?知らんがな 反面教師@6シリーズ書籍化予定! @hanmenkyousi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます