第104話 ぶっ壊れチート

 魔族と僕の戦いは熾烈を極めた。


 魔族は僕の魔力障壁を抜けず、片や僕は手加減したままではなかなか魔族の魔力障壁を貫けない。


 お互いに魔力を放出し続ければ持久戦で僕が勝つのは明白だが、このままだと最終的に魔族が周囲の地形を平らに変えてしまうだろう。


 そうなれば手加減した意味がない——とは言わないが尋常じゃない被害がクリミアの街に出る。


 少なくとも破壊の痕跡があったこの辺りの魔物は遠くへ逃げるだろう。


 ハンター協会は実質、魔族が掌握する犯罪者集団なので本来の機能を取り戻すまでに時間がかかるとはいえ、しばらくの間、ハンター達の収入……仕事が減るのは確実だ。


 もしくは逃げた魔物が街のほうへ向かう可能性がある。


 かと言って魔族の展開する魔力障壁を突破するほどの威力となると、現在、魔族が僕の障壁を破壊しようと使ってる魔法より威力を高めねばならない。


 そんな攻撃、もはや前世でいうところの兵器だ。地形を破壊するだけでなく、漂った魔力の痕跡が魔物や動物をさらに遠ざける。


 魔族の攻撃だけならしばらくの間、地形を直せば元にもどるがそこに僕が手を加えればより元の状態へ戻るまでにとんでもない時間を要する。


 魔力とは万物が宿すものがゆえに、一定以上の魔力による影響はあらゆる生物が受ける。


 こういう時、魔力のそういった特性のようなものは厄介だね。


 おかげで僕は攻めあぐね、魔族と接戦を演じている。


「うーん、もっとこう近づいて物理的に殴るべきか……。けど、身体強化には限界がある。拳を振り抜くだけで相手の魔力障壁を抜けるなら、はなからお互い魔法なんて使ってどんぱち撃ちあわないよね」


 そう言いながらさらに威力を上げた魔法を放つ。


 高火力の衝撃が魔族の魔力障壁を襲い、必死に魔力障壁を維持する魔族の表情が歪んだ。


「ぐぐ! また魔法の威力が上昇した、のか? とことん理不尽な奴だ……。あれだけの魔力障壁を展開しながらこちらを攻撃してくるとは。しかもどれほどの魔力を持ってるんだ? 今だ攻撃も防御も衰える気がしないぞ」


 魔族が放った暴風が止まる。


 どうしたのかと首を傾げようとした僕の頭上に、今度は巨大な炎の球体が落ちる。


 継続的にダメージを生み出す風の魔法はやめて、一点特化の火属性に変えたらしい。


 とんでもない熱量が周囲の自然を灰と化す。


 ただでさえ暴風が地面を削りクレーターを作ったというのに、今度はじりじりと広範囲の自然を焼きはじめた。


 おいこら。魔族。おまえにとってはどうでもいいかもしれないが、知り合いのまち近郊を焦土に変える気か!


 いくら魔法でも失った自然を取り戻すには相当な労力と時間がかかるというのに。


「火なら……こっちは水、かな」

「なに——!?」


 魔力障壁に遮られた炎の球体は、それでも圧倒的な熱量を保ったまま空中に留まる。


 厳密には僕の魔力障壁とぶつかって勢いが止まったにすぎないが、そんな魔法の周辺に魔力によって作られた水の膜を張る。


 どんどん高熱により液体は蒸発していくが、蒸発しきるより先に次から次へと水を生成し続ける。


 そんな複数の魔法を同時に展開し続ける僕の姿に、魔族はありえないといった表情を浮かべた。


「人間が同時に魔法を三種類も展開するだと!? よもや貴様……人間の皮を被った魔族ではなかろうな」

「まさか魔族に魔族認定されるとは……何度も言ってる通り僕は人間だよ。ちょっと特殊な、ね」


 ここまで自分の魔力を解放したのは生まれてはじめてだ。


 この世界へ僕を転生させた何者かが与えた恩恵のチートっぷりに、改めて僕自身が戦慄する。


 魔族相手にこれほど有利に立ち回れるのなら、やはり僕の手で魔王を倒すこともできるのだろう。


 べつに魔王を倒すのに特別な資格が必要なわけでもないし。


 勇者が魔王を倒すのは、勇者が人類至上最高の能力と才能を持つからだ。


 強者であればべつに勇者でなくていい。


 死亡フラグの件があったからあまり積極的にストーリーに関わろうとしなかったが、いざとなったら僕が魔王を倒すのも一つの手かな。


 こうして戦ってると、不思議と自信がわいてくる。


 だが、そろそろ時間だ。これ以上の戦闘は余計な被害を出す。


 周囲の地形へ甚大な影響を及ぼすが、とっとと魔族を倒して街に帰ることにしよう。


 予想以上に手ごわい魔族を相手に、僕は一種の諦めににた感情を抱いた。


 そして、これまで以上に魔力を練りあげていく。

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