第106話 これにて一件落着
「ん……もう話はいいのかローズ」
急いで領主の館まで戻ってきた僕は、ローズの感動の再会に水を差さないため先に部屋のまえで待機していたアリシア達と合流した。
そして、こちらへ向かってくる騎士たちを蹴散らしながら少しの間待ってると、部屋の中からローズとその家族が出てきた。
ローズは僕の元気な姿を見るなり表情を輝かせる。
「ノアさん! ノアさんのほうはご無事だったんですね! 魔族の討伐、お疲れ様でした」
「あれ? 僕まだ魔族を討伐したとは言ってないけど……」
「そんなのすぐにわかりますよ。見てください。母様たちにかけられた洗脳魔法が解けたんです! だからきっとノアさんが魔族を倒してくれたんだろうなって」
「……なるほど。そう言えばそうだったね。よかったよローズの家族が無事で」
「本当にありがとうございました」
「ローズ、こちらの方々があなたの言ってた?」
僕とローズが話してると、彼女の背後から彼女によく似た顔立ちの女性がまえに出てくる。
気品溢れる佇まいは貴族のそれだった。勇者たちとよく似てるそれらしいオーラだ。
「ええ。こちらの男性がノアさん。魔族を倒しこの街を救ってくれた英雄です。後ろの女性たちはノアさんの仲間で、アリシアさんにシャロンさん、それとミュリエルさんです。彼女たちは母様の救出を手伝ってくれた恩人ですよ!」
「まあまあ! 魔族を倒した英雄! 事前にローズから話は聞いてましたが、本当に魔族を?」
「あはは……なんとかギリギリの戦いでしたが」
「よく言うわよ……無傷のくせに」
おーいアリシアさん。
余計なこと言わなくていいからね?
僕は決して英雄になりたいわけじゃないんだ。無駄に敵を作りたくもないし。
だから黙っててくださいお願いします。
「わたくしはローズの母、リコリス・クリミアです。あなた方には色々とお世話になったようで。正式な感謝はまた場を改めて。今は他にやるべきことがあるのでしょう?」
「ご明察の通りです。魔族を倒しこの街を支配してた洗脳魔法は解けました。しかし、洗脳魔法にかかわらず魔族に協力してた者は多い。この館の囲んでいる騎士たちもそうです。なので、ここは早く館を出て場所を移しましょう。ローズ、君のあの家なら問題ないよね?」
「ええ。数人程度増えても大丈夫かと。窮屈にはなりますが」
「じゃあ決定だ。移動を開始する。露払いは僕やアリシア達に任せてくれ。それと、——あれはどうする?」
僕は一度会話を区切って視線を横に向ける。そこは廊下の奥。魔族が唐突に逃げ出して不安になったのだろう、こちらへ向かってくる影が一つあった。
身なりから僕はすぐにそれが誰なのか察しがついた。ゆえにローズへ訊ねる。
最後に父親の処罰をどうするか、と。
そう。廊下の奥からやってきたのは豪華な衣装を身にまとった彼女の父親だ。救出された自分の家族とローズの顔を見て、男は困惑を浮かべる。
「ろ、ローズ? なぜ貴様がここに……それに、リコリス達にかけた洗脳魔法が解けているのか!?」
「お父様……こちらから出向く手間が省けましたね。お母さまにお願いしてもよろしいですか?」
「ええ。これも領主の妻となったわたくしの役目です」
そう言うとローズの母リコリスは一歩まえへ出た。先ほどまで浮かべていた笑みを消し去り、貴族然とした凛々しい表情を見せる。
「——魔族と手を組み己が領を私欲に巻き込んだ罪人ローレンスに告げる。大人しく自らの罪を認め罰をうけなさい。もはやあなたは領主ではありません」
「な、なにを! 俺はこの街の領主だ! なんの権限があってこの俺を解任できるという!」
「多くの証拠があります。それは後ほど見せるとして……ノアさん、お願いできますか? 無駄に話しを交わしても時間の無駄でしょう?」
「畏まりました」
恭しくリコリスさんに頭を下げて拘束系の魔法を発動する。
光る魔力の糸が元領主のローレンスとやらを縛りあげた。
「ぐうぅ——!? は、離せ! 俺は領主だぞ! こんな真似が許されるとでも……」
「元領主だよ。あんまり喚くと縛りをキツくするけどいいの?」
僕がそう言うと男は悔しそうに黙った。
浮かべた表情には気に喰わないといった感情が読み取れる。
だが僕は身体強化しローレンスをかつぎあげると、そのまま移動を開始した。
この男の処遇はローズやリコリスさん達に任せよう。僕たちの役目はただ彼女たちを安全な場所に移すだけだ。
徐々に異常を察知した騎士たちが館に入ってくるのを魔力探知で捉えた僕は、急いでここを離れるようローズ達へ告げる。
こうして、本当の意味での作戦は終了した。
なんやかんやで大団円になったと思う。忙しくなるのはこれからだとは思うが。
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