第105話 作戦終了
「くぅ——!? まだ魔力が上がるのか!」
僕の魔力放出量が上昇し、今まで攻撃をし続けていた魔族が苦悶の声をもらす。
いい加減、魔法を撃ち合うだけの戦闘には飽きた。そろそろアリシア達のほうも作戦が進んでるし、僕も覚悟を決めるときがきたね。
「悪いけど、そろそろ終わらせてもらうよ。色々と用事があるんだ」
「ふざ、けるなぁ! 俺は、俺は……!」
「いや、終わりだよ。周りの影響をある程度無視すれば——最初から僕の有利は揺るがない」
先ほどの倍以上もの出力で魔法を撃ちだす。ギリギリ防いでいた魔族の魔力障壁がすさまじい速度でガリガリと削られていく。
「あ、ありえん!? ただの人間がこれほどの魔力を……。よもや魔族以上の……魔王に匹敵するほどだというのか!?」
こちらの攻撃が肉体にまで及びはじめた魔族は、高熱の攻撃をうけて絶望の声をだした。
もはや魔力障壁でしのぐことすらできぬほどの熱は、魔族の強化された肉体すらたやすく焼いていく。
「ダメだ……このままでは……体が、もたない……!」
魔力障壁がほぼ完全に焼き切れる。再び魔力障壁を張り直して対抗するが、僕の魔法は一切威力が減少しない。永遠に魔族が防ぎきれないほどの出力を維持して敵を焼く。
「悪いが一片の肉片すら残ると思わないでほしい。このまま押し切るぞ」
「嫌だ! 俺は魔族だ! もう少しであの街を完全に支配下に置けるところだったのに! 俺の準備が……俺の命があああぁぁあ!」
魔族の叫び声がきこえた。
僕の放出した魔法を超えて悲痛な叫びがきこえた。
しかし、僕は手を緩めない。どんな理由があろうと僕と敵対した以上は相手を見逃すことなどできない。
街を救うため、ローズを救うため、何より僕がそうしたいと思ったから……僕は最後の最後でさらに魔法の威力を底上げした。
そして、完全に炎の渦が敵を呑み込み全てを灰にする。
あとに残されたのは、焼け焦げた森と虚空のみ。
僕が言った通り……魔族の体は肉片すら残さず焼け消えた。
「終わった、か……。全力で魔族が魔力障壁を張ってくれたおかげで想像より周囲の被害が軽いな。これならすぐにでも魔物が戻ってくるかもしれない。……うん、そう思っておこう」
大惨事に終わった戦闘の跡地を見て、僕は視線を咄嗟に逸らす。
これは必要経費だったと割り切り飛行の魔法を維持したまま来た道を戻る。
魔力探知でローズ達の様子を確認すると、彼女たちは彼女たちで目的地には到達していた。すぐにでも逃げはじめるだろうから、僕も彼女たちとの合流を急ぐ。
鼻をつくような臭いに表情を歪めたまま、僕は速度をだして館のほうへ飛んだ。
▼
場面は変わってローズ達。
騎士を吹き飛ばしローズの家族がいると思われる部屋に入ったローズ。
彼女のまえには彼女の家族が揃っていた。
「母様……」
虚ろな表情を浮かべたままの実の母を見て、ローズは涙を浮かべる。
ようやく彼女はここまできた。
父が魔族を街へ招きいれてそれなりの時間がたった。家を飛び出し父と敵対することを決めた彼女は、これまでに何度この瞬間を待ち侘びたか。
まだ洗脳魔法こそかかってるようだが、それでも目の前に、手の届く範囲に自分の母親がいる。
ホッと胸を撫で下ろし母親のそばに寄った。
「たいへん長らくお待たせしました。ローズが母様たちを助けに来ましたよ」
ローズは母親の手を握りしめて涙を流す。
ポタポタと彼女の涙が母親の手にかかり、そのタイミングで奇跡が起きた。
「——ローズ……?」
「母様!?」
唐突に、彼女の母親が声を出したのだ。本来は洗脳魔法で自由を縛られているはずなのに。
見ると、ローズの母親の瞳には輝きが戻っていた。もしかして! そう思ったローズは周囲を見渡す。彼女の予想通り、母親だけじゃない。他の家族の瞳にも輝きが戻っていた。
「まさか……本当にたった一人でやったというの? ノアさん……」
これは恐らく、洗脳魔法をかけていた魔族がノアの手によって倒された証だと即座にローズは見抜く。
事前にノアから洗脳魔法の特性を聞いていたがゆえにそう思えた。
終わったのだ。全て、終わったのだ。
ローズは激しい感情を抱いて涙をどんどんこぼしていく。
「ろ、ローズ? どうしたの? というより、何がなんだか……」
ローズの急激な変化にうろたえる彼女の母親。そんな母の無事な姿を見て、ローズは不意に笑ってしまった。
母の浮かべる表情が前となんら変わらないからだ。
戻ってきた。あの時の日常が戻ってきた。それがあまりにも嬉しくて彼女は笑いながら、泣きながら言った。
「母様には、色々とお話したいことがあるんです。きっと疑問も解けますよ。とある英雄の物語を——」
こうして、魔族を倒したノアだけでなくローズのほうも無事に作戦を終える。終わってみるとあっけない最後だった。
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